企業と個人の“将来設計”に必要なスキルを習得するチャンス到来

いまこそビジネスパーソンに「リスキリング」が必要なワケ

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時代や環境、働き方の変化に伴い、今後新たに生まれるであろう業務に役立つスキルの習得を目指すリスキリング。いわゆる学び直しに動き出す企業が、増えつつある。

リスキリングの必要性が取り上げられたのは、2020年のダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)で発表された「リスキリング革命」がきっかけで、2022年10月には日本政府も「今後5年でリスキリングの支援に1兆円を投じる」と表明している。

なぜ、いま働き方が変わりつつあり、リスキリングが必要になっているのだろうか。HR TechなどのITサービスを提供しているスタメンのCOO・森川智仁さんに聞いた。

コロナ禍やChatGPTの出現で注目された「リスキリング」

「2020年から世界的にリスキリングの重要性が叫ばれていたものの、いま大きな流れになりつつあるのは、ビジネスパーソン個々人が新たなスキルが必要だと実感し始めているからだと思います。例えば、ChatGPTを含めた生成AIの爆発的な普及によって、働き方が変わると感じている人は多いのではないでしょうか」(森川さん・以下同)

コロナ禍も、リスキリングを後押しする要因になったといえるそう。

「コロナ禍でテレワークが進んだことで、それによってもたらされる業務効率化などの恩恵に気付いたはずです。そして、良くも悪くも個々人のパフォーマンスの差も浮き彫りになりました。本当の仕事の価値とは何か、という問いを突き付けられる瞬間が増えたことが、リスキリングを進める要因になっていると考えられます」

また、企業に情報開示が求められている「人的資本」の観点からも、リスキリングは重視されているという。

「企業の人材戦略に必要な要素のひとつとして挙げられているのが、リスキリングです。社内育成の手段として、今後重要になってくるからだといえます。リスキリングは、ビジネスパーソン自身の主体性も大切ですが、個人にとどまると本来の目的とずれてしまったり、熱量が続かなかったりします。うまく進めるには、企業が主体となって進める姿勢が不可欠になるでしょう」

社員がリスキリングを行うことで、企業にはどのようなメリットがあるのだろうか。

「既存事業の効率化や生産性の向上、これまでの施策のアップデート、新規事業への挑戦などが進むと考えられます。また、生成AIやDXに関するスキルや知識を持った人材の確保にもつながります。新たに人材を採用するのは難しく、コストもかかりますが、社員を育成することでコストを抑えながら、企業の持続的な成長というインパクトをもたらすことが期待できるのです」

企業にとってメリットの多いリスキリングには、注意点もあるようだ。ひとつは「将来設計」、もうひとつは「活躍の機会の提供」。

「企業が目指す姿を明確にし、そこを目指すために必要なスキルを整理してから従業員に提示したうえで、リスキリングを推進するというステップがいいと思います。また、学び直したスキルや知識を生かせる場を、社内に設けることも大切です。活躍できる場がないと、社員は習得したスキルを生かして転職してしまうかもしれません。企業にとっても、時間やお金をかけて得たスキルを生かしてもらうことで、組織の成長につながるでしょう」

学び直しは新規事業だけでなく既存事業にもプラスに働く

次に、個人目線のメリットについても聞いてみた。

「新しいスキルや知識を身に付けることで、できる仕事の幅が広がって新たなビジネスに挑戦できるだけでなく、既存の業務においても業務効率の改善などの成果を上げられるようになるでしょう。その結果、昇給や昇格につながる可能性もあります。人材としての市場価値も高まるので、理想のキャリアも描きやすくなるでしょう。また、企業主導でリスキリングを推進してくれている場合、金銭的負担を抑えて学び直せるところもメリットといえます」

