アダム・スミスとはどんな人物?経済学との関係や経済思想を解説

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アダム・スミスとは、18世紀に国富論や道徳感情論などの著書を発表した大学教授です。小さな政府の考え方の礎にもなっており、今でも大学の授業などで学ぶことは多いでしょう。

本記事では、古典派経済学の中心人物のひとりであるアダム・スミスがどのような人物なのか説明してから、具体的な経済思想について解説します。

アダム・スミスとはどんな人?

アダム・スミスとは、18世紀にスコットランドのグラスゴー大学で教授や学長を務めた人物です。のちに経済学に大きな影響を与える経済思想を提唱した人物としても知られています。

ここから、アダム・スミスが生きた時代や生涯、経済学との関係を確認していきましょう。

アダム・スミスが生きた時代

アダム・スミスが生まれ育ったスコットランドは、1707年以降英国(UK)の一部となっていました。そこで、アダム・スミスが生きた時代の英国経済について説明します。

18世紀の英国を語る上で欠かせないのが、近代科学の発展とともに起こった産業革命です。産業革命とは、18世紀後半に英国を中心に起こった生産技術の急速な革新と、社会や経済における変革を指します。

産業革命が進むにつれて確立されたのが資本主義です。資本主義とは、資本家が工場を建設して機械を導入し、労働者に働かせることで生産した商品を販売して利潤を得る仕組みを指します。

産業革命で資本家が効率的に利潤を獲得できるようになった一方で、さまざまな課題があらわになりました。代表例が都市部への人口集中や資本家と労働者の対立です。

アダム・スミスの生涯

アダム・スミスに関する出来事を以下にまとめました。

・1723年、スコットランドで誕生する
・1737年、スコットランドのグラスゴー大学に入学する
・1751年、グラスゴー大学で論理学の教授に就任する
・1759年、「道徳感情論」を出版する
・1776年、「国富論」を出版する
・1790年、死没

なお、アダム・スミスは産業革命以前の英国の重商主義政策を批判し、産業革命や資本主義の発展をもたらす支柱となったとされています。

アダム・スミスと経済学の関係

アダム・スミスは、古典派経済学の重要人物であり、「(古典派)経済学の父」と呼ばれることがあります。古典派経済学とは、はじめて資本主義の永遠性を説いた学問のことです。

死後200年以上経過してもなお、経済学がアダム・スミスから受けている影響は少なくありません。今でも、大学の経済学部を中心とする授業やゼミで彼の著書を読み解く機会があるでしょう。

アダム・スミスの経済思想とは?

アダム・スミスの経済思想を表したものが、以下のとおりです。

・(神の)見えざる手の考え方を提唱
・分業の重要性を指摘
・重商主義を批判
・小さな政府の基盤を構築

各経済思想について、詳しく解説します。

(神の)見えざる手の考え方を提唱

「見えざる手」とは、アダム・スミスが自身の著作で用いた言葉(概念)です。具体的には、市場経済においてそれぞれが自己利益を追求すれば、見えざる手に導かれて社会全体で適切な資源配分をできるため、社会の繁栄と調和につながるという考え方を指します。

つまり、アダム・スミスによると、個人が自分の利益を追求して利己的に行動しても結果として経済はうまく回るということです。その後、見えざる手の概念は、市場メカニズムに任せておけばよいという「自由放任主義(レッセフェール)」の考え方にもつながりました。

なお、見えざる手という言葉は、アダム・スミスの著作(道徳感情論と国富論)でそれぞれ1度しか登場しません。また、アダム・スミスの言葉として有名な「神の見えざる手」という言葉はどこにも記されていない点に注意が必要です。

分業の重要性を指摘

アダム・スミスは、分業の重要性を指摘したことでも知られています。分業とは生産過程における作業を分担して、異なる労働者がそれぞれ専門的に従事することです。

アダム・スミスの考えでは、パンを製造する際に1人が全工程を担当するよりも、小麦を作る人・製粉する人・パンを焼き上げる人など担当者を分けた方が効率的ということになります。

売上が大きければ大きいほど分業をしやすくなるため、アダム・スミスは自由貿易で市場を拡大させる必要性も説くようになりました。

重商主義を批判

アダム・スミスは、18世紀前半まで西ヨーロッパを中心に採用されていた重商主義を批判したことでも知られています。重商主義とは、国家が豊かになり繁栄するためには、輸出を積極的に進めて金銀を自国に流入させるべきとの考え方です。

