日経平均株価が6、7万円に到達する可能性も
「日本は過小評価、ここから成長が始まる」起業家・成田修造が見据えるこの国の未来
この国の市場や経済に成長可能性はあるのか。いわば投資における“日本の未来”を有識者が占う連載「日本経済Re Think」。今回お話を聞いたのは、起業家の成田修造氏である。
成田氏は大学時代から人材マッチングプラットフォームを手がけるクラウドワークスに参画し、同社の創業わずか3年で上場(2014年12月)するという快挙に貢献した。その後は取締役副社長に就任し、事業戦略や組織マネジメント全般を統括。2023年にはクラウドワークスの取締役を退任して、現在は複数の企業の創業や経営に関わっている。
そんな成田氏は、日本市場について「これまで世界から過小評価されており、今後そのギャップが是正されて経済も成長していくのでは」と口にする。「大げさでなく、10〜20年後には日経平均株価が6、7万円に達する可能性さえある」と、大胆に言い切る。
彼の言う“過小評価”とは一体どういう意味なのか。そしてこれからの日本経済をどう展望するのか。成田氏の考えを聞いていく。
日本経済が伸びる理由は「株価と業績の“ギャップ”にある」
日本経済や日本市場の今後について、この先10年、20年という長期スパンでは「かなり上向きの推移になると思います」と成田氏は切り出す。その転換点が2023〜2025年頃であり、今年に入って日本市場が大きく上がっているのも「その端緒ではないでしょうか」と話す。
「なぜなら、これまでの日本市場はあまりに過小評価されてきた現状があるからです。日経平均株価は1989年12月につけた最高値を30年以上更新せず、ようやく今年その水準に近づいてきました。この間は『失われた30年』と言われてきましたが、これはバブル崩壊のタイミングで金融の締め付けが過度に強化されたことや、その後にITバブルやリーマンショックが訪れて株価が浮上するきっかけをつかめなかったことが大きいと見ています。一方で日本企業の業績は良くなっており、上場企業の純利益総額は1989年から3、4倍ほどに上がっている。だからこそ、株価は全体的に過小評価の印象があり、今後そのギャップが埋まることで経済が上向くと考えています」
このまま日本企業が利益を出し続け、過小評価であったことに海外勢が気付けば、日本に大きな投資マネーが入ってくる。これが成田氏の考えだ。さらに外部環境を見ても、日本経済の上昇を後押しする材料が揃っているという。
「ここ20年ほどは世界的に中国への投資が進みましたが、直近の数年は米中対立の影響で中国に資金が流れにくくなっています。では次にお金が向かうのはどこか。未上場企業への投資はインドを中心に新興国で進んでいますが、こと上場企業に関してはアメリカ・中国に次ぐ市場規模を持ち、かつ地政学的に安定している日本が候補に挙がってくるでしょう」
さらには「政府の資産所得倍増プランや東証の市場再編、PBR改善といった動きも追い風になっています」と成田氏。
「すべてがいい方向に変化していますし、10年、20年の時間軸であれば、日経平均が6、7万円にまで到達してもおかしくないのでは、という気がしています」
これから伸びるのは、2つの「変革」にまつわる領域
ここまでは日本経済“全体”の展望を聞いたが、その中でも特に成田氏が期待する産業や業界はあるのだろうか。
「日本は多くの産業がこれから伸びる可能性を秘めています。ここ30年は簡単に言うとネット産業が急激に成長した時代でしたが、ネット内で完結するサービスはすでに飽和状態にあり、今後はリアルとデジタルを掛け合わせたビジネスが伸びてくるはず。いわゆるDXの領域ですが、ここは日本がポテンシャルを持っていると考えます」
理由として、成田氏が口にするDXの本質は「既存の大きな産業がデジタルで再定義され、新たな価値を生み、成長すること」であり、日本は自動車、医療、建設、不動産といった、既存の大きな産業を数多く有している。かつデジタルの技術も高いため組み合わせやすい。
