世界共通語「ESG/SDGs」

りそなAM常務執行役員が語る“次世代のためにESG投資が必要な理由”~前編~

【ESG投資を知る】「ESG」とは少し先の未来を見て“自益と共益の両立”を目指すこと

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「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」に関する課題の解決につながる事業を進める企業を、投資という形で支援する「ESG投資」。

現在はさまざまな金融機関がESG投資を採用しているが、国内でいち早くESG投資を取り入れたのがりそなアセットマネジメント(以下、りそなAM)だ。2008年に国連責任投資原則(PRI)に署名、2013年にはESG投資基準を導入し、ESG投資やESGに関する取り組みを進め始めた。

なぜ、りそなAMは素早く動き出すことができたのだろうか。現在はESG投資をどのように捉えているのだろうか。りそなAMで、責任投資部担当常務執行役員を務める松原稔さんに聞いた。

“社会に必要とされる運用会社”のあり方を求めて


――りそなAMでESG投資が始まった経緯から、教えていただけますか。

「2003年、りそなグループに公的資金が注入されて、社会に生かしていただいたことがきっかけです。そこで改めて、社会に必要とされる金融機関、運用会社とは何か、自問自答しました。そのなかで、企業が活動していくベースとなる環境や社会という視点も含めて、投資活動をしていくことではないかという考えに至ったのです。

私たちの考え方の基盤に『ユニバーサルオーナー』という言葉があります。長期的な視点で幅広く分散投資を行う機関投資家を指す言葉です。日本のさまざまな企業に投資するユニバーサルオーナーとして、日本の課題を考えると、環境問題や労働問題、ガバナンスの問題があり、それは社会共通のテーマであることが見えてきました。企業とともに少しでも問題を取り除くことで、社会全体が豊かになるのではないかと。

2006年に当時の国連事務総長がPRIを提唱し、私たちは2008年に署名して、本格的に“社会に必要とされる運用会社”のあり方を自問自答しながら、ESG投資に取り組んできました」

――2008年だと、世界最大規模の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名する前なので、かなり早い動き出しですよね。

「そうでしたね。私たちならではの活動を行う一方で、世界のトレンドも追う必要があるという考えがあり、世界のESGやサステナビリティに対する考え方をインプットしてきたことが、環境や労働の問題の気付きに結び付いたという背景もあります。

PRIに署名し、世界のネットワークに入ったことで、これからどのような世界を目指していくのかといった情報や知恵をさまざまな方々から授けていただき、活動の起点となるパーパス(自社の存在意義)や私たち自身のありたい姿を確立していけたと感じています」

――当時、海外ではどのような課題が取り上げられていたのでしょう?

「気候変動や生物多様性、人権の問題など、いまでも続いているものですね。PRIが提唱されてから、海外でもESGに関する取り組みが本格化し、いずれは日本でも同じようなことが起こるだろうと実感しましたね」

ESGの取り組みは“創業精神に立ち返ること”かもしれない


――“社会に必要とされる運用会社”を追求し、出てきたりそなAMのパーパスとは?

「いま掲げているパーパスは、“将来世代に対しても豊かさ、幸せを提供する運用会社であること”です。将来世代にとっての“豊かさ、幸せ”とは何か、自問自答を繰り返して出てきたものが、サステナブルな社会経済を目指し、持続可能な環境に働きかけ、企業の文化が評価される資本市場を確立すること。この3つが、私たちの取り組みのベースになっています。

企業が20年後、30年後に発展するためには、その企業が持っているパワー、ビジネスモデル、人材や知的財産などが不可欠であり、それを活かすためには社会との関わり方が重要になると考えています。そして、ESGの課題に対応することが企業の発展やビジネスリスクの低下につながると考えており、その支援を行うことが私たちの活動の基本と捉えています」

――ESG投資というと、課題に悪影響を与える企業を排除するものと思われがちですが、企業とともに改善していく道を進むイメージですね。

「そうですね。投資のもととなるお金は非常に強い力を持っていますが、その力を使って社会を変えるのは投資家ではなく、イノベーションを生み出す企業です。企業に力を供給するのが私たちのような機関投資家ではありますが、個人投資家の皆さんからの力の提供がなければ、このサイクルは成り立ちません。

