海外上場ETFに比べたメリットとは

“米国株マスター”のマネックス・岡元兵八郎氏は「東証上場ETF」の使い方をどう考える?

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近年、世界中の投資家に活用されている金融商品のひとつがETF(上場投資信託)だ。その名の通り、株式と同様に“上場している”投資信託となる。

ETFは各国の証券市場で取引されており、東京証券取引所でも多くのETFが上場されている。では、この「東証上場ETF」に対して“投資のプロ”はどんな印象を持っているのだろうか。どういった使い方が良いと考えるのか。

そこで話を聞いたのが、マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ室 シニアフェローの岡元兵八郎氏だ。投資界隈では知らない人のいない「米国株マスター」であり、ハッチの愛称で知られる同氏は、東証上場ETFの価値、あるいは課題をどう捉えるのだろうか。

東証上場ETFを担当する東京証券取引所 株式部株式総務グループ兼ETF推進部・上場推進部の岡崎啓さんが対談相手となり、良い点・悪い点を含めて率直な意見を聞いてみた。

「日本の個人投資家には、まだまだETFが浸透していない印象」


岡崎 東証は2001年にETF市場を創設し、それ以来さまざまなETF銘柄が上場されてきました。TOPIXや日経平均株価に連動するものがよく知られていますが、ほかにもS&P500やNYダウ、ナスダックをはじめとした米国株に連動するものや、米国債に連動するもの、あるいは欧州や新興国を対象にしたものなど、さまざまな地域・アセットを対象にした銘柄があります。

こういった海外資産に連動するETFは当初、取引額が少ないという課題があったのですが、2018年からマーケットメイク制度(※)を導入し、流動性を高めながら低いコストで取引できる環境を作ってきました。東証としては、投資家が取引コストを抑えて取引出来るという点には、強いこだわりをもって制度を作っています。

※銘柄ごとに指定されたマーケットメイカーが常時「売り」「買い」の気配値を提示することで、対象のETFに対して、需給動向を踏まえた公正な価格で十分な量の気配が提示される。これにより、投資家が売買をしたいタイミングで、より良い価格で売買する環境を提供できる。

堅い説明はこのくらいにして、岡元さんは東証上場ETFについて率直にどんな印象を持たれていますか。

岡元 これまで「ほとんど見る機会がなかった」というのが正直なところです。私は米国株が専門であり、日々そちらの業務で手一杯になっていて(笑)、なかなか東証上場ETFについて詳しく考える機会はありませんでした。

ただひとつ思うのは、日本の投資家、特に個人投資家にはまだETFが浸透していない印象があります。というのも、私もかつて海外上場のETFを日本の金融機関に紹介していた時期がありましたが、浸透するまでにはそれなりに苦労しました。プロ(金融機関)でもその状況だったので、個人投資家に広まるのは時間がかかるかもしれません。

岡崎 おっしゃる通りで、個人投資家への周知がなかなか進まないのは、私たちの課題でもあります。一般の投資信託とは異なるETFのメリット、たとえばつねに市場価格が見えることや、その価格でリアルタイムに売買できることなどをうまく伝えていきたいですね。

岡元 これから投資を始める人や、投資歴の浅い人にとっては良い商品だと思います。初心者がいきなり個別株を買うのはハードルが高く、数ある企業の銘柄からひとつ選ぶのは簡単ではありません。まして私の専門である米国株ならなおさらです。であれば、まずはアメリカの市場全体や指数を対象にしたETFから入っていく。そういう使い方は適していると思います。

もちろん、アメリカの市場に紐づいたETFなら、東証ではなくニューヨーク上場のETFを売買する手段もあるでしょう。いまは多くの国内証券会社で取引できますよね。とはいえ、初心者の方が外国株口座を開き、いきなり海外のETFを買うのは心理的なハードルがあります。日本時間の夜中に注文が執行されるアメリカに比べると、日中にリアルタイムで売買できる東証上場ETFの方が初心者に優しいのは想像に難くありません。

岡崎 ETFは個別株に比べるとリスクが分散されている銘柄も多いので、そういった点でも初心者の方には向いていると思います。

岡元 個別株は1日で株価が数%レベルで大きく動くこともあり、慣れていない方は“一過性”の下落に怖さを感じて手放してしまいます。それは不幸の始まりなので、まずはETFで値動きに慣れ、知識をつけてから個別株に移ると良いのではないでしょうか。

経験豊富な投資家が気になるのは「為替」の問題


岡崎 ここまでは「初心者に適している」という話でしたが、投資歴の長い人にとって東証上場ETFはどう見えるでしょうか?

岡元 長期投資の手法として使うのであれば、特段気になる点はないと思います。反対に、短期投資メインで海外資産に連動するETFを買う人には、候補になりにくいでしょう。仮にS&P500 のETFについて、リアルタイムで値動きを見ながら短期売買したいとなると、当然ニューヨーク上場のETFを選びますから。

もうひとつ気になるのは「為替」の問題です。海外資産に連動するETFを売買するなら、現地の市場価格と為替は分けて考えたいのが玄人の感覚ではないでしょうか。東証上場ETFは円建てで売買する、つまり為替レートで米ドルから日本円に換算しているので、資産そのものの価格の変動に加えて、為替レートの変動によって資産の評価額が変わってきます。それは避けたい方もいるかもしれません。

岡崎 為替の問題は私たちもポイントと捉えていて、ひとつ海外上場ETFに対する比較で伝えたいのは「為替の調達コスト」です。海外上場ETFは、売買をする個人投資家が為替調達も行っていて、調達のたびに数十銭というコストがかかっていますが、東証上場ETFの場合、多数の個人投資家の注文を一度にまとめて専門家である運用会社が大量の為替を調達することで、個人投資家とは比較にならないほど、低コストでの調達になっています。アメリカの投資家であればドルでの取引が自然ですが、東証上場ETFは日本の投資家のために作られたので、個人投資家は円で取引して、でも運用会社が代わりに為替を調達してくれています。この点も今後は伝えていきたいと思っています。

さまざまな国・アセットへの分散投資に使うのは「理に適っている」


岡崎 アメリカ由来のETFを中心に話してきましたが、対象を広げてヨーロッパや新興国への投資という観点で見たとき、東証上場ETFはどうでしょうか。

岡元 やはりこれも長期投資であれば有用だと思います。資産運用はさまざまな国・アセットへの“分散投資”が基本ですし、国だけでなく、債券やコモディティのETFも含めて活用できるのではないでしょうか。

岡崎 たとえば近年、全世界の市場を対象にした指数と連動するETFも増えており、分散投資につながるということで人気になっています。こういったETFなら為替コストもあまり気にならないので、東証上場ETFのメリットは大きくなるのではないでしょうか。

岡元 それはその通りですね。全世界対象のETFだと、(時差の関係で)常にどこかの市場は閉まっていることになります。日本の取引時間にリアルタイムで売買できるケースがあるのであれば、わざわざ海外上場ETFを選ばなくても良いでしょう。

東証上場ETFは、投資初心者が個別株をやる前の段階で、あるいは投資上級者でも長期投資や分散投資の手段として使うには、理に適っていると思います。どんな用途にも最適な、万能な金融商品はありません。自分の投資計画やリスク許容度に合わせた使い分けが必要であり、東証上場ETFにおいては、いま話した使い道が当てはまるのではないでしょうか。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2023年11月現在の情報です

お話を伺った方
岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー
著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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