「だとすると、これらの巨大な産業にデジタルが加わり、世界で勝てる企業やサービスが日本から出てくる可能性があります。デジタルに組み合わせるモノやハードが重要になるため、製造業に強いという日本の特徴も生きるでしょう」
DXの例として、成田氏は自動車をソフトウェアで再定義したテスラを挙げるが、このようなことは各産業で起きてくる。
「不動産なら家全体がソフトウェア化して、居住者の行動をデータ化することもあり得ます。それにより、子どもが生まれたタイミングで家の増築や間取りの変更を企業から提案するというアイデアも出てくるかもしれません。医療なら、カルテと診療機器のデータ連携やオンライン診療はすでに始まっていますし、もっと大きな再定義が行われる可能性も。土台となる産業とデジタル技術の両方を持っている日本は強いでしょう」
もうひとつ、成田氏が「これから伸びる」と期待しているのは素材や材料の領域だ。
「気候変動により、いま使われている素材やそれにともなう製造プロセスが見直される可能性があります。環境に良いものを選ぶ・開発することが求められるでしょう。日本はもともと素材や材料の領域が強く、世界の市場シェアの過半数を占めるような会社や、マニアックな分野で存在感を示すニッチトップ企業が多い。気候変動の中で新しい素材や材料、それを作る技術が求められると、大きく飛躍する企業が出てくるのではないでしょうか」
最近は、環境対策や脱炭素社会に向けた取り組みのことを「GX:グリーントランスフォーメーション」と呼ぶ。成田氏の見解をまとめると、DXとGXの中でグローバルに挑戦できる企業が日本から出てくると見ている。
「ユニコーンを100社増やす」より「1000億ドルのグローバル企業」を
成田氏が特に成長を期待するのは日本のスタートアップで、2012年からの10年間で国内スタートアップの資金調達総額は600億円から9000億円へと15倍に膨れ上がっている。政府はこの資金調達額を2027年までに年間10兆円にまで増やすと宣言しており、「スタートアップの大転換期」と期待を膨らませる。
先述したように中国への投資が滞り、未上場企業に対する世界の投資マネーの多くはインドに流れたが、「もちろん日本にも一部の資金は来ている」とのことで、さらにその投資は加速するという考えだ。
かたや、スタートアップが新しいビジネスを始める上で「日本は既成勢力や業界のルール、通例が妨げになる」と言われることも多い。しかし成田氏に言わせれば「それらが強いのはアメリカも同じです。日本と違うのは、スタートアップがトライする数が圧倒的に多いこと。トライを重ねることでその壁は壊れていきますし、何よりトライの数は投資額に比例するので、日本も資金が集まれば壁の打破につながるのでは」という。こういった面でも、投資額の増加は追い風になる。
「ただし日本のスタートアップにも課題はあります。アメリカのGoogleやアマゾン、中国のアリババのようなレベルで世界的な大企業になった日本のスタートアップはまだありません。政府はユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)を100社増やす目標を掲げていますが、個人的には1000億ドル規模の会社が5社誕生したほうが経済インパクトはあると思います。次の数十年は、そういう巨大企業の誕生に期待したいですね。もちろん自分もそこに貢献できるよう挑戦していくつもりです」
そのためにこの国が取り組むべきはIT人材の確保で「ソフトウェア化している世の中において、この知識を有する人が日本には少ない」とのこと。実際、コンピュータサイエンス分野の大学生・大学院の卒業生数を対人口比で見ると、日本はインドの10分の1ほどしかいないとのことで、対策は避けられないと指摘する。
とはいえ、日本が経済成長するための環境は整いつつある。だからこそ、課題をクリアした上で日本の強みを発揮すれば、世界を股にかけたグローバル企業が出てくる可能性も見えてくる。それは日本再興の狼煙となるだろう。若き起業家の言葉には、そんな期待感が宿っていた。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2023年10月現在の情報です