若冲コレクションから見える投資家像
提供元:野村證券(FINTOS!編集部)
江戸期の画家「伊藤若冲」の作品を含む江戸絵画コレクションで知られる米国の美術収集家ジョー・プライス氏の逸話を、「投資」という側面から考察したい。
プライス氏が江戸絵画を初めて購入したのは1953年に遡る。ニューヨークを訪れた際に、たまたま入った東洋美術の店で「若冲」の「葡萄図」に遭遇し、どうしても欲しくなり購入したのが始まりである。当時「若冲」の絵画は評価されておらず容易に入手できたが、プライス氏は若冲の名前はおろか、日本の絵画であることさえも認識せずに購入したという。
「若冲」の絵画の持つ本質的な美しさと目を見張るような素晴らしい技術に心を奪われたことで、その後、数百ともいわれるプライス氏の質の高い江戸絵画のコレクションが築かれることになる。「投資」という側面から考察すると、自分自身で投資対象の価値を見抜いた上での賢明な投資だったと言えよう。
またプライス氏は、江戸絵画は自然の光の中で見るのが一番であると理解しており、美術館の採光も自然光を取り入れた間接照明を多く活用した。また日本で大人気を博した展覧会では、時間の流れによる照度変化や障子越しの自然光を活用など、鑑賞方法の工夫による新たな価値創造に貢献した。
同時に自身のコレクションを積極的に公開することで多くの研究者とコミュニケーションをとり、そこで新たな発見や価値を知ることに喜びを感じたという。それらの研究を基にした書籍等による知識の広がりと展覧会との相乗効果で注目が集まり、コレクションの価値も徐々に上昇していったと考えられる。
その過程では、自ら建設を主導した米国の展示施設において、施設関係者の理解不足により提供したコレクションが丁寧に扱われないなど期待を裏切られる出来事もあったというが、コレクションの公開を止めなかった。
翻って、現在我が国では日本企業の価値向上に向けた様々な取り組みが進行している。企業自らの取り組みが重要なのは当然ながら、関係する利害関係者と良好な関係を保ちつつ価値創造を働きかける理想的な投資家の姿がプライス氏の逸話から浮かび上がってくるように思える。
(野村證券投資情報部 山本 昌幸)