ハーバード大での生活が堅実派へのきっかけ

モーリー・ロバートソンさんは「日々の議論」により、お金の失敗を回避する

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テレビのコメンテーターやラジオパーソナリティとして活躍し、どんなニュースに対しても知的で、なおかつ柔らかな感性でコメントするモーリー・ロバートソンさん。若い頃には、東京大学を1学期で中退してアメリカのハーバード大学に渡ったり、一方で早くからパンク・ロックに傾倒したり、さまざまな顔を持つ方です。

そんなモーリーさんだからこそ聞いてみたいのが、お金や投資に対する考え方。たとえば、お金の使い方は堅実なのか、パンクなのか……。質問してみると「とても堅実だと思います」とのこと。デパートで奈良漬を1つ買うにも、その値段が妥当かどうか、慎重に検討するほどなのだとか。

ということで、このたびモーリーさんにお金や投資に関するインタビューを前後編にわたって実施。まず前編では、お金との向き合い方や価値観を尋ねました。

世の中のさまざまな商品の値段を問う「会議」とは


――お金については堅実なタイプなんですか?

モーリー:かなり堅実な人間だと思いますよ。ちょっとした買い物でも、その値段が的確かどうか、いつも細かく考えています。

私は奈良漬が大好きでよく買うのですが、この前買った奈良漬は、私がいつも食べている老舗のものより少し高かった。どうしてデパートに売られているこの商品が、老舗のものより高いんだろうと、その理由を知りたくなってあえて買いました。食べてみると、正直なところいつも買っている老舗の方がおいしかったですね。

とにかく安ければいい、というわけではないんですよ。高くてもそれだけの価値があればいいですし、逆に価値があっても老舗の奈良漬のように、売る方の考えや昔からの流れで安く売っていることもあるでしょう。いずれにしても、あらゆるものについて値段が妥当かどうか、いつも考えていますよ。

――相当細かくお値段をチェックされるんですね。

モーリー:普段から私と妻、そして仕事のアシスタントをしてくれている者の3人で、必ず行う会議があります。世の中のさまざまな商品に対して、値段が高すぎるか安すぎるか、妥当かどうかを議論するのです(笑)。奈良漬でもいいですし、NFTのような新しいものでもいい。それぞれ気になった商品を端から挙げていきます。

――そんな会議まで行っているんですか。

モーリー:私がみんなに聞くのは、インターネット系のソフトなどが多いですね。パソコンでCGを作るときの素材集がいくらで売られているけど、「これ高いと思う?」と意見を求めたり。アシスタントは、よく低価格なアパレルブランドの服を持ってきて、私たちに印象を尋ねています。

このメンバーで百貨店に行ったときはすごいですよ。1階から順番にお店を見ながら、同じ調子でずっと議論します。値段が安いか高いかもそうですし、前に来たときと比べてそのお店が賑わっているのか、業績が上がっていそうか。このお店は誰をターゲットにしていて、それに見合った商品が置かれているのか、など。まるで経営コンサルタントのように分析しています(笑)。

――この議論がモーリーさんたちの日常なんですね。

モーリー:毎日こういうことをしていると、値段について「見極める力」を日頃から鍛えられるんです。その金額が適切なのか、自分が買っても後悔しないものなのか。逆にいえば、怪しい話にも引っかかりません。安いと感じたら、その金額には何かカラクリがある、裏があると思うわけです。日々の議論の蓄積で判断できるんですね。

お金の仕組みに興味を持ち、税務の勉強をしようと生涯学習講座へ


――そういったスタイルは、いつ頃から身についていたんですか?

モーリー:1つのきっかけは、アメリカで大学生活をしていた頃です。あるとき美術館のバイトに行ったのですが、時給は最低ランクで、仕事内容も1日廊下に立って、美術品に触りそうな人がいたら注意するだけのものでした。そのとき私は、なんだか自分が過小評価された気になり、もっと私自身の価値を高めればいい仕事に就けるはずだと思ったのです。そこでいろんな本を読み、自分の価値を上げる方法を考え始めました。

その中に、アーティストが収入を上げる方法について書かれた本がありました。もう絶版になってしまったのですが、内容としては、アーティストは芸術を生み出す力は持っているけれど、お金の管理が苦手な人が多く、そのせいで数知れない才能が潰えたと。

簡単な例として、画家は当たり前のように一番良い画材を購入するが、場合によっては、先に目の前の仕事の売上がいくらになるかを見積もり、その金額に見合った画材を買うのも方法だと。書かれていたのは、こういった非常に基本的なことです。そのほか、仕入れコストの圧縮法や税金対策などにも言及していました。

――それがモーリーさんのお金に対する考え方にも影響を与えたということですか?

モーリー:この本がきっかけで、私はお金の管理に興味を持ち、地域で受けられる生涯学習講座で税務について学ぶほどになりました(笑)。以来、自分の支出を厳しくコントロールしてきましたし、お金の使い方も堅実になりましたね。

その後、私は日本に帰ってきてラジオパーソナリティとして仕事をいただくようになるのですが、当時、仲の良かったバンドの人たちとこんなことがありました。そのバンドは、ライブの売上管理も雑で、日々の会計もきちんとしていない、お金の出入りがカオスな状態でした。

きちんと管理すればバンドのためになると思い、使いすぎている項目を指摘したり、レシートはきちんと取っておくように口酸っぱく言ったり、税理士のようなことをしたのです。友達として貢献しているつもりでした。

でも、バンドメンバーからは嫌われてしまいましたね(笑)。彼らはこの生活が幸せだったわけで、細かなことは考えず、気楽にやっていたかったのです。人それぞれ価値観が違うことを学びました。

それは1つの経験でしたが、私自身のお金に対する考え方はあの頃から一貫して変わっていません。きわめて堅実だと思います。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2023年10月現在の情報です

お話を伺った方
モーリー・ロバートソン
日米双方の教育を受けた後、東京大学とハーバード大学に現役合格。ハーバード大学を卒業後、タレント・ミュージシャン・国際ジャーナリストとしてTV・ウェブコンテンツを中心に幅広く活躍中。著書「悪くあれ!窒息ニッポン、自由に生きる思考法」も好評発売中。
著者サイト:http://officemorley.com
著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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