意外と少ない?

年金繰り上げは9人に1人…年8.4%増の繰り下げは「50人に1人」である5つの理由

提供元:Mocha(モカ)

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「老後のために少しでも年金を増やしたい」と考える方は多いと思います。そこで、年金の受給額を増やすテクニックとして、公的年金の支給開始年齢を遅らせて受取額を増やす「繰り下げ受給」が注目されています。

この繰り下げ受給を利用すれば、年8.4%も年金を増額することができるのですが、実はほとんど利用されていないのが実態です。一見メリットが大きそうな繰り下げ受給ですが、なぜ利用されていないのでしょうか。

今回は、多くの方が公的年金の繰り下げ受給を利用していない理由についてご紹介します。

繰り下げ受給を選択する人はかなり少数派

公的年金は原則65歳から受け取り始めることになっていますが、支給開始年齢を60歳~75歳の間で自由に選ぶことができます。65歳より前に繰り上げてもらうと、年金は減額され、65歳より後に繰り下げてもらうと、年金額は増えていきます。

具体的には、65歳からの年金受給額に対して、繰り上げ受給の場合は月0.4%減額され、繰り下げ受給の場合は月0.7%増額される仕組みとなっており、例えば、1年繰り下げて66歳から年金受給を開始すると、年8.4%も年金を増額することができます。さらに1か月ずつ支給開始月を遅らせる毎に年金が0.7%ずつ増えていく仕組みとなっています。

最長75歳まで年金を繰り下げると最大84%も年金を増やすことができる繰り下げ受給は、マネー雑誌などでもよく取り上げられているのでご存知の方も多いでしょう。

そんな注目度の高い繰り下げ受給ですが、厚生労働省が発表した「令和3年度版厚生年金保険・国民年金事業年報」によると、2021年度(令和3年度)では国民年金を受給する権利を持つ約3,435万人のうち、繰り下げ受給を選択したのは約61.2万人だったそうです。

【国民年金 受給者の繰り上げ・繰り下げ受給状況の推移】

厚生労働省「令和3年度版厚生年金保険・国民年金事業年報」より

一方で、65歳より前に繰り上げて年金をもらう繰り上げ受給をしている人の割合は、平成29年度の13.6%から年々低下しているものの、令和3年度では、約9人に1人(11.2%)となっています。65歳より後に繰り下げてもらう「繰り下げ受給」を選択している人の割合は平成29年度の1.3%からわずかに上昇してはいるものの、それでも約50人に1人(1.8%)と、かなりの少数派であることが分かりました。

ここ数年の間に定年退職後も働き続けるなどの選択肢が広がったため、年金だけの収入だけでなく、自分できちんと生活資金を準備するなど、繰り上げ受給をしなくても生活を送れる方が増えてきた一方で、繰り下げ受給を選択する割合はあまり変わっておらず、平成29年度から令和3年度の5年間はいずれも1%台の推移と、世間の注目度の割には、あまり利用されていないのが実情なのです。

繰り下げ受給が利用されていない理由

繰り下げ受給があまり利用されていないのはなぜなのでしょうか。考えられる主な理由を5つ紹介します。

●繰り下げ受給が利用されていない理由1:もらえるものは早くもらいたいという心理

公的年金は原則65歳から受け取ることができます。原則の年齢に到達したのなら、もらえるものは早くもらいたい気持ちになるのも当然です。また、65歳になると、若い頃と比べて注意力や病気への抵抗力も低下しますので、健康状態に不安がある人ほど早急に受け取りたいという意向が強くなりがちです。これまで長年にわたり、給与から年金保険料を天引きされたり、国民年金を納めたりしてきたことを考えれば、受け取れないリスクが高まる前に早めに年金をもらおうとする心理は理解できます。

●繰り下げ受給が利用されていない理由2:繰り下げ受給をするまで老後の貯蓄が持たない

繰り下げ受給を選ぶと、年金を受け取り始めるまで、別の収入で生活費をまかなう必要があります。もしも収入を得る手段がない場合、老後の貯蓄の取り崩すことになってしまうことから、やむを得ず繰り下げ受給を断念するケースもあるでしょう。老後の生活を安心して送るためには、60歳以降の雇用の状態や、貯金金額などを考慮しながら、何歳から年金をもらうのかを慎重に検討する必要があります。

