子育てにまつわるお金の話

子どもと一緒に考えたいお金のこと ~仕事編~

子どもに年収を聞かれたら、リアルな金額を答えたほうがいい?

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小学校高学年くらいになると、多くの子どもが仕事やお金に興味を示し始めるだろう。「お金ってどうやって稼ぐの?」「どんな仕事が儲かるの?」と、さまざまな疑問が湧いてくる年頃だが、もし子どもに「パパ(ママ)はどのくらい稼いでるの?」と聞かれたら、どう答えるといいのだろうか。

「自分の年収をズバリ教えるのではなく、まずは会社員の平均年収を伝えるのがおすすめです」と教えてくれたのは、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)の著者でマネーコンサルタントの頼藤太希さん。平均年収を伝える理由をはじめ、仕事とお金の関係について、子どもと一緒に考えるヒントを教えてもらった。

ポイントは「子どもの疑問や意見をポジティブに受け止める」

平均年収を伝える理由を教えてもらう前に、子どもとお金の話をする際に心掛けることを、頼藤さんに教えてもらった。ポイントは次の3つ。

●子どもとお金の話をする際の心得
・子どもの疑問や考えをポジティブに受け止める
・すぐ答えを教えず、子ども自身に考えさせる
・子どもの考えに対してヒントを出しながら、子どもが腹落ちする答えにたどりつくようにする

「親はつい『違うよ』と子どもの考えを否定したり、失敗しないように先回りして教えたりしてしまいますが、そうしてしまうと子どもは納得しにくく、お金に対する興味も失いかねません。まずは、子どもの言うことをポジティブに受け止め、一緒に考えていくことが重要です。おこづかいを無駄遣いするくらいの失敗ならしてもいいという寛容さを持ち、『なんで失敗したんだろうね』と考えさせることも大切です。主体的に学ばせることで、お金の知識が身に付いていきます」

「平均年収」を伝えたうえで「リアルな年収」も伝える

話を年収に関する疑問に戻して、なぜ平均年収を伝えるといいのだろうか。

「『パパ(ママ)はどのくらい稼いでるの?』という疑問は、『大人はどのくらいお金を持っているんだろう?』という好奇心から来るものだからです。『有名人の資産公開』『YouTuberはいくら稼いでるの?』といった番組や動画を見たり、仕事図鑑でさまざまな職業の年収を知ったりすると、もっとも身近な大人である親の収入も気になるものです。ただ、子どもに自分の年収を教えるとなると躊躇する人もいると思うので、ひとまず平均年収を伝えて、子どもの好奇心を満たしてあげましょう」

ちなみに、国税庁が行った「令和4年分 民間給与実態統計調査」によると、給与所得者の平均年収は458万円。

平均年収を伝えたうえで、可能であれば親自身の年収も伝えると、自分の家の水準がどのくらいか、子どもがイメージしやすくなるという。

「平均年収との差を知ることで、子どもも『パパとママは頑張って働いてくれてるんだ』『もっと年収が高かったら、もっといい生活ができるんだ』『年収が高い仕事に就くには、どうしたらいいのかな』と、仕事や生活のことを想像し、思いを巡らすことができます。そのため、親の年収を伝える際は、基準となる平均年収も伝えることをお忘れなく」

子どもに年収を聞かれたときに、やらないほうがいいこともあるようだ。

「親が『そんなこと知らなくていい』と拒否してしまうと、子どもは『聞いちゃいけないことなんだ』と感じ、それ以降、仕事やお金のことを聞けなくなってしまいます。せっかく子どもが仕事やお金に興味を持ったタイミングなので、向き合ってあげてほしいところです。年収が少なく、子どもに言いたくないという場合は、『平均年収並みだよ』と伝えましょう」

「年収から差し引かれるお金」に関しても考えてみよう

「年収を伝えたら、一歩踏み込んで、年収をそのまま全部もらえるわけではないことも伝えましょう」と、頼藤さんは話す。

「年収からは、税金や社会保険料が全体の20%ほど引かれることも伝えると、学びになります。この話をすると、子どもから『なんで引かれるの?』という疑問が出てくると思うので、理解しやすい具体例を挙げて説明できるといいでしょう」