アダム・スミスは、国の豊かさは貴金属の蓄積で決まるのではなく、労働者が生産する生活必需品や便益品の蓄積で決まると考えました。そのために、国際的な分業や自由貿易を展開して労働価値を高めていかなければならないと主張しています。

小さな政府の基盤を構築

アダム・スミスは市場メカニズムを優先していたため、小さな政府の基盤を構築したといわれています。小さな政府とは、政府の経済活動への介入を極力減らし、市場原理に基づく自由競争を進めた方が経済成長につながるという概念です。

現代でも、政府支出の規模や国民負担の度合いに注目し、ある国が小さな政府に該当するのか、小さな政府を目指すべきかなどの議論が交わされることはあります。

なお、小さな政府の対義語といえるのが「大きな政府」です。財務支出を増やしながら政府が経済活動に積極的に介入し、所得格差などを縮めようとする概念を一般的に大きな政府と呼びます。

アダム・スミスの著作

アダム・スミスの代表的著作は、以下の2つです。

・道徳感情論
・国富論(諸国民の富)

各著作の概要について、詳しく解説します。

道徳感情論

道徳感情論(道徳情操論)は、1759年にアダム・スミスが初めて出版した著書です。本書において、アダム・スミスは自由で平等な利己的個人の平和的共存が権力なしでも可能なのかを追究しています。

「共感」について触れている点も、本書の特徴です。本書で、アダム・スミスは調和ある社会構成の根幹として「共感」を据えています。

道徳感情論の発表以降、アダム・スミスは全ヨーロッパにおいて学問的名声を確立しました。

国富論(諸国民の富)

国富論(諸国民の富)は、1776年にアダム・スミスが出版した作品です。理論・政策・歴史にわたる、経済学で最初の体系的著作としても知られています。

国富論では、市場メカニズムを重視する「見えざる手」の概念が紹介されている点はポイントです。アダム・スミスは、見えざる手の考え方を使って自由放任政策を主張しました。

そのほか、重商主義への批判を展開しているのも本書です。

アダム・スミスの影響を受けた人物

さまざまな著名な人物が、アダム・スミスの影響を受けたといわれています。その中でも、代表的な人物が以下の2人です。

・デヴィッド・リカード
・ロバート・マルサス

いずれも、アダム・スミスの次の世代の学者で、古典派経済学を語る上で欠かせない人物です。2人の思想について、詳しく解説します。

デヴィッド・リカード

デヴィッド・リカード(以降リカード)は、1772年に英国・ロンドンで誕生した経済学者です。リカードは、公債引受人として活躍する中、1799年にアダム・スミスの「国富論(諸国民の富)」を手にしたことがきっかけで経済学に関心を持つようになりました。

リカードの代表的な主張のひとつが「比較優位説」です。比較優位説とは、各国が得意とするものの生産に特化し、他は貿易によって調達することでより多くのものを得られるという考え方を指します。そのため、リカードは自由貿易に賛成の立場でした。

なお、リカードの代表的著作として「経済学および課税の原理(1817)」があります。

ロバート・マルサス

ロバート・マルサス(以下マルサス)は、英国で教鞭をとった経済学者です(1766年誕生)。アダム・スミスの継承者とされていますが、リカードと異なり自由貿易には反対の立場をとりました。

マルサスの代表作は「人口論」です。同書でマルサスは、食料が等差級数で増えるにもかかわらず、人口は等比級数で増えるため、食糧不足を避けられないと主張しています。ただし、同書の第二版では、結婚を遅らせるなどの方法で人口制限は可能とも記しています。

マルサスの人口増加に対する考え方は、後に「マルサス主義」と呼ばれるようになりました。

アダム・スミスは近代経済学の父

経済学者であるアダム・スミスは、18世紀に産業革命や資本主義の発展をもたらす支柱となる考えを提唱しました。彼の主張のひとつである「見えざる手」は、後の「自由放任主義(レッセフェール)」の考え方につながる重要な概念です。

この機会に「見えざる手」の概念が登場するアダム・スミスの著書、「国富論(諸国民の富)」に触れてみてはいかがでしょうか。

参考:コトバンク(旺文社世界史事典 三訂版)「アダム=スミス」
参考:コトバンク(精選版 日本国語大辞典)「スミス」
参考:コトバンク(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)「アダム=スミス」
参考:千葉大学附属図書館「Adam Smith Collection」
参考:神戸大学「現代の経済、現代と経済 第3回アダム・スミスという人のお話し」
参考:コトバンク(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)「みえざるて」

ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。

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