乙武先生!金融教育、見にきてください

乙武洋匡がゲームで生涯設計を学ぶ。第一生命が「ライフサイクルゲーム」をリリースしたワケ

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早期の金融教育の必要性が指摘されて久しい昨今、最近では子どもや学生を対象とするさまざまな取り組みが見られるようになった。そこで「東証マネ部!」では、教員経験を持つ作家の乙武洋匡氏をレポーター役に、金融教育の最前線を追っていく。

第2回となる今回は、結婚や住宅購入、定年退職などのライフイベントをすごろく形式で疑似体験できる、「ライフサイクルゲーム」に注目。第一生命保険株式会社は、なぜこうしたツールを開発、運用するに至ったのか? 同社・カスタマーファースト推進部 消費者志向推進室の藤脇智恵子氏に話を聞いた。

約20年前から求められていた消費者教育・金融保険教育ツール


乙武 藤脇さんが所属されているカスタマーファースト推進部というのは、どのような役割を担う部署なんですか?

藤脇 大まかに3つの部門に分かれていまして、1つはお客さまの声を分析して業務改善やお客さま満足向上を図る部門、もう1つはお客さまからのお申出を一元管理して各支社のお客さま対応支援の指導を行う部門、そして私が所属している消費者志向推進室では、有識者など社外の方からの意見をヒアリングして経営改善に活かす委員会の運営などを行っています。また、変わったところでは「Yahoo!知恵袋」内の企業公式アカウントで回答するのも私たちの役割ですね。

乙武 すると、消費者志向推進室は3つの部門の中でも、最も双方向性のある部署と言えそうですね。そうした部門がなぜ、「ライフサイクルゲーム」を作ることになったのか、経緯を簡単に教えていただけますか。

藤脇 「ライフサイクルゲーム」は意外と歴史が古くて、2004年にスタートした企画になります。教育の現場から、金融について楽しく学べる教材がほしいという声があがっていたことがきっかけではありますが、そもそも私共としても、生命保険会社として若いうちから生涯設計についての理解を促す必要性を感じていたため、こうした取り組みが生まれました。

乙武 なんと、19年も前から始まった企画なんですね。金融教育が求められ始めたのは比較的最近の印象ですが、実際にはかなり前から必要性が指摘されていた、と。

藤脇 そうですね。ただ、時代によって求められる金融商品も変わりますから、2004年のリリース以降、これまでに2度ほどバージョンアップを行っていて、直近では昨年4月、成人年齢の引き下げや高校での金融教育必修化に合わせて改訂を加えています。なお、私が担当になったのはその1つ前、バージョン2の時からです。

乙武 初めて「ライフサイクルゲーム」に触れた時、率直にどのような感想をお持ちになりましたか?

藤脇 お金について学ぶには非常に良いツールだと感じましたが、当時は社内で「ライフサイクルゲーム」を知っている人はほとんどいなかったんです。学校など社外では口コミで少しずつ広まりつつあったのに、逆に社員のほうが「それ何?」という状態で……(苦笑)。せっかくこんなに良いものがあるのだから、どうにかして活用の機会を広げていかなければと思いました。

生涯設計の知識をゲーム感覚で身につける


乙武 社内での認知度を上げるといっても、きっと簡単なことではないですよね。まず、どのようなことから手を付けたのですか?

藤脇 研修や会議の場で、とにかくこのゲームの存在をアピールすることから始めました。また、私たちは普段、この「ライフサイクルゲーム」を学校に持参して出張授業を行っているのですが、同じように各支社の人たちにもプレイしてもらったところ、「確かにこれはいいね」と、ポジティブな意見が社内に少しずつ増えていったんです。

そうした地道な取り組みを続けてきたことに加えて、昨今の金融教育や消費者教育へのニーズの高まりが追い風になり、ここ4~5年でだいぶ社内外での認知度が高まったように感じています。

乙武 なるほど。ちゃんと成果に結びついたのも、中身が充実していればこそだと思います。こうして現物を見せていただいていても、私たちが子どもの頃から慣れ親しんできたボードゲームの感覚が上手に生かされていて、非常にとっつきやすいですよね。

それに、マス目に書かれているイベントが実に興味深いです。「結婚」や「子どもの誕生」もさることながら、「生命保険の加入」や「投資信託の購入」、さらには「iDeCo加入」なんてマスもある(笑)。そもそも、すごろく形式を採用された狙いは何だったのでしょう?

