議論の末に明確な数値目標を設定

LIXILの“女性活躍”に対する決意、「誰もが願う住まいは多様性を持った組織から生まれる」

TAGS.


住宅設備機器・建材メーカーのLIXILは、グローバルを含めたグループ全体でダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に取り組んでいる。とりわけ日本で力を入れているのが女性活躍推進だ。経済産業省と東京証券取引所が共催する、女性活躍推進に優れた上場企業を選定する令和4年度の「なでしこ銘柄」にも選ばれた。

こういった活動は実業にも好影響をもたらし、女性中心のチームから生まれたサービスも出ているという。同社が進めるD&Iや女性活躍推進の内容、そして、これらがもたらす実業や経営への効果とは。日本を含めたアジアやアフリカのHuman Resources(人事)部門を統括するLIXIL 常務役員の和田麻衣子氏に取材した。

本気で取り組むからこそ「数値目標を置くべきか慎重に議論しました」


海外にも多数のグループ会社を持つLIXILでは、これら一体でD&Iを進めている。その活動の根底には「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」という同社のパーパス(存在意義)が関係していると、和田氏は話す。

「パーパスを実現するためには、さまざまな人のさまざまなニーズを把握し、それに応える商品・サービスを提供することが求められます。そのためには、LIXILが社会の多様性を反映していなければ難しいでしょう。このことから、従業員の多様性を活かしたインクルーシブな企業文化を醸成し、性別・年齢に関係なく働ける環境をグローバル全体で作ろうと考えてきました」

D&I推進はグループ全体の統一テーマだが、エリアごとに重点項目は異なっているという。たとえばアメリカは、民族や集団による差異に着目した「エスニシティ」を重視。一方、日本は女性活躍に力点を置いている。理由は、この点での遅れが目立つからだ。

「そこで私たちは、2030年までにLIXIL全体にインクルーシブな企業文化を定着させて、ジェンダー不均衡を是正するというD&I目標を掲げています。数値目標も設定しており、同年3月までに取締役・執行役の女性比率50%、グローバル全体の女性管理職比率30%、日本の新卒採用の男女同率を目指しています」

数値目標を設定することについては、慎重に議論を重ねた。なぜならその達成自体が目的化してしまい、数値を上げるために女性の管理職や従業員をむやみに増やす事態を招く可能性もあるためだ。

「とはいえ、女性活躍の進捗を測るには数値をトラッキングすることが大きな意味を持ちます。逆にそれをしなければ『言うだけで終わり』になる可能性も否定できません。このことを丁寧に説明し、数値目標の意義を経営層や社員に理解してもらいました」

人事制度や環境の整備など、女性活躍を進めるために3つの活動に注力

その上で、同社はD&Iや女性活躍を進めるために大きく3つの活動を行っている。1つ目は「人事制度づくり」で、性別による賃金や資格などの格差解消に注力してきた。

2つ目は「職場環境の整備」。あらゆる人が働きやすくなるよう、2021年からコアタイム(必ず出社しなければならない時間)を設定しないスーパーフレックス制を導入したほか、勤務は在宅前提にしてオフィス規模も縮小した。

最後に3つ目として、D&Iや女性活躍の「風土づくり」にも力を入れている。3月8日の国際女性デーには、毎年D&Iをテーマにしたイベントを開催。また2022年からは有志の従業員グループ「Employee Resource Group(従業員リソースグループ)」が立ち上がり、ジェンダーや文化の多様性、性的マイノリティなど、各グループがD&Iにつながるテーマを設定して活動しているとのことだ。

多様性のあるチームが生んだ新商品、5年目女性従業員による新たな開発プロセスへのチャレンジ

D&Iや女性活躍の推進が、同社の事業・サービスにつながった事例も出ている。そのひとつが「どこでも手洗」という商品で、従来に比べて住まいのさまざまな場所に設置できる洗面化粧台だという。

「属性や組織の壁を越えた多様なメンバーが企画した商品で、実際に子育てをしている人や生活者としての従業員の声をもとに作ったものです。家族がいる家庭にとって、帰ってきて最初に手洗いをしたい、もしくは子どもにしてほしいというニーズがあるものの、これまでの商品は、仕様の問題などで玄関の近くに設置できないことが多かったのです。それを改善した商品といえます」

もうひとつ、猫を飼う住宅用に開発されたキャットウォーク「猫壁ーにゃんぺき」は、女性従業員が開発した商品だ。入社5年目の若手がアイデアを出し、クラウドファンディングで資金を募って限定販売した。そのプロジェクトが終わった後も商品化の希望が相次ぎ、一般販売に至ったという。

「この商品は、LIXILの通常の開発とはまったく違うプロセスで生まれたことに意味があると思います。誰もが活躍できる環境を作っていくと、若い従業員が積極的にアイデアを出したり、クラウドファンディングのような新しい販売方法を使ったり、いままでにない展開が生まれやすくなるのではないでしょうか」

こういった事例はあるものの、数値面での成果が出るのはこれからであり、いまはまだ「種まきが終わった段階」だと和田氏。「設定した目標の実現に向けて、多くの方を巻き込みながら進めたいと考えています」と話す。

D&Iや女性活躍を進めよう――。そう言うのは簡単だが、大切なのは本気で実行し、継続することだ。だからこそ数値目標を置き、進み具合を確かめていく意味がある。記事で触れた事例を見ても、この活動がLIXILの実業やサービスにつながることは間違いない。さまざまな人たちの快適な住まいを実現するために、今後も同社はD&Iや女性活躍に力を入れていく。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2023年10月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード