マルクス経済学とはどんな思想?社会主義との関連も簡単に説明
マルクス経済学とは、主にカール・マルクスが自身の著書「資本論」で説いた思想を指します。資本主義の崩壊を予言した点や剰余価値説を提唱した点などが特徴です。
本記事では、マルクス経済学の概要について、簡単にわかりやすく解説します。
マルクス経済学をつくったマルクスとは?
マルクス経済学をつくったカール・マルクスとは、ドイツの思想家です。ここでは、カール・マルクスが生きた時代と、その生涯について解説します。
カール・マルクスが生きた時代
カール・マルクスが生きた時代は、19世紀です。18世紀後半に英国で産業革命が起こって以降、ベルギーやフランス、そしてマルクスの生まれたドイツやアメリカで同様の動きが起こりました。
産業革命で大量生産が可能になり、社会全体は豊かになる一方で、ヨーロッパでは労働者が過酷な環境に置かれます。資本主義の名のもと、経営者が利益を追求するために労働者の賃金を抑制したり、雇用する代わりに安い機械を導入したりしていた点が理由です。
カール・マルクスが生きた時代は、資本主義で貧富の格差が拡大し、貧困にあえぐ人が増えていた時代といえるでしょう。
カール・マルクスの生涯
カール・マルクスに関する主な出来事を、以下の年表にまとめました。
・1818年、ドイツ・トリールで誕生する
・1841年、ドイツ・イェーナ大学で哲学の学位を取得する
・1842年、急進的ブルジョア新聞の「ライン新聞」で主筆(首席の記者)になる
・1845年、エンゲルスとともに「ドイツ・イデオロギー」を執筆する
・1847年、「哲学の貧困」を出版して独自の経済学説を展開する
・1864年、「第一インターナショナル」を結成してエンゲルスとともに実質的指導者になる
・1867年、「資本論」(第一巻)を刊行して資本主義の経済法則を分析する
(日本では同年大政奉還、明治維新がはじまる)
・1883年、マルクス死去
・1885年、「資本論」(第二巻)刊行
・1894年、「資本論」(第三巻)刊行
「資本論」の第二巻と第三巻は、マルクスの死後に友人であるエンゲルスの手で編集されて刊行されました。
マルクス経済学とは?
マルクス経済学とは、マルクスが古典経済学を批判しつつも継承し、発展させた経済理論です。カール・マルクスの著書「資本論」には、マルクス経済学の基礎がまとめられています。
マルクス経済学で主張していることは、主に以下のとおりです。
・資本主義の崩壊を予言
・剰余価値を提唱
・労働価値説を展開
・政府の計画経済を提唱
それぞれ詳しく解説します。
資本主義の崩壊を予言
マルクスは、産業革命後に貧富の差が拡大し、労働者が過酷な環境に置かれるのを目の当たりにして、資本主義の崩壊を予言するようになります。マルクスによると、利潤率の傾向的低下の法則が、資本主義の崩壊につながる根拠のひとつでした。
詳しい計算式は省略しますが、労働生産力が低下しなくても資本主義の本質から利潤が低下せざるを得ないという考えが、利潤率の傾向的低下の法則です。マルクスは、矛盾が露呈することで労働者が決起して資本家の富を収奪し、資本主義は終焉することを説いています。
剰余価値を提唱
マルクス経済学では剰余価値の概念も提唱しています。剰余価値とは、資本の生産過程において、労働者の労働力の価値(賃金)を超えて生み出される価値のことです。
剰余価値は資本家に搾取されて利潤や地代などの源泉となります。剰余価値は、利潤率の傾向的低下の法則との関係も深いです。
剰余価値は、マルクス経済学の基本概念ともいえるでしょう。
労働価値説を展開
労働価値説を展開した点も、マルクス経済学の特徴でしょう。ただし、労働価値説の考え自体は、マルクスが考え出したものではなく、古典派経済学の父として知られるアダム・スミスも主張していました。
そもそも労働価値説とは、商品の価値が商品に費やされる労働時間によって決定されるという考え方です。マルクスは、労働価値説を継承しつつ批判的に検討することで、資本主義の解明を図りました。
政府の計画経済を提唱
マルクス経済学では、計画経済も提唱しました。
計画経済とは、資源を国有化し、中央政府の意思のもとであらかじめ策定した計画に基づき、資源配分をおこなう体制のことです。とくに、マルクスは恐慌時に銀行や工場などを国有化して対処することの必要性を説いています。
なお、現代の欧米諸国や日本のように、市場経済のもとで計画経済的性格を伴った体制を混合経済と呼びます。
マルクス経済学と社会主義
マルクス経済学で提唱された計画経済の考え方が、後に社会主義国家の誕生へとつながりました。ここから、マルクス経済学から誕生した社会主義国や、社会主義国の多くが行き詰まったり、資本主義国へ転換したりすることになる主な理由について、詳しく解説します。
マルクス経済学から社会主義国が誕生
マルクス経済学から誕生した最初の社会主義国家がソビエト連邦(ソ連)です。
ソ連誕生以前は、皇帝が治めるロシア帝国が存在していました。しかし、1914年の第一次世界大戦勃発をきっかけに国民の不満が高まり、1917年の革命とともにロシア帝国は崩壊します。
そして1922年には、4つの共和国からなるソ連が誕生しました。誕生後、社会主義経済を進め、一定の成果を挙げます。その後、第二次世界大戦や米ソ冷戦を経て、ペレストロイカ(改革)路線を進めますが、1991年にソ連は解体されました。
なお、ベトナム社会主義共和国やキューバ共和国のように、今も社会主義を掲げている国も一定数存在します。
社会主義がうまくいかなかった理由
社会主義が平等な社会をつくると考えられることもありましたが、現在ではほとんど存在しません。社会主義がうまくいかなかった理由として、主に以下の点が指摘されています。
・インセンティブの欠如
・特級階級が富を独占
・政治的自由を弾圧
各理由について、確認していきましょう。
インセンティブの欠如
インセンティブの欠如が、社会主義がうまくいかなかった理由のひとつです。インセンティブとは、行動を促す刺激や動機、励みなどを指します。
給料や賞与を思い浮かべるとわかるように、人は金銭面のメリットがあると勤労意欲がわき立てられることが一般的です。しかし、平等な社会を目指す社会主義のもとでは、基本的に給料が変わらないため、人々は一生懸命働こうとする意欲が削がれてしまいます。
その結果、社会主義国では経済成長率の低下につながりました。
特級階級が富を独占
皆平等を目指しているにもかかわらず、共産党の幹部など一部の特級階級が富を独占したことで、民衆に強い不信感を与えていたことも社会主義がうまくいかなかった理由です。また、官僚主義で非効率な政治がおこなわれていたことも、社会主義国の成長を妨げる原因となっていました。
なお、共産党とは、社会主義国家の建設と共産主義社会の実現を目指す党を指します。
政治的自由を弾圧
社会主義国で政治的自由の弾圧がおこなわれたことも、社会主義がうまくいかない理由でした。国家が弾圧して民衆の自由を奪うほど、人々の不満は高まるでしょう。
とくにスターリンの時代に、ソ連では多くの人々が収容所や牢獄に送られたり、処刑されたりしたといわれています。そのほかにも、社会主義国では反政府デモへの弾圧がおこなわれました。
マルクス経済学の現在
マルクス経済学から誕生した社会主義国は、あまりうまくいきませんでした。最後に、マルクス経済学の現在を紹介します。
マルクス経済学は衰退した?
ソ連の崩壊などをきっかけに、マルクス経済学は以前ほど重視されなくなりました。ある意味では、衰退したともいえるでしょう。
ただし、マルクスが著した「資本論」は計画経済などを提唱するだけでなく、資本主義を分析した書物でもあるため、現在でも資本主義を語る際に引用されたり、大学の授業で取り上げられたりすることがあります。
現在でも学ぶ一定の価値はある
資本主義を深く知るために、マルクス経済学を学ぶ価値は今もある程度あるでしょう。今から100年以上前にすでに資本主義を批判・分析していたマルクス経済学を理解することで、資本主義が抱える課題とは何かがより鮮明になります。
また、今の経済学を知るだけでなく、経済学の歴史を学びたい場合も、マルクス経済学は避けて通れないでしょう。
マルクス経済学は社会主義に関連
カール・マルクスが古典経済学を批判しつつも継承し、発展させた経済理論がマルクス経済学です。「資本論」に、主な概念や主張がまとめられています。
マルクス経済学の主張のひとつが、計画経済です。後に、マルクス経済学を参考に社会主義国のソ連が誕生し、計画経済が進められました。
経済学の歴史や資本主義の課題を知りたい場合は、一度「資本論」を読んでみましょう。
参考:コトバンク(ブリタニカ国最大百科事典小項目事典)「マルクス経済学」
参考:コトバンク(百科事典マイペディア)「マルクス」
参考:神戸大学「現代の経済、現代と経済Courses第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ」
参考:コトバンク(デジタル大辞泉)「剰余価値」
参考:コトバンク(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)「計画経済」
参考:外務省「ベトナム社会主義共和国」
参考:外務省「キューバ共和国」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。