「日本市場に連動する金融商品」のイメージが変わる!?

乙武洋匡が東証に聞く「ETF投資ってプラスの展望を持てますか?」

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世界全体で純資産残高が右肩上がりに増えているETF。「Exchange Traded Fund」の略で、「上場投資信託」と訳される通り、取引所に上場された投資信託だ。上場されているため、個別株と同じようにリアルタイムでの取引が可能だが、それ以外にもメリットがある。

投資経験は豊富である一方で、ETFは未経験の作家・乙武洋匡さんを東京証券取引所に迎えて、東証マネ部!“中の人”がETFの魅力を紹介した。

名前は知っているものの、よくわからない「ETF」

東証「東証にいらっしゃるのは初めてと伺いましたが、どのようなイメージがありますか?」

乙武「スタートアップを経営している友人が多いので、上場する際に鐘を鳴らす場所というイメージが強いです。ジャパニーズドリームをつかむアイコンのような場所ですね」

東証「鐘を鳴らす上場セレモニーは、我々にとっても大切な式典なので、印象に残っていてうれしいです。東証はその名の通り証券を取引する場所ですが、乙武さんは現在どのような投資、資産運用を行っていますか?」

乙武「大きく分けると3つやっていて、1つ目はほとんど動かさない社債。2つ目は、変動の大きなアグレッシブなもの。3つ目はエンジェル投資というと言いすぎかもしれませんが、スタートアップ3社に対する投資です」

東証「さまざまなパターンの投資を行っているのですね。2つ目のアグレッシブな投資とは?」

乙武「アメリカの株式3つを組み合わせたもので、期限を迎えたときに設定していた金額を上回っていれば利益が得られる、という形で運用しています」

東証「仕組みとしては、債券に近いものといえそうですね。投資信託やETFへの投資はされていないようですが、聞いたことはありますか?」

乙武「投資信託はわかります。ETFは名前を聞いたことはあるんですが、詳しくはないですね」

東証「乙武さんと同じ認識の方は多くて、東証で実施した『ETF市場調査(2016年)』では、ETFを知っている人が25%にとどまったのです。4人中3人が知らない、知る人ぞ知るような商品となっているのが現状です。今回は、そんなETFを解説していきますね」

リスクが付きものの投資のポイントは「長期・積立・分散」


東証「乙武さんは投資経験があるので、ご存じだと思いますが、まずはリスクとリターンの関係から解説しましょう。リスクは“危険性”と訳されることが多いのですが、投資においては“期待されるリターンの振れ幅”のことを指します。つまり、リスクが大きいものほど、期待できるリターンも大きいということです。例えば、預貯金はローリスクローリターン、株式はハイリスクハイリターン。ETFや投資信託は、債券型のものであればリスクが低く、株式型のものはリスクが高いといえます」

乙武「振れ幅という意味では、預貯金がもっともリスクが低いですよね。ただ、経済状況や物価の上下によっては現金の価値が変わるという意味で、預貯金にもリスクはありますよね」

東証「おっしゃる通り、いままさに進んでいるインフレーション(物価が上がり続ける状態)を加味すると、預貯金にもリスクがあります。日本で30年ほど続いていたデフレーション(物価が下がり続ける状態)下においては預貯金が最適解だったといえますが、インフレが続くとお金の価値が下がるため、預貯金だけに置いておくのはリスクがあります」

乙武「投資にもお金を回すことで、資産を分散できると安心ですよね」

東証「そうなんです。投資には先ほどお話ししたリスクが付きものですが、『長期・積立・分散』といった手法で投資を行うことで、リスクを抑えられます。普段は働いていて、デイトレーダーのようにチャートなどを細かく見ていられないという人でも、投資を継続しやすい手法といえるでしょう」

乙武「『長期・積立・分散』がしやすい商品には、どういったものがありますか?」

東証「ETFや投資信託は『長期・積立・分散』を実践しやすいと言えます。複数の株式や債券などをまとめた商品なので、自動的に分散投資ができます。また、数百円から少額投資できるので、長期間の積立を実現しやすい商品といえます」

「ETF」の純資産残高が伸びている理由


東証「ETFを含む投資信託を選ぶ際には、2つのポイントがあります。ひとつは投資信託の種類、もうひとつは保有コストです。投資信託は大きく2つに分類されます。株価指数などのベンチマークに連動する運用成績を目指すインデックスファンドと、株価指数などのベンチマークを上回る成績を目指すアクティブファンドです。アクティブファンドは、ファンドマネージャーが投資対象となる企業の調査や株式、債券などの売買に関する意思決定を行うため、インデックスファンドに比べてコストが高くなる傾向にあります」