税金は、国や都道府県、市区町村に支払うお金。みんなが安心して暮らしていくために必要な交番や救急車、ごみ収集車、学校などに使われるものと説明していくといいだろう。

「『税金を支払わないと、大ケガをしたときに救急車が来なかったり、ごみが収集されなくなって街中が臭くなってしまったりする。こういう仕事をする人がいないと、私たちは安心安全に暮らせないから、その費用として税金を払っているんだ』と具体的に話すと、子どもも理解しやすいでしょう」

社会保険料は、病気になる、交通事故にあうなど、生きるうえで困ったことが起きたときに、みんなで助け合うためのお金。

「病気になって働けなくなったときに障害年金が出ることや、おじいちゃんおばあちゃんになって働きにくくなったときに老齢年金が出ることを伝え、『そのための費用をみんなで出し合っているんだ』と伝えられるといいでしょう」

税金や社会保険料について子どもに説明することで、親自身もこれらのお金の意味を再確認できるだろう。子どもと一緒に自治体のホームページを見て、行政サービスを知るのもいい勉強になる。

「自治体のホームページを見てみると、安く利用できるレンタルスペースやスポーツジムなどの情報が載っていることがあります。税金を支払っているからお得に使えるというお金の勉強になりますし、行政サービスを活用するきっかけにもなるでしょう。親が大人として教えなきゃいけないと思うと負担に感じるかもしれませんが、子どもと一緒に学び、知っていくものと考えると取り組みやすくなると思います」

「職業別の平均年収」を見ると仕事への興味が湧いてくる

平均年収を伝える際には、業界や職種ごとの平均年収を伝えるのも、お金の勉強になるという。
●平均年収が高い職業の例(厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」をもとに試算)

「さまざまな業界、職種の平均年収を知ることで、子どもが将来の職業選択や働き方、稼ぎ方について考えるきっかけになるでしょう。年収を知るだけでも、『なんでこの職業は年収が高いの?』『この職業に就くには、どうしたらいいの?』『自分に向いてる職業って何?』といった疑問につながっていくと思います」

職業について子どもと話す際には、「この仕事はどのくらい稼げるのか」「なぜ、この仕事は収入が多いのか」といったことを、子どもに考えさせることが重要。そのときに、具体例として考えやすいのが「YouTuber」だ。

「YouTuberは子どもたちもよく見ていますし、基本的にYouTuber自身が企画や撮影、編集、配信という業務のすべてをこなすわかりやすいビジネスモデルだからです。また、再生回数やチャンネル登録者数といった数字が子どもにも見えやすく、その数字が収入に反映されるので、稼げる理由が理解しやすいといえます。再生回数が多く、ちゃんと稼げているYouTuberがしている工夫や努力を考えてみると、仕事の難しさも楽しさも見えてくるはずです。YouTuber以外にも、子どもが興味を持った職業について考えてみるといいでしょう」

仕事について考えるときに、親が「どうせYouTuberなんてなれないよ」といった否定的な発言をするのは避けたほうがいいそう。

「子どもの興味や関心を否定することは避けましょう。YouTuberのビジネスを深掘りしてみると、自己マーケティングや情報発信の方法、コンテンツづくりのコツなどを学べるので、親自身の仕事や副業、起業などにプラスの影響を及ぼす可能性もあります。ほかの職業でも、同様のことが言えます。子どもも親自身もレベルアップする可能性があるので、一緒に職業を分析してみましょう」

稼ぎ方だけでなく、職業そのものの変化について触れることで、さらなる学びや発見につながるという。

「例えば、小学生の『将来なりたい職業』ランキングの昔と今を比べて、『なぜ人気の職業が入れ替わったのかな?』『いまから10年後は、どんな職業が人気になりそう?』と、親子で話し合ってみるのもいいと思います。子どもが働き始める頃には、AIやロボットの活用も当たり前になっていると見越して、AIやロボットに代替されない職業を考えてみると、現実的な選択肢が広がりやすくなるでしょう」

●小学生の「なりたい職業」ランキング
出典/日本FP協会「2022年小学生『将来なりたい職業』ランキング」
■男子児童

■女子児童

金融教育というと難しく感じてしまうが、身近な仕事やお金の話題を取り上げて、子どもと一緒に考えるというスタンスで話してみよう。親にとっても、意外な発見があるかもしれない。
(取材・文/有竹亮介(verb))

お話を伺った方
頼藤 太希
Money&You代表取締役。マネーコンサルタント。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計130万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
用語解説

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