藤脇 単なるチラシのような教材よりも、ゲーム感覚で楽しみながら学んでほしいということに尽きると思います。というのも、私共は生命保険会社なので、たとえばお父さんが亡くなってしまった場合、残された家族が生きていくためにいくらくらい必要なのかという試算を、日頃から業務として行っています。そのノウハウを最大限に活かしながらゲーム化するなら、やはりこういう形がベストだったわけです。

乙武 対象年齢でいうと、中学生や高校生あたりですか?

藤脇 そうですね、オファーをいただくのは中学校と高校が多いです。ただ、最近は小学校からも出張授業のご要望が増えていますし、逆にシニアの方で関心を持たれる方もいらっしゃいます。また、企業研修などで活用の機会を提供してもいます。

乙武 それだけ金融教育、生涯設計に対する関心が高まっているということですね。ちなみにマネタイズという点では、どのような仕組みになっているのでしょうか。このゲームと授業をセットで販売する形ですか?

藤脇 いえ、基本的には社会貢献の一環ですので、無償で提供しています。ただ、まとまった数を買い取りたいというご要望をいただくことがあるので、その場合は個別に販売対応している状況です。

乙武 確かに、これは素敵な社会貢献ですよね。現在、どのくらいの引き合いがあるんですか?

藤脇 ゲームの提供数でいうと、昨年1年間で1万500セットほど。さらに出張授業がおよそ1000回という数字になります。これはそれぞれ、前年比で200%増(ゲーム提供数)と350%増(出張授業)と、我々としてもかなり需要が拡大しているのを感じています。これもやはり、金融教育が注目されていることの証しでしょう。

乙武 それは凄い。なおさら、ちゃんと販売して事業にしたほうがいいのでは?(笑)

藤脇 そういうご意見もよくいただくのですが(笑)、最近は各支社に出張授業の講師を担当できる人財も育ってきていますし、当面は現状のままでと考えています。

遠方でのニーズに向けてオンライン版も登場

乙武 私も小学校で教員をやっていた経験があるので、教育現場でこの「ライフサイクルゲーム」が求められるのも、よく理解できるんです。小学校の場合、お金についての学習を行うとなれば、「総合的な学習の時間」という枠の中で授業を行うことになるのですが、教科書など何もない中で金融を教えるのって、やはりすごく難しいんですよ。

一人ひとりの教員が0から準備をしようと思うと、とてつもない負担がかかってしまいますから、こういうツールが存在して、プロの方が教えに来てくれるというのは、教員にとって本当にありがたいことだと思います。きっと、需要はまだまだ増えるでしょうね。

藤脇 そうですね。教員の方の負担をいかに軽減するかは、いまや社会課題として注目されていますから、我々が少しでもそこをサポートできれば幸いです。

乙武 ところで、「ライフサイクルゲーム」はオンライン版もリリースされていますよね。こちらはどのようなものですか。

藤脇 オンライン版は今年の3月にリリースしたもので、内容はボード版とまったく同じです。以前から、私共が出張しにくい遠隔地の方からもご要望をたくさんいただいていたので、こうしたオンライン版を開発するに至りました。たとえば企業研修の一環で使っていただく際などは、こちらのオンライン版を利用される方が多いですね。

乙武 オンラインならではの反響の違いみたいなものはありますか?

藤脇 ボード版ではお金の計算を自分でやらなければなりませんが、オンライン版では自動で計算されるので、その点は楽でいいとよく言われます(笑)。

乙武 なるほど。最近はキャッシュレス決済が浸透していますから、それはそれでリアルでいいかもしれませんね(笑)。

藤脇 そうですね。やはり場所や環境を問わずプレイしていただけるのはメリットですので、こちらの活用も進めていければと考えています。

乙武 この低金利に加え、少し前に話題になった老後2000万円問題など、生涯設計について不安を感じている人は多いと思います。まさしくそうした将来の不安を解消するために、金融教育を身近にする「ライフサイクルゲーム」が果たす役割は大きいでしょう。ぜひ、もっともっと多くの方に遊んでほしいですね。

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お話を伺った方
乙武 洋匡
1976年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。2000年、都民文化栄誉章を受賞。
著者/ライター
友清 哲
1974年、神奈川県生まれ。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て独立。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』(共にイースト・プレス)、『この場所だけが知っている 消えた日本史の謎』(光文社知恵の森文庫)、『作家になる技術』(扶桑社文庫)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。また近著に、『横濱麦酒物語』(有隣堂)がある。
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