ケインズ経済学とは何かわかりやすく解説!有効需要の概念も説明

TAGS.

ケインズ経済学は、経済学者ケインズが「雇用・利子および貨幣の一般理論」を発表して誕生しました。マクロ経済学の元となったとされる理論です。

本記事では、ケインズ経済学の概要や、マクロ経済学やMMTとの関係について解説します。

ジョン・メイナード・ケインズとは?

ケインズ経済学の名前のもとになっている、ジョン・メイナード・ケインズとは、20世紀を代表する英国の経済学者のひとりです。ここでは、ケインズが生きた時代や、ケインズの生涯について解説します。

ケインズが生きた時代

ケインズが生きた20世紀中盤までは、第一次世界大戦の勃発やソビエト連邦の誕生、第二次世界大戦の勃発など激動の時代でした。とくに、世界恐慌がケインズの経済思想に大きな影響を与えています。

世界恐慌とは、1929年にアメリカで株価が暴落したことに伴い生じた、世界的な不況を指します。当時、アメリカはすでに英国に取って代わって世界経済の中心となっていたため、アメリカの不況はすぐさま世界に波及しました。

第一次世界大戦で疲弊していたヨーロッパの経済が復調したことで、アメリカのヨーロッパへの輸出量が減少したことが、不況を招いた理由といわれています。その後、アメリカでは当時の大統領であるルーズベルトが「ニューディール政策」を打ち出したことで、経済が安定しました。

ニューディール政策とは、恐慌を脱するために打ち出した救済活動や公共事業政策などの総称です。

ケインズの生涯

ここからは、ケインズの生涯を年表形式で紹介します。

・1883年、英国・ケンブリッジにて誕生する
・1905年、ケンブリッジ大学卒業後、インド省に勤務する
・1909年、ケンブリッジ大学のフェローとして金融論を担当する
・(1914年、第一次世界大戦勃発〜1918年)
・1919年、大蔵省主席代表としてパリ講和会議に参加する
・(1929年、世界恐慌)
・(1933〜1934年、第一期ニューディール政策)
・1936年、「雇用・利子および貨幣の一般理論」を発表する
・(1935〜1937年、第二期ニューディール政策)
・(1939年、第二次世界大戦勃発〜1945年)
・1941年、イングランド銀行理事に就任する
・1944年、ブレトンウッズ会議に首席代表として参加
・1946年、死去

ニューディール政策には、ケインズ経済学が深く関わっています。ただし、第一期ニューディール政策が実施されたのは、「雇用・利子および貨幣の一般理論」を発表する前です。

ケインズ経済学とは?

ケインズ経済学とは、ケインズによる経済学に対する考え方です。主に、自身が著した「雇用・利子および貨幣の一般理論」の中に、ケインズ経済学の主張がまとめられています。

ケインズ経済学で提唱している主な内容は、以下のとおりです。

・有効需要の創出
・乗数理論(公共投資の必要性)
・限界効率理論
・流動性選好

それぞれの内容を詳しく解説します。

有効需要の創出を提唱

「市場経済は放っておけば安定する」と主張した(古典派)経済学の父、アダム・スミスに対し、ケインズは「放っておいたら市場経済は不安定になる」と考えて有効需要の創出を提唱しました。

有効需要とは、貨幣の支出に伴って市場に現れる需要のことです。以下の式で、有効需要を計算できます。

・有効需要 = 消費 + 投資 + 政府支出 + (輸出 – 輸入)

ケインズは、不況時は政府が財政出動し、過剰な生産に応えられるように有効需要を創り出すべきと説きました。

乗数理論(公共投資の必要性)を提唱

ケインズは、乗数理論を用いて公共投資で有効需要を創り出すことの必要性も説きました。乗数理論(乗数効果)とは、投資などの独立支出が国民所得の水準をどれだけ伸ばすかを説明したものです。

ケインズ経済学によると、公共投資をすれば投資と消費が刺激され、政府が支出した金額以上に所得が増加します。つまり、公共投資の財源を確保するための国債発行は問題ないということです。

ただし、政府がいくら金額を支出しても、受け取った人たちが貯蓄にまわして消費性向が低下すると、期待していたような乗数効果は得られません。消費性向とは、もらったお金を消費にまわす割合のことです。

限界効率理論を提唱

ケインズ経済学は、投資に対する利子率の影響を示した限界効率理論も提唱しました。限界効率とは、投資を1単位で増やした際に、発生すると予想される収益のことです。

ケインズによると、金融機関の金利よりも限界効率が高ければ、企業は事業投資をはじめます。低金利で借入をして、新しい事業を立ち上げようと判断するためです。

一方、金利が上昇すると、企業は限界効率がその金利を下回れば企業は投資を実行しなくなります。そのため、ケインズは「景気が悪いときに金利を下げればよい」と提唱しました。

