多く受け取ったおつりを「ラッキー」と使ってしまうのはNG!
紙幣をコピーするだけでも犯罪? うっかり厳禁“お金”に関する法律
子どもがごっこ遊びで紙幣をコピーしたり、うっかり破いたりした場合、罪に問われてしまうのだろうか?
アディーレ法律事務所の一宝雄介弁護士は、「日常のなかでなんとなくしてしまう行動が、罪と見なされてしまうことがあります」と話す。具体的にどのような行動に注意が必要か、聞いた。
「硬貨を壊す」はNG、「紙幣を破る」はセーフ
●銀行口座を売買する
2022年4月に成年年齢が18歳に引き下げられ、高校生でも親の同意なしに銀行口座をつくれるようになった。近年、ニュースになることの多い闇バイトのなかには、銀行口座を転売するものもあるが、そもそも銀行口座の売買は犯罪収益防止法28条で禁止されている違法行為。
「犯罪収益防止法違反で、1年以下の懲役または100万円以下の罰金、またはこれらの罰が併科されます。他人に譲渡する目的で口座の開設をした場合は、その時点で詐欺罪にも当たる可能性があります。銀行には取引名義人の確認と、名義人と行為者の同一性の確認が義務付けられているため、他人に譲渡する目的があると、その点を偽ったと見なされるからです」(一宝弁護士・以下同)
犯罪収益防止法は、もともと暴力団等の犯罪組織の収益の移転を防止し、犯罪の防止、国民生活の安全と平穏を確保することを趣旨とするもの。暴力団員等は、基本的に口座が開設できない。第三者を介して口座を売買し、犯罪組織が口座を自由に使用できるようになる事態を防止するため、28条が設けられているのだ。
●貨幣を故意に汚したり壊したりする
紙幣や硬貨に絵や文字を描いてしまったとしても、お金として使う際に影響のあるものでなければ、罪には問われないようだ。
「ただし、お金として使う目的で貨幣を変造(既に存在するものに手を加えて、不正なものをつくり出すこと)した場合は、刑法148条の通貨変造罪に当たり、無期または3年以上の懲役となります。例えば、本物の1000円札に手を加えて1万円札のように見せ、一般人に誤認させると、変造に当たる可能性が高いといえます」
では、貨幣を破壊してしまった場合は、どうなるのだろうか。どうやら、硬貨と紙幣で異なるらしい。
「硬貨は、お金として使う目的がなかったとしても、作成したり毀損したりすることは貨幣損傷等取締法で禁止されており、1年以下の懲役または20万円以下の罰金になります。例えば、マジックのために硬貨に細工をするのは、法律違反になる可能性があるのです。一方、紙幣(日本銀行券)に関しては、毀損を罰する法律はありません。紙幣は、劣化により破れやすくなってしまうものだからだと考えられます」
●紙幣をコピーする
紙幣は毀損しても罪にはならないが、お金として使う目的がなかったとしても、コピーをするのは罪に当たる。ごっこ遊びや金融教育のためであったとしても、紙幣のコピーはNGなのだ。
「紙幣を使用する目的でコピーすると、通貨偽造罪に当たります。使用する目的がなくても紙幣のコピーをつくるだけで、通貨及証券模造取締法という法律違反になり、1カ月以上3年未満の懲役となります。なお、多くのコピー機では、紙幣をコピーしようとした段階でアラートが鳴り、コピーできないようになっています」
日々の買い物での“うっかり”が違法行為になる!?
