ユニークな福利厚生や魅力的な制度を導入している企業のご担当者様にインタビュー
日本中に健康経営の輪を広げたい!花王の健康経営の魅力に迫る!
少子高齢化や働き方改革が進む中、多くの企業にとって優秀な人材を安定的に確保していくことは大きな課題となっているのではないでしょうか。
そんな中、社員の満足度を上げ、求職者にとっても魅力的な企業として選ばれるために、職場環境や福利厚生等の制度を充実させることを重要ミッションの一つとして捉えている企業が多いようです。
そこで、福利厚生等の社内制度の充実といった切り口からユニークな取り組みをしている企業をご紹介!新しい働き方改革に合わせた魅力な制度導入の背景や現在の制度までの経緯、裏話に至るまで、ご担当者様にセキララに語っていただきました。
今回は、「ビオレ」「アタック」といったスキンケア製品、ホームケア製品など、私たちの生活に欠かすことのできない日用品の製造・販売で国内トップシェアを誇る「花王株式会社」のユニークな福利厚生制度をご紹介します。
聞き手・執筆:ファイナンシャルプランナー 高山 一恵
――では、本日はよろしくお願いします。早速ですが、御社は、これまで健康経営銘柄や健康経営優良法人にも選ばれており、健康経営に力を入れていらっしゃいます。健康経営を導入された背景について教えていただけますか?
当社は、「花王ウェイ」という、企業活動の拠りどころとなる企業理念があります。その企業理念を具体化する取り組みとして、現在、ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」に取り組んでいます。
「Kirei Lifestyle Plan」では、19個の重点取り組みテーマを掲げており、その中の1つが「社員の健康増進と安全」という取り組みになっていますので、健康経営は、当社のESG戦略のひとつに位置付けられているということになります。
――具体的にはどのような特徴があるのですか?
当社の健康経営の特徴は、「トップからメッセージが出されている」「健康経営を具体化するための組織をきちんと作っている」「データに基づいた取り組みを行なっている」「データヘルスを推進している」「当社のヘルスケア技術を活用して、健康増進活動を行なっている」ことが挙げられます。この中からいくつかお話しさせていただきます。
まず、トップからのメッセージですが、「花王グループ健康宣言」というものを出しております。2008年に初版を出しておりまして、初版では、会社が社員とご家族の健康づくり活動に積極的にコミットすることやコミットするための組織、体制づくりを行なっていくことを宣言しています。その後、取り組みが進化し、2022年に改訂版を出しております。
改訂版では、会社で行なった社員やご家族向けの取り組みの中での優良事例を、地域や職域、生活者の皆様にも積極的に展開し、すこやかでこころ豊かな生活の実現を支援していくことを新たに宣言しています。
――改訂版では、社員やご家族の方だけではなくて、地域や職域など、幅広い方を対象に健康経営を展開していくということですね。特に力を入れている活動を教えていただけますか?
最近、とても力を入れているのが、「花王グループ健康の日」という取り組みです。世界保健機関(WHO)が設立された1948年4月7日を記念して設けられた世界保健デーに合わせて、社内でも何か健康に対する取り組み、活動ができないかということで、4月7日を「花王グループ健康の日」に制定いたしました。
世界保健デーは、日本ではあまり注目されていないのですが、世界では、世界保健デーのテーマに合わせたさまざまな活動をしています。そのテーマを活用して当社でも社員とご家族に向けた健康増進活動を実施したり、世界の方々の暮らしと健康を支えることを、メッセージとしてグローバルに発信したりしています。
――今年は、「花王グループ健康の日」にどういった取り組みをされたのですか?