「投資」も構成要素のひとつのため、金利を下げて投資を増やせば、有効需要も伸びます。金利を低下させる金融緩和政策は、現代でも景気を上向かせる手段のひとつです。

流動性選好を提唱

ケインズは、著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」内で、金利に対する貨幣供給や貨幣政策の影響(流動性選好)も説明しています。流動性選好とは、貨幣の流動性に対する人々の選好のことです。

例えば、債券の金利が低い場合、人々は利子を犠牲にしてでも流動性を優先して貨幣を保有することを決めます(流動性選好が上昇)。それに対し、金利が上昇した場合、貨幣に対する需要は小さくなるでしょう(流動性選好が低下)。

ケインズ経済学に関する用語

ケインズ経済学に関連する用語として、以下が挙げられます。

・マクロ経済学
・MMT(現代金融理論)

それぞれ確認していきましょう。

マクロ経済学

マクロ経済学は、ケインズ経済学(雇用・利子および貨幣の一般理論の発表)をきっかけに誕生した学問といわれています。マクロ経済学とは、政府・企業・家計を一括りにして経済社会全体の動きを示した学問です。

マクロ経済学では、国内総生産(GDP)を以下の式で算出できると考えます。

・Y(国内総生産) = C(消費) + I(投資) + G(政府支出) +(X(輸出)-M(輸入))

また、一国の生産・分配・支出は一定期間経過後に等しくなる「三面等価の原則」から、以下もマクロ経済の原則です。

・国内総生産 = 国内総所得 = 国内総支出

上記の2つの式は、今でも経済を語る上で欠かせない概念です。

なお、「巨大な」マクロ経済学に対し、「非常に小さな」ミクロ経済学も存在します。ミクロ経済学とは、家計や企業を対象に行動や意思決定がどのようになされるかを扱う学問のことです。

MMT(現代金融理論)

MMTは、ケインズ経済学をルーツとするマクロ経済学の理論です。英語の「Modern Monetary Theory」を略したもので「現代貨幣理論」と表現することもあります。

MMTは20世紀末に誕生し、2019年以降に広く知られるようになった比較的新しい理論です。主な主張として、以下の点が挙げられます。

・財政赤字の場合でも、インフレにならない範囲であれば、政府は国債を発行して積極的に支出すべき
・通貨発行権を持つ国は、財政赤字でも破綻しない

なお、巨額の財政赤字でもインフレや金利上昇が生じていないため、日本はMMTの成功例であると、MMT肯定派から主張されることがあります。

ケインズ経済学の影響を受けた人物

ケインズ経済学は現代にも、大きな影響を及ぼしています。とくにケインズ経済学の影響を受けたとされる人物が以下のとおりです。

・ジョセフ・E・スティグリッツ
・ポール・クルーグマン

ケインズ経済学者として知られる、2人の功績や主張について簡単に紹介します。

ジョセフ・E・スティグリッツ

ジョセフ・E・スティグリッツは、1943年アメリカ生まれの経済学者です。

1966年にマサチューセッツ工科大学で経済博士号を取得したのち、1995年から2年間当時のクリントン政権で大統領経済諮問委員会委員長を務めました。1997年から2000年まで、世界銀行のチーフエコノミストも務めています。

情報が不完全で非対称の場合における市場への影響を解明しようとしたことが評価され、2001年にノーベル経済学賞を受賞しました。

ポール・クルーグマン

ポール・クルーグマンは、1953年アメリカ生まれの経済学者です。

1977年にマサチューセッツ工科大学で経済博士号を取得したのち、同大学やスタンフォード大学、プリンストン大学の教授を務めました。レーガン政権では経済諮問委員会上級エコノミスト、世界銀行や国際通貨基金でもエコノミストを務めています。

クルーグマンは、新たな国際貿易論を構築したことや、空間経済学(新経済地理学)を確立したことが評価され、2008年に単独でノーベル経済学賞を受賞しました。

ケインズ経済学はマクロ経済学の礎

ケインズ経済学は、英国の経済学者であるジョン・メイナード・ケインズの主張に基づく考え方です。世界恐慌が生じた際は、アメリカのニューディール政策に大きな影響を与えたとされています。

ケインズ経済学は、現在でも大学の経済学部などでマクロ経済学として学ぶ機会があるでしょう。今までマクロ経済学に触れたことがない方でも、ケインズの著書である「雇用・利子および貨幣の一般理論」でケインズ経済学の主張を確認できます。

参考:コトバンク(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)「ケインズ経済学」
参考:コトバンク(デジタル大辞泉)「ケインズ経済学」
参考:コトバンク(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)「ケインズ」
参考:コトバンク(日本大百科全書(ニッポニカ))「ケインズ」

ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。

用語解説

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード