VTuber事務所が立て続けに上場! 世界の市場規模は数千億円!?
キャラクターの姿をした配信者「VTuber」がいま注目のワケ
「VTuber」とは、「バーチャルYouTuber」の略。アバターを使って動画配信などを行う配信者のことを指すが、実は投資の世界で注目のキーワードになってきている。
VTuberグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLORが2022年6月に東証グロース市場に上場し、ちょうど1年後の2023年6月に東証プライム市場に移行した。また、VTuberグループ「ホロライブ」を運営するカバーも、2023年3月に東証グロース市場に上場と、VTuber事務所を運営する会社の上場が相次いでいるのだ。
なぜ、VTuberがこれほどまでの盛り上がりを見せているのか、ポップカルチャーメディア「KAI-YOU Premium」編集長の新見直さんに聞いた。
VTuberビジネスのカギは「グッズ展開」
「VTuberとは、バーチャルの姿の配信者のことで、アニメ風のキャラクターの姿で配信していることが多いといえます。そのスタートは2016年、キズナアイさんというVTuberが活動を始め、追随する方々が増えていった2017年は“VTuber元年”といわれています。当時は収録した動画の公開が中心でしたが、現在はゲーム実況や雑談配信といった生配信をして、ファンと交流する活動が中心になっています」(新見さん・以下同)
活動自体はYouTuberと近いものがあるようだが、VTuberならではの特徴があるという。
「ユニークな点としては、『にじさんじ』『ホロライブ』のような事務所に所属しているVTuberの場合、アバターのIP(知的財産)は企業側に帰属していることが多いという点。そのため、YouTuberと比較すると、人気になったタレントが独立や移籍してしまうというリスクが薄い、とはいえそうです。また、IPが企業にあることで、グッズ展開などがしやすいという強みにつながることも考えられます」
「グッズ展開」は、VTuber自身や事務所にとって大きなキーワードとなるようだ。というのも、収益の多くはグッズから生み出されているから。
「VTuber事務所の決算資料を見ると、売上は大きく4つの事業で構成されていることがわかります。(1)動画再生数やメンバーシップの売上などの『ストリーミング事業』、(2)音楽ライブの配信チケットなどの『イベント事業』、(3)コラボグッズやCMなどの『プロモーション事業』、(4)グッズ販売などの『コマース事業』の4つで、上場企業のANYCOLORでは、コマース事業が中心となっています。VTuberのボイスデータの販売などに力を入れているのが大きいと考えられます」
配信者というと、動画の再生数や生配信での投げ銭が収益の中心になるイメージだが、VTuberはアバターというキャラクターとして存在しているからこそ、グッズ展開といったビジネスが成り立つ。
「ファンとの接触機会を増やすという意味で、生配信は大切な礎の部分ではあるのですが、収益としては大きくないという現実があります。それを上回るくらい、グッズが購入されているという点は、日本のアニメーション業界と似ているかもしれません」
いまVTuberが盛り上がりを見せている理由
そもそも、なぜVTuberは盛り上がりを見せているのだろうか。新見さんは「さまざまな理由が作用し合っている」と、話す。
「VTuberがブレイクした理由のひとつには、コロナ禍があります。緊急事態宣言下で可処分時間を持て余した人が多く、そのすき間時間を埋める手段としてVTuberが注目され、人気が加速したと考えられます。夜中から明け方までゲーム実況をするなど、長時間配信をするVTuberが多いこともあり、コロナ禍とインドア需要にハマったのだといえます」
近年、公開された動画の一部だけを切り取る「切り抜き動画」が増えていることも、VTuberのブレイクを手助けしているという。生配信の「切り抜き動画」が出回ることで、配信を長時間見続けられない人も部分的に楽しめるからだ。
「また、コロナ禍でVTuberに限らず、歌い手やストリーマー、プロゲーマーなども生配信を行うようになり、ジャンルをまたいでコラボする機会が増えていきました。VTuberと顔出ししている配信者がコラボすることで、それぞれのコミュニティの壁が融解して、ファンが流動的になり、VTuberの認知度が上がった。その結果、ファンが増えたという側面もあります」
また、ファンの在り方も、VTuberには独自の文化が築かれているそう。
「VTuberのファン層はZ世代が中心であることに加え、ロイヤリティ(商品に対する愛着や忠誠)が高いという特徴があります。YouTubeチャンネルのランキングが見られる『PLAYBOARD』というサイトでは、視聴数ランキングだと母数の多い英語圏のYouTuberが上位になるのですが、年間のスーパーチャット(投げ銭)ランキングになると日本のVTuberが上位に来るのです。いわゆる“推し”に対してお金を落とす文化ができているのだといえます」
さらに、日本の同人文化との相性の良さも、VTuberが盛り上がっている理由に挙げられるという。
「基本的にアニメーション業界などは公式IPのファンアート(※)を黙認するイメージですが、VTuberは二次創作に寛容で、ファンアートを自ら拡散するようなところがあります。公式的に認めてもらえると、ファンもうれしいですよね。そのためか、コミケでもVTuber関連の出展が多くなってきています」
※既存の作品やキャラクターをもとに作成された二次創作物のこと。
日本の状況や文化との相性が良さそうに感じられるVTuberだが、その盛り上がりは海外にも伝わり始めているようだ。
「現状VTuberの経済圏は日本が主流ですが、ANYCOLORやカバーが英語圏で活動する英語ネイティブのVTuberグループを立ち上げて展開し始めていますし、海外発のVTuberも出てきています。“VTuber元年”といわれた2017年当時は、2022年の世界のVTuberの市場規模は約600億円といわれていましたが、ふたを開けてみると数千億円規模になっています。中国の調査会社の予想では、2028年には2兆5000億円規模になるという予想が出るほど、市場の広がりが期待されているのです」
Vtuberはもちろん、周辺技術も要チェック
世界レベルで盛り上がりが期待されているVTuber。上場企業も出てきているが、投資先と捉えることはできるだろうか。
「投資先としての期待値がどうかという話は私にはわかりませんが、ANYCOLORやカバーに続いて、新興のVTuber事務所が上場していけば、さらに盛り上がる可能性はあります。また、事務所以外に、VTuberの関連企業に注目するのもありだと思います。例えば、ゲーム会社のユークスは、アバターをリアルタイムで表示させるリアルタイムレンダリングエンジンを開発し、大人気VTuberの星街すいせいさんのライブ制作に参加しました。その効果か、昨年から株価が上がっています」
VTuberそのものだけでなく、リアルタイムレンダリングエンジンやVRゴーグルなど、進化を続けている周辺技術も要チェックといえそうだ。
「超高齢化社会の日本において、VTuberは若いファンがついていて、成長性が期待できる珍しいジャンルのひとつといえます。企業がVTuberを起用するケースも増えてきていて、最近だと東洋証券が株式セミナーの司会にVTuberを起用していました。コンビニに行けばコラボ商品があり、テレビをつければ音楽番組にVTuberが出ている時代になっているので、投資家から注目が集まるのも自然なことなのかなと感じています」
カルチャーとしてだけでなく、ビジネスとしても注目が高まるVTuber。特に若い世代にとっては、推しのVTuberやその事務所の存在が、株や投資に興味を持つきっかけになるかもしれない。
(取材・文/有竹亮介(verb))