NISAやiDeCoも差し押さえに?

自己破産になったらNISAやiDeCoはどうなる?差し押さえにならないものはあるのか

提供元:Mocha(モカ)

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2022年の自己破産件数は64,833件。自己破産をすると、借金の返済義務からは解放されますが、保有している財産は没収されてしまいます。

しかし実は、差し押さえられる財産とそうでない財産があることをご存知ですか。どのような財産が差し押さえられるかを知っておくことで、資産形成を促す各種制度や公的給付の上手な活用法が見えてきます。

そこで今回は、話題のNISAやiDeCoを中心に、自己破産をしたときに差し押さえられる財産と、そうでない財産を解説します。

自己破産をしても差し押さえされない財産がある

自己破産をすると借金の返済義務からは免れますが、保有している財産は没収(差し押さえ)されてしまいます。

しかし、すべての財産が差し押さえられるわけではなく、自己破産後の生活に最低限必要な財産に関しては、差し押さえされません。破産した後も保有できる財産の中でも、99万円以内の現金と、民事執行法やその他法律で差し押さえることができない財産に関しては、破産法第34条3項で守られた「本来的自由財産」と呼ばれます。

●民事執行法に基づいて差し押さえされない財産

民事執行法は、差し押さえできない動産(第131条)と差し押さえできない債権(第152条)を、それぞれ定めています。

例えば、第131条によると、「債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具」は差し押さえられません。
さらに、第152条によると、給料や退職金債権はこれらの4分の1相当額までしか差し押さえられません。

●その他法律で差し押さえることができない財産

民事執行法以外にも、公的年金や生活保護などの公的給付を受給する権利については、それぞれの法律において差し押さえを禁止する条文が設けられています。

<国民年金法第24条>
給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、老齢基礎年金又は付加年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。

<厚生年金保険法第41条>
保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、老齢厚生年金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない。

このように、自己破産をしても、現在および将来における最低限の生活に必要な財産については、しっかり法律によって守られているのです。

iDeCoは確定拠出年金法で差し押さえが禁止されている

個人型の確定拠出年金であるiDeCoは、公的年金に上乗せして自分で設計できる「私的年金」という位置づけで、確定拠出年金法という法律に基づいて運営されています。確定拠出年金法も、国民年金や厚生年金保険と同様に、差し押さえを禁止する条文があるのです。

<確定拠出年金法第32条>
給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。ただし、老齢給付金及び死亡一時金を受ける権利を国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押さえる場合は、この限りでない。

公的年金およびiDeCoは、老齢や障害、死亡といったリスクが生じたときに、各制度からの(保険)給付を受けることができますが、真っ先に思い浮かぶのは老齢期の給付だと思います。自己破産をしても、公的年金とiDeCoで、老齢期の財産だけは手厚く守れていることは、何よりの安心材料と言えるでしょう。

iDeCoの差し押さえに関する2つの注意点

これまで、国民年金法、厚生年金保険法、確定拠出年金法における差し押さえを禁ずる条文を紹介しましたが、共通する注意点が2つあります。

●iDeCoの差し押さえに関する注意点1:税金の滞納処分によって差し押さえられることも

条文では共通して、「国税滞納処分(その例による処分を含む。)により差し押える場合は、この限りでない」というただし書きが設けられています。

例えば、税金の滞納をしている状態で自己破産を受けた場合、自己破産から受給権を守ることはできますが、税金の滞納を理由に差し押さえられる可能性はあります。

●iDeCoの差し押さえに関する注意点2:すでに預金口座に振り込まれた財産は差し押さえ対象

差し押さえが禁止されているのはあくまで「(保険)給付を受ける権利」です。将来受け取れなくなる心配はいりませんし、すでに年金の受給が始まっている状態で自己破産をしても年金の受給は停止されません。

しかし、すでに預金口座に振り込まれた年金は、振込先の預金口座が差し押さえ対象になると、差し押さえからは免れない点に注意が必要です。

NISAや個人年金保険は差し押さえられてしまう

iDeCoの他にも、個人で老齢期に備えるために活用できる制度はいくつもあります。公的年金や勤務先を通じて加入できる退職金、企業年金制度も含めて、差し押さえ禁止財産かどうかという観点では次のように分類することができます。

●差し押さえ禁止財産
・国民年金(付加年金を含む)
・厚生年金保険
・国民年金基金
・厚生年金基金
・確定給付企業年金
・確定拠出年金(企業型・iDeCo)
・中小企業退職金共済
・特定退職金共済
・小規模企業共済

●差し押さえ対象財産
・NISA
・個人年金保険

NISAで保有している株式や投資信託は、投資の一環として保有していると扱われるため、生活に必要最低限な財産とはみなされず、自己破産をするとNISA口座は差し押さえられて、換価されることになります。同様に、民間保険会社との契約である個人年金保険も、差し押さえの対象となります。

iDeCoは、原則として60歳まで引き出せない点をデメリットとして指摘されることがありますが、年金としての性質を持っているからこそ、差し押さえ禁止財産として、受給権が保護されています。

iDeCoを含めた差し押さえ禁止財産で老齢期の生活に最低限必要な資産用意しつつ、よりゆとりのある生活を送るための資産はNISAや民間の個人年金保険を活用して用意する方が望ましいと言えるでしょう。

まとめ

今回は、自己破産をした場合に「差し押さえられる財産」と「差し押さえされない財産」について解説しました。

自己破産という事態に直面しないことが望ましいとはいえ、人生何が起きるかわかりません。国民年金や厚生年金をはじめとする公的給付はまず私たちの身を守ってくれますが、それに上乗せする資産形成という観点では、NISAや民間の個人年金保険などを活用するよりも、iDeCoを活用することで老齢期の資産だけは守ることができます。
人生100年時代、それぞれの制度や商品の長所を活かした資産形成が何より重要です。

[執筆:ファイナンシャルプランナー 神中 智博]

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