2023年11月号「投資環境レポート」
1年後の米国大統領選を考える
提供元:野村アセットマネジメント
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11月の投資の視点は、「1年後の米国大統領選を考える」です。
<注目点>
●約1年後に迫る米国大統領選には、民主党では現職バイデン大統領等、共和党ではトランプ前大統領等が立候補を表明しており、世論調査の結果を踏まえると、2020年の前回選挙と同様に「バイデンvsトランプ」の闘いとなる可能性がある。
●共和党の大統領が誕生すれば、米国の環境・気候変動対応や移民政策、ウクライナ支援等は大きく変わるかもしれない。一方、選挙結果に依らず、対中国政策については「厳しい姿勢をとる」という点で大きな変化は生じないとみられる。
●現時点では不透明な点が多いものの、徐々に明らかとなりつつあるのは、大統領選の結果を問わず、新たな政権では混乱が生じる可能性が高いということである。
再び「バイデンvsトランプ」となる可能性
米国では、2024年11月5日に大統領選挙が行われる。現時点では不透明な点が多いが、約1年後に迫る大統領選について考えてみたい。
まず注目されるのは「誰が戦うか」である。民主党では、現職のバイデン大統領が立候補している。他にも立候補者はいるが、現職の強みを活かせること、相対的には人気があることを踏まえると、バイデン大統領が民主党の候補になると考えられる。
一方の共和党では、トランプ前大統領を筆頭に10人超が立候補しているが、前大統領が圧倒的な人気を誇る(図1参照)。2023年初の時点では、「スマートなトランプ」とも呼ばれたフロリダ州デサンティス知事の人気が高かったが、足元では前大統領に大きく差をつけられている状況だ。共和党員は、スマートな人物よりも強い人物の方が自分達の候補にふさわしいと考えている模様である(図2参照)。
2024年入り後、アイオワ州を皮切りに各州で予備選挙や党員集会が行われた後、7月の党大会にて共和党の候補が最終的に決定される。但し、多くの州において予備選挙・党員集会の結果が判明することになる「スーパー・チューズデー(Super Tuesday、今回は2024年3月5日)」で方向性を掴むことが出来るだろう。
激戦州の動向が選挙結果のカギを握る
両党の候補が決まれば、次に注目されるのは「どちらが勝つか」である。バイデン大統領にとっては経済情勢が重要となろうが、筆者が予想する通り、2024年に米国が景気後退に陥るならば逆風となるだろう。もっとも、経済情勢だけで勝者が決まるわけではなく、後述するような様々な政策に対する発言等も重要となる。
「どちらが勝つか」を考える上では、世論調査も気になるところだが、米国全体の結果はあまり重要ではない。歴史的に民主党地盤の州、共和党地盤の州が多くあり、そうした州の結果は殆ど明らかであるからだ。米国全体よりも「激戦州」と呼ばれる、どちらの地盤とも言えない州の世論調査が重要となる。「激戦州」には、アリゾナ州やジョージア州等が含まれている。
選挙後に大きく変わるかもしれない政策
大統領選が近付くにつれ、選挙結果と共に、「選挙後の米国がどう変わるのか・変わらないのか」への注目が強まってくるだろう。大統領選の結果によって大きく変わるかもしれないのは、(1)環境・気候変動対応、(2)移民政策、(3)ウクライナ支援等である。
(1)に関しては、共和党知事の複数州が「反ESG(環境・社会・ガバナンス)法」を制定し、州年金の運用に際してESG要因を考慮することなどを禁止している。また、2022年にバイデン政権が、企業年金が投資先を選択する際にESG要因を考慮することを認める規則を制定したが、その後、共和党は当該規則の無効を求める決議を議会通過させた(バイデン大統領が拒否権を発動したため、決議は無効となった)。共和党は反ESGの姿勢であり、共和党候補が大統領選で勝利すれば、こうした反ESGの動きが州・連邦レベルで拡大する可能性がある。
(2)については、移民受入れに慎重であったトランプ政権と異なり、バイデン政権は慎重さを和らげ、それが労働市場の需給逼迫を緩和してきたとの指摘がある。例えば、サンフランシスコ連銀のエコノミストは、2017年から2020年にかけて移民流入の鈍化(図3参照)が労働需給を逼迫させたが、その後は需給逼迫が緩和したとの定量分析を示した(※)。しかし、共和党候補が勝利すれば、移民受入れ姿勢は再び慎重化する可能性がある。それは、労働市場の需給を逼迫させ、インフレ圧力を強めるかもしれない。
(※)Duzhak (2023) “The Role of Immigration in US Labor Market Tightness”, FRBSF Economic Letter, Feb 27
(3)に関しては、軍事面を中心とした、他国を圧倒する米国の支援が戦局に影響を及ぼしてきたと認識されているが、共和党は支援継続に慎重な姿勢である。「支援し過ぎ」と考える共和党支持者が増えているからだ(図4参照)。こうした中、トランプ前大統領を筆頭に、共和党候補からはウクライナ支援に対する慎重な発言が聞かれており、共和党候補が大統領選で勝利すれば、米国の支援方針が変わり、戦局に影響する可能性がある(なお、共和党候補の全員が支援に慎重なわけではない)。
一方、大統領選の結果に依らず、大きく変わらないとみられる政策・対応もあり、その筆頭は対中国政策だ。民主党候補が勝利するか、共和党候補が勝利するかによって詳細や手段は異なるだろうが、中国に対する米国の厳しい姿勢は変わらないと考えられる。幅広い政策分野で民主党と共和党が対極的な見解を持つ米国において、唯一、超党派合意が得られるのがこの分野と言える。
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(提供元:野村アセットマネジメント)