●多くもらったおつりを返さない
買い物や食事をした際、店側のミスでおつりを多くもらってしまった場合、気付いていて返金しないと罪に問われてしまう。ただし、気付くタイミングによって、罪の重さは変わるという。
「おつりを受け取った時点で多いことに気付きながらも、そのまま持って帰ってしまった場合は、詐欺罪が成立し得ます。多く受け取ったことに気付いた時点で、店側に告知するべき信義則上の義務が発生することから、告知せずに店を欺いて不正に金銭を受け取ったと見なされるからです。詐欺罪は10年以下の懲役となります」
おつりを受け取った時点では気付かず、後から多かったことに気付いた場合は、詐欺罪は成立しないそう。
「ただし、多く受け取ったお金を『ラッキー』と自分の財布に入れるなど、自分のお金として消費する意思を持った時点で、占有離脱物横領罪に当たる可能性があります。占有離脱物横領罪は1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料が科されます。店のお金なので、気付いた時点で返金しましょう」
●セルフレジで商品を通し忘れる
コロナ禍を機に、一気に増えているセルフレジ。うっかり商品をスキャンし忘れ、そのまま持ち帰ってしまうということもあるかもしれないが、これも罪に問われる行為。
「うっかりスキャンし忘れてしまった過失であっても、後になって気付いたにもかかわらず、そのまま商品を使ったり食べたりした場合は、占有離脱物横領罪が成立し得ます。気付いた時点で店側に告知し、代金を支払いましょう。ちなみに、意図的にセルフレジを通すふりをして商品を手に入れた場合は、窃盗罪が成立します」
●落ちている財布やATMなどに放置されたお金を持ち去る
道端や街中で見つけたお金を持ち去るのは、当然犯罪と見なされる。ただし、その場のシチュエーションによって適用される罪が変わってくるという。
「例えば、特定の人が財布を落としたところを目撃していて、その人が立ち去ってから財布を得た場合は、窃盗罪が成立し得ます。窃盗は『占有者の意思に反して財物に対する占有者の占有を排除し、目的物を自己または第三者の占有に移すこと』とされているため、財布の持ち主が落としたことに気付いて拾える距離や時間にある間は、持ち主が占有者となるため、その財布を持ち去る行為は窃盗に当たるといえるのです」
同じように落ちていた財布を持ち去ったとしても、落とした人がわからない場合は、窃盗罪に当たらないようだ。
「財布を落とした人がわからない、落とした場面を見ていない状態で、その財布を持ち去った場合は、占有離脱物横領罪に当たると考えられます。財布が落とした人の占有から離れていると、判断される可能性が高いからです。財布の落とし主の占有にあるかないかは、落とした時点からの時間や距離などをもとに、総合的に判断されます」
落とした財布が持ち去られた事件の判例を見てみると、平成16年8月25日に裁決された事例では、財布を落としたベンチから27メートル離れた場所まで歩いたところで被害者が落としたことに気付いたため、占有が失われていないとして、窃盗罪が認められている。
平成3年4月1日に裁決された事例では、スーパーマーケットの6階のベンチに財布を落としたまま、被害者がエスカレーターで2分20秒かかる地下1階まで移動し、10分後に6階のベンチに戻った。このケースでは被害者の占有が認められず、占有離脱物横領罪となった。
「今回の例はお金でしたが、物品も同様に判断されます。ただ、物品だと持ち主が意識的にその場に置いて、離れるケースもあります。乗り捨てられているように見える無施錠の自転車も、持ち主が駐車の意思を持ってその場に置いている可能性があります。このように意識的に置かれたものは、遠く離れても占有が継続すると見なされ、窃盗罪が成立した判例があります」
会社のお金での買い物は「横領罪」に当たる
●会社から預かったお金で私用の買い物をする
会社からお金を預かって出張に出たり、買い出しなどを行ったりする際、そのお金で業務とは関係ない飲み物や食べ物を買った場合、横領罪に問われてしまうのだろうか。
「たとえ数百円の買い物でも、業務上横領罪に当たる可能性があります。横領罪の成立に関しては、補填できる資力と意志があれば一時的な流用は横領罪に当たらないとする考え方もあるのですが、過去には補填する資力も意思もあったものの、最高裁で横領罪とされた判例もあるため、会社のお金で私用の買い物をするのは控えたほうがいいでしょう」
一宝弁護士が話してくれた判例は昭和31年のもので、現在とは貨幣価値に違いがあるが、会社のお金1000円を従業員が一時流用したというもの。従業員に補填の意思はあったが、金銭的にひっ迫していて確実に補填される見込みがないといったことなどの状況から、横領罪が認められた。
紹介した事例のなかには、かつてやってしまったと思い当たるものがあるのではないだろうか。思いがけない紛争を回避するため、罪に当たる可能性のある行動は避けたほうがいいだろう。
(取材・文/有竹亮介(verb))