「透明性の高いETFは日本人に合っている金融商品なのかも」
元プロ野球選手・里崎智也が東証で学ぶ「ETFの魅力ってなに?」
現役時代から毎月10万円の積立貯金を行うなど、堅実な資産形成を行ってきた元プロ野球選手の里崎智也さん。引退後、2019年から個別株への投資や投資信託での資産運用などを開始し、さまざまなメディアを通じて投資の意義も広めている。
そんな里崎さんが東京証券取引所を訪れたのは、まだ経験のない金融商品「ETF」を知るため。東証マネ部!“中の人”との対談を通じて、その魅力を学んでいく。
投資信託の積立はビッグゲームはないけどバッドゲームにもならない
東証「里崎さんは投資を実践されているとのことですが、現在はどのような手法で運用されているのですか?」
里崎「いま運用しているのは国債と社債、投資信託、保険です。最初は個別株への投資から始めたんですよ。現役時代にしていた月10万円の貯金が、引退するときには2000万円弱くらいになっていたので、それを全部投資に回そうと思って、ソフトバンクやAmazonなどの身近な会社に投資しました。結果的に利益は得られたんですが、いつも相談している銀行の方が『里崎さんは忙しいので、瞬発的に動かなくていい投資信託にしたほうがいいかもしれない』と教えてくれたので、投資信託に移行したんです」
東証「投資信託に加えて、国債や社債も選択するところが堅実ですね」
里崎「投資信託の購入はなくなってもいいお金でやっているんですが、国債にはなくなってほしくないお金を入れています。さすがに日本がつぶれるとは考えにくいし、銀行に預けておくよりは国債のほうが金利も高いので、長期的な資産運用の手法としては手堅いと思って選びました。社債も、きっとつぶれないだろうと感じる会社や配当がいい会社を選ぶようにしています」
東証「お話を聞いていると、投資の本質を理解されているのだと感じます。おっしゃる通り、債券は預貯金よりもリターンはありますが、投資信託や株式と比べると低い。その分リスクも低いので、手堅い投資といえます。一方、株式はハイリスク・ハイリターン。投資信託のリスク・リターンは、投資対象にもよりますが、概ね債券と株式の間くらいのイメージです。投資においては、多くの人が求める“ローリスク・ハイリターン”はありません」
里崎「日本人はリスクを捉える力が弱いですよね。お金を増やす方法である『労働』と『投資』を並べたときに、多くの日本人は『投資はリスクがあるけど、労働はない』と思いがち。でも、明日交通事故にあって働けなくなり、収入がゼロになる可能性はある。そう考えると、労働にもそれなりのリスクがあると思うんです。だから、投資も活用して、自分のお金を分散させていかないといけないなと」
東証「その通りです。お金の分散はとても重要な考え方で、労働と投資の分散ももちろんですし、投資においては『資産』『地域』『時間』の分散を実践することで、安定した運用を目指せます。例えば、日本円だけでなく外貨も持ったり、日本・先進国・新興国の資産をバランス良く持ったり。時間の分散も重要で、日経平均株価が3万8915円という最高値をマークした1989年に100万円で一括投資をすると、2019年3月末に約46万円の含み損が出たのですが、1989年から2019年まで毎年末3万3000円ずつ積立投資をしたら、その間、株価は1万7000円以上下落したにもかかわらず、約45万円の含み益が出たというデータがあります」
里崎「目先の利益にこだわらず、積み立てるって大切ですよね。高くても安くても買い続けることで平均値が取れるから、ビッグゲームはないけどバッドゲームにもならない。特に投資信託だと、複数の会社や資産に分散できるから、より安心感がありますよね。ところで、投資信託って値下がりが続くことはあるんですか?」
東証「その投資信託の投資先にもよりますが、右肩下がりというケースはあまりないと思います。というのも、長い目で見ると世界のGDPは伸びており、一時的に下落したとしても、長い目で見れば上昇基調のファンドのほうが多いのは事実です。また、値下がりが続く資産を投資対象とする投資信託は人気を集められないことから、徐々に淘汰されていきます」
里崎「やっぱりそうですよね。いろいろな投資信託のチャートを見ても、下がり続けているものはあまり見たことがないので、株式と比べて分散効果が効いていて安心しました」
コストが低く透明性が高い「ETF」