今年は、「健康宣言を考えてみませんか?」というテーマで社員に声かけをしました。ただ、そうは言われても具体的にどのようなものを考えたら良いのかわからないという反応が多かったのと、やはりトップ自らが健康宣言を出す方が社員のモチベーションも上がるのではないかと考え、人事担当の専務に「私の健康宣言」についてインタビューし、その記事をイントラネットに公開しました。
私の健康宣言というテーマなので、運動や生活習慣について想定していましたが、「社会的健康」というテーマで、メンタルの側面からの健康についてお話いただきました。確かに、今、メンタルヘルスは非常に重要な健康テーマであり、こころの健康もとても大切です。我々の方が枠にとらわれていたことに改めて気づかされました。
他にも社員が出した健康宣言の内容について社内でシェアしたり、運動イベントとしてウォークイベントを開催したりしました。少しでもイベントを盛り上げるため、ウォークイベントは事業場対抗戦という形にしました。
また、現在、健康の日をもっともっと日本に浸透させていこうという取り組みへの1歩を踏み出していまして、こちらもお話しさせていただければと思います。
――ぜひ、お聞きしたいです。
我々は、「健康の日」制定と健康経営の取り組みに賛同していただける企業様と一緒にこの健康の日を盛り上げていきたいと考えています。現在、複数の企業様の人事担当の方たちにお声がけをし、コンソーシアムの開催などを検討しているところです。
とはいえ、各社それぞれご事情があると思いますので、無理のない範囲で健康活動を実施していただき、当社と連携できるところは連携して進めていきたいと思っています。
来年以降、何らかの形で具体的な取り組みについて発信できると良いなと思っています。
我々が直接健康促進についてアプローチできるのは、社員やご家族になりますが、そこから地域へと広がり、さらには、他企業様と共に健康増進活動を推進することで日本中を健康にし、経済にも貢献できればと考えております。
――日本中を健康にするというのは素敵なビジョンですね!ぜひ、実現させてください。個人的に気になったのは、御社のヘルスケア技術を活用した健康増進活動です。具体的にどのような活動をしているのですか?
当社の長年のヘルスケアに関する研究を健康増進プログラムとして、楽しく、分かりやすく社員やご家族、他の企業様、自治体に提供させていただいています。この独自の健康増進活動を「Kao GENKI ACTION」と呼んでいます。
具体的な取り組みとしては、1つは、「内臓脂肪の研究」に関する取り組みです。十数年前に大阪大学、パナソニックさんと共同で内臓脂肪測定器を開発しました。通常、内臓脂肪は、CT検査をしないと正確にわからないのですが、こちらの測定器は、腰にベルトを巻くだけで、精度高く、しかも簡単に内臓脂肪の測定値が測れる機械です。この測定器ができたので、社員に向けて「内臓脂肪&生活習慣測定会」を実施しています。内臓脂肪を測るだけでなく、生活習慣の問診に事前に答えていただくので、内臓脂肪の原因になるご自分の食事の偏りや生活上のクセがわかるので、生活改善の動機付けに繋がります。
それと、「スマート和食」という食事法の取り組みです。こちらも当社の代謝研究から生まれました。食事の内容(質)を改善することで、ちゃんと食べているけれど、内臓脂肪になりにくいという食事法です。スマート和食のランチは、全国11事業場の社員食堂で提供しています。
他にも今年は、社員とご家族向けに株式会社ABCクッキングスタジオさんにご協力いただき、料理教室を開催しました。ABCクッキングスタジオさんは、全国展開していますので、地方の自治体様などから、料理教室を希望された時に、連携して開催ができるメリットがあります。
――しっかり食べつつ、内臓脂肪がたまらないなんて、スマート和食いいですね!
個人的にもスマート和食はすごく良い取り組みかと思います。食堂に行くと、日替わりのメニューが必ずセットで提供されていますし、忙しい時でもこの食事を摂っていれば大丈夫という安心感があります。また、昼食以外の食事でも気を付けるようになってきました。実際、我々の周囲でも内臓脂肪が減ったという人がたくさんいます。しかも、結構ボリュームもありますし、味も美味しいのも嬉しいです。
コロナ禍では、在宅勤務だったので、スマート和食愛用の社員からは「健康な昼食が食べられない」と声があがるなど、社内が結構ざわついたくらいです(笑)。
もう一つの取り組みとしては「歩行と健康に関する研究」に関する取り組みで、「ホコタッチ」という歩行計の活用を推進しております。今どき歩行計?と思うかもしれませんが、「ホコタッチ」には、高精度な加速度センサーが付いているので、単純にどれくらい歩いたか(量)を計測するだけでなく若々しい歩行ができたかどうか、歩行の速度(質)も測ることができます。「ホコタッチ」では、歩行速度と歩行安定順位という指標で歩き方を確認しており、ここでいう若々しい歩き方ができたかどうかは、“ふらつきなく、すり足にならずに素早く歩けているか”ということです。
若々しい歩きをすることで、毎日の活動量が増え、健康的な身体作りに繋がります。朝の歩行の速度が落ちてくると、実はストレスが溜まっているといったようなこともわかります。
また、「歩行基礎力測定会」も実施していまして、シートの上を歩いていただくと、その動きによってご自分の歩き方のクセがわかり、その結果、腰痛や膝痛、尿失禁などを持った方との歩行の類似傾向がわかります。測定会後には、安全な歩行を促すアドバイスをお知らせしています。
さらに、当社には、陸上競技部があるのですが、引退した選手達は、一般社員と同じように社内業務に就きます。その方たちにトレーナーの資格を取ってもらい、彼らのアスリート経験を踏まえて、一般の方にもわかりやすい運動セミナーを提供しています。
――とても充実したプログラムですね。参加された社員の方たちの反応はいかがですか?