●繰り下げ受給が利用されていない理由3:加給年金やその他給付金が受け取れなくなることがある

「加給年金」は家族手当のようなもので、配偶者が年金を受け取れる65歳になるまで、本人の厚生年金にプラスして支給される年金のことですが、繰り下げ受給を選ぶことでこの権利を失う可能性※が生じます。

※厚生年金に加入し、年金に加算される「加給年金」を受け取る権利がある場合に限ります。

また、「年金生活者支援給付金」といった低所得者向けの給付金も、繰り下げ受給を選択すると所得が増えることから、受給できなくなる場合があります。

※年金生活者支援給付金は、2019年10月より始まった制度で、一定の所得額以下の人を対象とした福祉的な給付金です。

このように、繰り下げ受給は受け取る金額を増やす一方で、一部の追加的な給付金を犠牲にする可能性があるということです。

●繰り下げ受給が利用されていない理由4:税金や社会保険料が増加してしまう

繰り下げ受給を選ぶと、年金額が増える一方で、税金や社会保険料が増加する可能性があるのも、多くの人がためらう要因となっています。例えば、年金を受け取る際、受給額には税金や社会保険料がかかりますが、一定の所得のボーダーラインを超えると税率が高くなる仕組みになっています。そのため、繰り下げ受給によって公的年金の額面を増やしても、引かれる税金や社会保険料が増えてしまうことで、額面増加分の恩恵が薄まることが心配されるのです。

●繰り下げ受給が利用されていない理由5:医療費の自己負担が増加する可能性がある

75歳から適用される後期高齢者医療制度や高額療養費制度などは、所得が高い場合に自己負担額が増える仕組みを採用しています。具体的には、一般の所得の方は、通常の医療サービスを受けた際の自己負担は1割負担で済みますが、一定以上の所得の方は2割負担、さらに現役並み所得の方は3割負担となります。したがって、繰り下げ受給によって年金収入が増え、所得が多いと判断されると、将来の医療費負担も増大してしまう可能性があるのです。

繰り下げ受給は「長生きリスクに備える保険」と考える

それでは、繰り下げ受給することはまったく意味がないのでしょうか?そんなことはありません。

年金額が極端に少ない場合は、繰り下げをしても、社会保険料や税金への影響は少ないことが考えられ、有効な選択肢になりえます。例えば、自営業の方で国民年金の満額約79万円だけでは老後の生活が厳しいといった場合、75歳まで働き続け、その後繰り下げた年金を受け取るようにすれば、受け取れる年金は約145万円(79万円×1.84)に増えます。月額でおよそ12万円になりますので、生活に少し余裕が生まれるかもしれません。

また、厚生年金加入の会社員の方でも繰り下げをすることで社会保険料や税金の負担は増える可能性がありますが、それでも65歳受給に比べて手取り金額自体は生涯にわたって増えますので、「長生きリスクに備える保険」と考えれば、選択する意味は大きいでしょう。

まとめ

繰り下げ受給はさまざまな理由から、まだ浸透しているとはいえない状況です。ですが、さらに長くなる老後の経済的安定を求めて、今後は繰り下げ受給を選択する人がもっと増えるかもしれません。

一概にどちらがよいという明確な答えはありませんが、老後資金の選択肢は多いに越したことはないでしょう。そのため、ある程度繰り下げ受給を想定しながら、定年退職後も働いて収入を得たり、iDeCoの積立資金を有効活用したりするなど、収入を確保する方法を早めに考えておくことは賢明です。

また、ご自身の価値観や老後の生活設計、手取り金額などを総合的に加味し、自分や配偶者の納得する方法を選ぶことが何よりも大切です。自分の老後を安心して迎えるために、今から計画を立ててみましょう。

[執筆:ファイナンシャルプランナー KIWI]

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