「介護した分上乗せ」はない?

親を介護した子どもの方が遺産を多くもらう方法はあるのか

提供元:Mocha(モカ)

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「親の介護をしたから、他の兄弟姉妹よりも遺産を多くもらえるはず」と考えている人も多いのではないでしょうか。残念ながら、介護した分遺産を上乗せで相続できるという法律はありません。介護した分確実に遺産を多く受け取るためには、介護する前から対策を行う必要があります。

介護しても遺産を多くもらえるとは限らない!介護と相続の現状

介護をしたから遺産分割で有利になるということはありません。「介護1ヶ月につき遺産〇割を上乗せでもらえる」というような法律はなく、介護と相続は切り離されて考えられます。

民法では、誰がどれだけ相続できるかが定められており(民法第900条)、この相続割合を法定相続分と呼びます。たとえば、父・母・長男・長女の家族構成で父親が亡くなった場合、各法定相続分は母親が1/2、長男が1/4、長女が1/4になります。

実際の遺産分割では、法定相続を参考にしながら、話し合いによって遺産の分け方を決めていきます。相続人全員が同意すれば法定相続通りに分けなくても問題ないので、介護しなかった相続人が、「介護してくれてありがとう。遺産を多めに受け取って。」と言ってくれれば、遺産を多めに受け取ることができるでしょう。一方で、相続人の一人が「介護と相続は別。遺産は法定相続通りに分けるべき。」と主張してきたら、遺産を多く受け取るのは難しくなります。

法定相続通りに遺産分割するとなると、介護の苦労が報われないですよね。しかし、実際に相続の現場では介護が考慮されないケースは少なくないのです。

「寄与分」という救済制度があるが、なかなか認められにくい

このような介護の不公平を正すために、「寄与分」という制度があります。寄与分とは、療養看護などにより亡くなった人の財産維持に貢献した場合、貢献度合いに応じて遺産を多めにもらえる制度です(民法第904条の2)。

しかし、実際には寄与分を主張してもなかなか認めてもらえません。寄与分も結局のところ相続人全員が認めないと受け取れないので、「遺産は法定相続通りに分けるべき」と主張している相続人が、簡単に認めるとは考えにくいからです。

話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てて決着をつけます。しかし、調停で寄与分を認めてもらうには、介護の状況が「仕事を辞めて数年間、無償で昼夜つきっきりで介護していた」レベルで、かつその事実を客観的に証明できる証拠資料(要介護認定通知書や診断書、介護日誌など)が必要です。求められるハードルがかなり高いので、認めてもらうのは容易ではないでしょう。

さらに、ようやく寄与分が認められても、もらえる寄与分は予想より少なくなることがほとんどです。寄与分の金額は、厚生労働省が定める介護報酬基準額に、身内が介護したことを考慮する裁量的割合を乗じて算出します。裁量的割合は、ケースにより異なりますが、0.5〜0.9が一般的です。たとえば要介護3の父親を3年間介護した場合の寄与分の目安は、《5,840円(要介護3の介護報酬基準額の日当)×3年×365日×0.7=約448万円》です。

もっとも、3年間身を粉にして介護してきた対価が448万円では、納得できないと感じる人も多いでしょう。

このように、親が亡くなった後では「寄与分」の制度に頼る他ありませんが、寄与分も確実に、かつ十分にもらえるわけではありません。介護した分の遺産を確実に受け取るためには、介護を始める前から対策を行うことが重要です。

介護した分遺産を確実に多く受け取るための3つの方法

介護した分遺産を確実に多く受け取るためには、あらかじめ次のいずれかの方法を行うようにしましょう。

・負担付死因贈与
・遺言
・生前贈与

この3つの中では、負担付死因贈与がおすすめです。負担付死因贈与とは、「自分が亡くなったら財産をあげるから、〇〇をしてもらう」という条件付きの贈与契約のことです。

介護の場面では、「遺産をあげるから最後まで介護をしてね」とあらかじめ取り決めておくことができます。負担付死因贈与契約を結ぶことで、親は「最後まで介護してもらえる」という安心感を得られ、介護する子どもは「介護をすれば財産をもらえる」という安心感を得られ、お互い気持ちよく介護生活を送ることができるでしょう。

遺言や生前贈与という方法もありますが、遺言だと子どもには「遺言の内容が分からない」という不安が残り、生前贈与だと親に「最後まで介護してもらえるか分からない」という不安が残ることを理解しておきましょう。

どの方法で財産を渡すかは、家族でしっかりと話し合って決めるようにしてください。

まとめ

親が亡くなってしまった後では、相続のためにできることは限られており、遺産を多く受け取れる保証はありません。親と死後のことを話し合うのは気が引けますが、後悔のない介護にするためにも、事前にしっかり話し合って相続対策を進めておくようにしましょう。

[執筆:相続ライター 角田直子]

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