東証「里崎さんは既に投資信託を活用されていますが、実はいい投資信託を探すためのポイントがあります。『保有コスト』です。インデックスファンド(株式指数などに連動する運用成果を目指す投資信託)においては、保有コストの差が成果にも大きく影響します。ここでいうコストとは信託報酬のことで、投資信託を保有していることで発生する費用です」
里崎「投資信託を購入するときに支払う手数料とは違うものですか?」
東証「購入手数料とは別で、保有している資産のなかから自動的に差し引かれるのが信託報酬です。そのため、支払っていることに気付きづらいのですが、投資信託を長く保有するほど影響が大きくなるので、信託報酬が低い投資信託を選ぶといいといえます。仮に、投資信託Aと投資信託Bという2つの商品に、それぞれ100万円を10年間投資したとします。Aの信託報酬は年0.34%、Bは年0.09%で、まったく同じ値動きをした場合、10年間で約2万5000円の差が生じるのです」
里崎「数万円単位で差が出るなら、コストが低いほうがいいですよね」
東証「そこで知っていただきたいのが、ETFなんです。ETFは『上場投資信託』と訳される投資信託なのですが、個別株と同じように取引所でリアルタイムでの売買ができます。また、保有コストが低いところも特徴です。投資信託全銘柄の信託報酬の平均は年1.27%(出所:金融庁、2022年末現在)ですが、ETF全銘柄の平均は年0.33%(2023年7月現在)。かなり抑えられることがわかります」
里崎「なぜ、投資信託とETFの信託報酬にはそこまでの差があるんですか?」
東証「これにはちゃんと理由があります。信託報酬は、販売や運用に携わっている会社に決まった割合で分配されるもので、投資信託の場合は販売会社(証券会社や銀行)、委託会社(運用会社)、受託会社(信託銀行)で分けます。一方、ETFは委託会社と受託会社だけで分けるため、販売会社に分配する手数料がない分、コストを下げられるのです」
里崎「投資信託は販売会社という代理店を介して販売するけれど、ETFは代理店を介さず、委託会社が取引所で直接販売しているようなイメージですね」
東証「まさにおっしゃる通りです。このことから、同じ株価指数への連動を目指す投資信託とETFのどちらかを買うとしたら、コストの低いETFのほうが有利だといえるのです」
里崎「投資に関しては、1円でもプラスになればいいという考えなんですが、コストが低ければその可能性も高まりますよね」
東証「そうですね。ETFはコストが抑えられますし、日本全国どこからでも同じ銘柄を東証で売買できます。上場には取引所の審査も通らなければいけないので、透明性の高い投資商品ともいえると考えています」
里崎「日本人って、投資に安心安全を強く求めると思うんです。そういう意味では、透明性が高くてコストも低いETFは、ゼロリスクということはないものの、リスクを抑えながらリターンも狙いに行ける商品といえそうで、日本人にも合っているかもしれないですね」
「お金でなんでも買えるわけではないけど、不幸は回避できる」
東証「里崎さんがETFを活用されるとしたら、欲しいサービスなどはありますか?」
里崎「ETFに関する相談窓口をつくってもらいたいですね。僕自身、銀行の方に相談しながら投資先を決めているんですが、多くの人も『損したくない』『騙されたくない』という気持ちがあるはずなので、ETFに精通している人に金融商品としてのメリットや期待できる成果を説明してもらえたら、心が動くと思います」
東証「私たちも、より多くの人に情報を届けられるよう、励みたいと思います。最後になりますが、里崎さんはなぜ投資を実践されているのでしょう?」
里崎「人生とスポーツは一緒で、お金と得点はいくらあっても困らないと思うんです。だから、取れる時に取っておくべき。お金でなんでも買えるわけではないですが、不幸は回避できると思うんです。いざお金が必要になったときに、手元にお金がなかったらどうしようもないので、そうなる前に動きたいですよね。知らないのが一番の罪なので、どれだけ情報を集められるかが大事だし、月1万円の積立投資でも10年20年続けていけば、いざというときのための備えになるので、より安心して暮らせるのかなと思います」
投資経験が豊富な里崎さんでも、ETFのコストの低さと透明性には可能性を感じたようだ。個別株と投資信託のいいとこ取りのようなETF、日本人の投資のスタンダードとなるかもしれない。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/鈴木真弓)