基本的に長期的に実施しているプログラムやキャンペーンについては、事前と事後でアンケートを実施しています。アンケートでは、ワークエンゲージメントや生産性に関わる項目を聞いていまして、概ね参加した社員からは改善効果があったと高い評価をもらっています。
例えば、年間を通して、社員食堂で、先ほどお話したスマート和食と当社製品の「ヘルシア」を飲んでみようキャンペーンを実施しているのですが、単に体重が減る、健康になるという話ではなくて、どちらかというと、「実際にやってみたら前向きな気持ちになった」「気分がとても良いです」「ちょっと落ち着きました」といったコメントを多くの社員からもらうことができています。
また、コロナ禍で社員が在宅勤務になった時に、労働時間が長くなるという傾向がありましたので、ちょっと休憩しましょうということで、当社製品の「めぐリズム」を活用した、「休み休みWork Style」を実施しました。この取り組みをきっかけに、出社時や在宅勤務時に休憩をとる社員の比率が上がったり、ご本人が思うパフォーマンス得点が上がったりするといった結果も出ています。
参加した社員のメンタル面、心のモチベーションの効果が大きいことも非常に嬉しく思っています。
――身体の健康だけでなく、メンタル面の効果が出るのもとても良いことですよね。お話を伺っていて、とても魅力的なプログラムが多いと思いましたが、現在、課題だと感じていることはありますか?
今お話したように、参加した社員にはとても評判が良いのですが、参加率がなかなか伸びないところが大きな課題ですね。
当社は、勤務形態が全く異なる社員がたくさんいますので、魅力的なプログラムだと思っても、なかなか時間が合わない、場所的な問題で参加できないなどの要因があり、参加できない社員も少なくありません。
時間や場所の問題を解決するとなると、オンライン型で参加できるプログラムを増やすことになると思いますが、皆で一緒の場所で話を聞いたり、体験したりするからこそ、効果があるといったところも大きいので、オンライン型だけだとそこがなかなか難しいですね。
――なるほど。他の企業様でも参加率が課題と言っていました。そこはもどかしいところですね。
強制してしまうと違うんだろうなという気がしていますので、プログラムに参加すれば、身体の健康だけでなく、エンゲージメントや気持ちの向上につながるといったところをもっとアピールして、多くの社員に参加してもらえるようにしていきたいですね。
――ご担当者様の熱い想いが伝わってきました。本日は、貴重なお話をありがとうございました。では、最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
これまでお話してきたように、当社で実施している健康に関する取り組みというのは、参加していただければ、良さがわかる取り組みだと思っていますので、この取り組みを当社だけに閉じ込めないで社外の方たちにもぜひ知っていただきたいと思っています。
ですから、一緒に活動をしてくださる企業様や団体様を常に募集しています。例えば、ウォーキングキャンペーンを一緒にやらせていただく、健康の日を制定して一緒に活動させていただくなど、できる範囲で良いので、ご一緒させていただきたいです。各企業様や団体様と一緒にやることによって、日本全体が健康になっていくことができるのではないかと思いますので、ご賛同いただける企業・団体様はぜひご連絡をください。一緒に日本中を元気にしていきましょう。
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株) エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。「マンガと図解でしっかりわかる はじめてのNISA&iDeCo(成美堂出版)」など多数の書籍を出版。