2023年10月号「投資環境レポート」
中立金利上昇の可能性とその含意
提供元:野村アセットマネジメント
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野村アセットマネジメントでは、毎月、世界経済や金融市場の注目点を投資環境レポートとしてお届けしています。
10月の投資の視点は、「中立金利上昇の可能性とその含意」です。
<注目点>
●リーマンショック以降は長期停滞論が台頭し、異例な金融緩和政策の下で歴史的な低金利が続き、中立金利低下が指摘されてきた。しかし、コロナショックと40年ぶりのインフレを経て、足元では中立金利上昇の可能性が取りざたされるようになっている。
●当面はサプライチェーン再編、グリーン化やAI投資、国防支出などの中立金利押し上げ要因が優勢だと考える。インフレ抑制に必要な政策金利は従来考えられてきた水準より高く、より長い期間その状態を維持しなければならないだろう。また、安全資産利回りの上昇を通じて投資家のリスクプレミアムを追及する動機を和らげよう。
中立金利とは
中立金利が上昇しているのではないかとの議論が出てきた。中立金利とは、経済が過熱も冷えすぎてもいない、つまり人口と生産性の伸びで決まる潜在成長率と同じペースで需要が伸びており、その結果過大な失業もインフレもともに抑えられている状態の実質金利とされ、r*とも表記される。
近年、特にリーマンショック以降は長期停滞論が台頭し、異例な金融緩和政策の下で歴史的な低金利が続き、中立金利が下がっている可能性が広く議論されてきたのだから、様変わりである。
例えば、英中銀グリーン委員は貯蓄投資バランスの変化が中立金利を押し上げる可能性を指摘した。日銀の植田総裁も、低金利が長く続く状態とは異なる新常態への移行の可能性に言及した。また、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も、9月の会見で急激かつ大幅な利上げをしてきたにもかかわらず想定以上に景気が堅調に推移していることを認め、その背景として「中立金利は上昇しているかもしれないが、わからない」と可能性は排除していない(図2参照)。ここではその背景と資産運用上の含意を考えてみよう。
これはリーマンショック後の歴史的低金利が、コロナショックなどによる40年ぶりのインフレを経てどこに落ち着くのかという重要なテーマだが、中立金利は直接観測できず、その推計はかなりの幅を持ってみるべきだろう。例えばニューヨーク連銀の推計では、2023年4-6月期の米国の中立金利は0.6%弱であるのに対し、リッチモンド連銀の別の推計では1-3月期に2.2%弱と大きく異なる(図3参照)。
経済のバランスが取れ、インフレ目標とされる2%が達成されると人々が考えるなら、名目の中立金利はr*に2%を加えた水準になる。例えば、ニューヨーク連銀の推計に基づくと、名目の中立金利は2.6%となる。9月時点の政策金利は5.5%で中立金利を大きく上回る引き締め状態にある。これは成長率が潜在成長率を、インフレ率が目標値をそれぞれ上回る経済の過熱状態を冷やすためである。
中立金利とは金利の基準であり、経済状態が過熱していれば政策金利を名目の中立金利より高く、冷えすぎていれば名目の中立金利より低くすることで、バランスの取れた状態に戻そうとするわけだ。
中立金利を左右する要因
では中立金利を左右する要因は何だろうか。定義に照らせば、働く人が増えれば(高齢化に伴う働く人の減少は逆)、あるいは一人当たりの生産性が上がることを通じて潜在成長率が高まれば、中立金利も上昇する。人工知能(AI)の広範な活用は、生産性が高まる可能性の一例だろう。そもそも実質金利が、現在の豊かさを今享受せずに、未来に投資した結果増える豊かさとの交換比率だと考えれば、以上の説明も納得されよう。
同じことを貯蓄と投資のバランスでみれば、貯蓄が減る、あるいは投資が増えれば、資金が不足気味になり中立金利は上昇する。この観点からすれば、米中対立や反グローバル化を背景に国内に工場を作る動きや、グリーン化やAI関連投資の高まりは中立金利を押し上げる。また、コロナショック対応や国家安全保障コストの増加など財政赤字が拡大(資金需要が増える)する場合も上昇する。
他方、高齢化はより長い退職後の生活を支えるための貯蓄需要を増やすため、中立金利を押し下げる要因と考えられる。同様に人々が何らかの要因で不安に駆られるようになれば、投資は控えられ、万が一に備えた貯蓄を増やすだろうから、これも中立金利を下げる(図4参照)。
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(提供元:野村アセットマネジメント)