新たなビジネスだけでなく、既存事業においても武器になるという点は大きなメリットといえるだろう。しかし、企業と同様に個人も「将来設計」が重要になるとのこと。

「個人も理想のキャリアや働き方などの将来設計を立て、そのためにはどのようなスキルが必要か、考えることが大切だと思います。そして、企業の将来設計と自身の将来設計を擦り合わせて、どちらにも共通するスキルや知識を得られると、意味のあるリスキリングになるでしょう」

企業にも自分自身にも必要なスキルは、現在の自分を振り返ることで見えてくるそう。

「まずは、自分にどのようなポータブルスキル(業種や職種が変わっても生かせるスキル)があるか、棚卸ししてみましょう。ポータブルスキル=強みを理解してから将来を見据え、これからの業務に必要になる部分やより伸ばしていきたい部分をリスキリングしていくのが理想的だといえます」

いま学ぶべきスキルについて聞くと、森川さんは「企業や個人の将来設計によって変わるという前提はありますが、今後の社会で必要になってくるであろうスキルは大きく3つに分けられると思います」と、教えてくれた。

「(1)DXや生成AIを活用したプログラミングIT、データ分析系のスキル、(2)SNS活用などのデジタルマーケティング分野のスキル、(3)人材育成やマネジメント、組織に関するスキルの3つです。現状持っているスキルや、会社や自身が向かっている先によって必要なスキルは変わりますが、理想とのギャップを埋めつつ、持っているポータブルスキルとのかけ算が大きくなるものを選べるといいでしょう」

国や自治体が支援! リスキリングに関する助成金

先述したように、日本政府は「今後5年でリスキリングの支援に1兆円を投じる」と表明し、実際にリスキリングに関する助成金や給付金を用意している。

●人材開発支援助成金/厚生労働省
企業が従業員のリスキリングを推進するための費用として、申請できる制度。職業訓練などを実施した場合に、その費用や訓練中の賃金の一部を助成。

●教育訓練給付制度/厚生労働省
ビジネスパーソン個人がスキル向上やキャリアアップのための職業訓練を受講する際に、申請できる制度。職業訓練の費用の一部が支給されるもので、ハローワークで申請できる。

●DXリスキリング助成金/東京都
東京都の中小企業、個人事業主が申請できる制度。従業員がDXに関連した職業訓練を実施した場合に、その費用の一部が助成される。

●リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業費補助金/経済産業省
企業が従業員のリスキリングを推進するため、従業員向けのキャリア相談室の設置やリスキリング講座の開講などを行う場合に、その費用の一部を助成する制度。

「個人で『教育訓練給付制度』を活用し、主体的にスキルや知識を習得するのもいいですし、もし勤務先が助成金を申請し、リスキリングを推進しているようであれば、会社の制度を使って学び直しを進めるのもいいでしょう」

最後に、これからの時代を生き抜くビジネスパーソン、そして企業の在り方を聞いた。

「選択肢があふれる時代になったいま、個人は時代や環境の変化に負けないスキルを身に付け、自身の市場価値を高める必要が出てきています。そして、企業は従業員の将来とうまく結びつけながらリスキリングを進めるとともに、その会社で働く意義ややりがい、エンゲージメントの強化をすることも重要になります。今後は、企業のリスキリングの取り組みを定量的に示したデータも出てくると考えられます。企業活動や事業成長に対して、人材が及ぼすインパクトがより一層高まるでしょう」

これからの自分のためにも、勤める会社に貢献する意味でも、リスキリングは重要になりそうだ。まずは、自分の強みから振り返ってみよう。
(取材・文/有竹亮介(verb))

お話を伺った方
森川 智仁
スタメン執行役員/COO。新卒で人材系企業に入社し、新拠点の立ち上げや責任者を歴任した後、創業メンバーとしてWEB関連会社を立ち上げ、事業運営、組織運営に携わる。2018年にスタメンに入社し、インサイドセールスやマーケティング、カスタマーサクセスの部門で責任者を務め、2023年1月より現職。
著者サイト:https://stmn.co.jp/
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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