そして、このサイクルにはもうひとつ前提があります。長期視点も必要であるということです。短期的な利益を期待すると、世界は変わっていきません。2023年の夏は記録的な猛暑となりましたが、企業が頑張ることで来年から猛暑日がなくなる、とは考えにくいですよね」

――ESGの取り組みは数年で結果が出るものではない、ということですね。そうなると、企業側も社会課題を解決する意識が必要になると思うのですが。

「そうですね。お金という力が供給されると、企業はその資金で設備投資し、自社を発展させる自益を考えてしまいますが、少し先の未来に視点を合わせると、共存共栄の世界に入ると思っています。自社だけでなく社会が発展すると、社会全体が豊かになる。これからの企業は共益への世界も展望することが大切だと思います。

これはきっと難しいことではなく、企業を創業した理由に立ち返ると、企業の目的は共益につながるのではないかと感じています。きっと多くの創業者は、何かの課題を解決したいという思いで創業したはずです。自益の先にある共益は、創業精神や目的に通じていると思います。ESGというテーマが出てきたからといって、新たに何かをしなければいけないわけではなく、もともと抱いている思いを実現していくことなのだと考えています」

――ESGという言葉が出てきたことで、いままでにない斬新なことに挑むイメージを抱いてしまいますが、本来企業が目指す姿に立ち返るということかもしれませんね。

「企業は財務資本だけでなく、人的資本や知的資本、環境資本など、さまざまな資本の提供を受けて活動している組織です。そして、経済活動を通して、資本を増やして返すのが企業の宿命。財務資本だと株主への還元という形でわかりやすいのですが、人的資本も環境資本も増やして社会に貢献することが基本スタンスとなるはずです。ESGというフレームワークができたことで、そこがよりわかりやすくなったといえます。

企業は自益と共益を考え、社会から預かった資本を増やす努力をする必要があると思います。経営層には、そのバランス感覚とマネジメント能力が求められるでしょう」

「エンゲージメント」が企業のESGの取り組みを進める


――課題解決に向かう企業をサポートするため、りそなAMが機関投資家として行っていることはありますか?

「エンゲージメントですね。投資先の企業が目指す課題解決について、対話を行うことです。エンゲージメントを行うのは、私たちが特殊な能力を持っているからではなく、アウトサイダー(外部者)の立場だからこそできるアドバイスがあると信じているからです。

金融機関は、資金提供を行う役割から、金融という血液を通じて世界をもれなく見渡すことができるという特徴があります。この特徴を活かして、企業にアドバイスすることは可能だと思うのです」

――アウトサイダーだから見える視点があるということですね。実際にエンゲージメントを通じて、企業が変わってきている実感はありますか?

「企業からすると、まったく関係のない第三者ではなく、株主という自社の発展を自分事化できる立場の人間との対話なので、同じ船に乗っている感覚になることを期待しています。年々、企業とのエンゲージメントは増えています。自分たちの夢を投資家に聞いてほしい、一緒に将来の夢を考えたいという企業が増えてきている段階といえるかもしれません。

私たちは、いまのビジネスの積み重ねが将来につながると考える企業よりは、将来ありたい姿からビジネスを考えていく企業とエンゲージメントすることが多いと感じています」

――企業と投資家が同じ将来を見ることで、企業の発展が進み、社会や投資家にも還元されていきそうですね。

「そうなるためにも、個人投資家の皆さんには長く付き合える運用会社を見つけてほしいです。運用会社は、長期視点で企業を評価することがより重要になると感じています。先ほども話したように、ESG投資は長期スタンスで捉えるものだからです。私たちの名前『りそな』は、ラテン語で『共鳴する』という意味があります。企業と投資家が共鳴し合う世界が理想ですね」

ESGの取り組みは、企業が創業精神に立ち返ることであり、それをサポートするのがESG投資。松原さんの話で、腑に落ちた人も多いのではないだろうか。後編では、個人投資家ができることと日本のESG投資の現状について伺う。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)

お話を伺った方
松原 稔
りそなアセットマネジメント責任投資部担当常務執行役員。1991年にりそな銀行に入行し、投資開発室及び公的資金運用部、年金信託運用部、信託財産運用部、運用統括部、アセットマネジメント部で運用管理、企画、責任投資を担当。2020年1月にりそなアセットマネジメント責任投資部長に就任し、2023年4月より現職。経済産業省「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」委員、日本国際博覧会協会「持続可能性有識者委員会」委員なども務める。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
用語解説

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