乙武「コストをかけずに指数に連動した成績を目指すか、コストをかけてでも指数を上回る成績を目指すかという選択になるということでしょうか?」

東証「そうなります。ただ、保有コストの差は侮れません。例えば、2つの投資信託の保有コストの差が年0.25%あり、それぞれに100万円ずつ投資する場合、10年後には2万5000円もの差が生じるのです。長期的な投資を行ううえで、コストは比較するべきポイントです。そして、ETFは取引所に上場していない投資信託よりも、コストが低い傾向にあります」

乙武「ETFと非上場の投資信託では、保有コストにどのくらいの差があるのでしょう?」

東証「ETFは年0.3%、非上場の投資信託は年0.99%(※)となっています。約0.7%もの差があるのです。また、ETFは取引所に上場されているため、個別株と同じようにリアルタイムで売買できます。価格が確定するまで2~3営業日かかることもある非上場の投資信託とは異なり、ETFは売買する時点で価格がわかるので、値下がりしたタイミングで買い、値上がりしたタイミングで売るなど機動的な取引がしやすいのです」

※ともに2023年9月現在、税抜(出所:投資信託の主要統計等ファクトブック)

乙武「私自身、まだETFに投資したことがないのですが、どのくらい活用されているのでしょうか?」

東証「日本国内のETFの純資産残高は右肩上がりに伸びていて、2022年時点で約60兆円に到達しています。世界的にも純資産残高は伸びていて、イギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』では“世界でもっとも成功した金融商品のひとつ”と紹介されています」

乙武「評価されているんですね。私がここまでETFへの投資を見送ってきたのは、日本経済に対してプラスの展望を持ちにくかったことがあります。ETFというと日本株に投資するものというイメージがあるので、投資の対象に上がらなかったんです」

東証「『ETF=日本株の指数に連動する商品』という声はよくお聞きします。確かに、東証で上場しているETFのメインは日本株に連動したものですが、ここ3~4年で全世界株や米株の指数に連動するETFも増え、伸びてきています」

乙武「全世界株や米株に連動するものもあるんですね。それを聞くと、選択肢に入りそうです」

日本経済の成長のカギは「労働環境の改善」と「スタートアップ」


乙武「海外の金融商品にアクセスしやすい時代になったのはいいことだと思いますが、日本の市場がスルーされてしまうのはどうなのかなとも思うんですよね」

東証「我々としても課題と捉えていて、日本市場の開拓を進めています。そのひとつが市場の再編です。これまで東証一部や二部、マザーズとしていた市場を2022年4月に見直し、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場としました。また、上場企業に対しては資本コストを意識した経営、株主のほうを向いた経営をしてほしいという要請も出していて、2023年春頃から日本市場も徐々に盛り上がってきています」

乙武「後押しされているんですね。ただ、株主を意識した経営を行うことで、国際的に重視されているESGの観点から離れてしまうのではないでしょうか?」

東証「ESGの3つの要素に準拠しなければ、利益につながらない時代になってきていると考えています。そのため、ESGを満たしたうえでサステナブルなビジネスを構築し、利益を出していってほしいというメッセージを取引所としても発信しています」

乙武「なるほど、ESGがベースにあるうえで利潤を追求していくイメージですね。それが実現していけば、日本経済はもっと変わっていきそうですよね」

東証「そうなるように、取引所もさまざまな活動をしています。先ほど乙武さんが話されたように、日本市場がスルーされてしまう現状は、市場を魅力的なものにできていない我々の問題でもあると受け止めています」

乙武「私は、東証さんではなく、政治や各企業の責任が大きいと感じています。日本は労働時間に対して生産性が低すぎるところがあるので、政治なり企業なりが労働環境の改善に向けて本腰を入れないと、経済全体の停滞は解消されないと思います。一方で、日本のスタートアップは元気ですよね。上場する企業が増えてきているし、若い人たちが就職先として注目し始めているので、投資家にも魅力を感じてもらえると、潮目も変わるのかなと思います」

東証「10年前と比べると、国内スタートアップの資金調達総額は15倍以上に伸びていて、一番の成長産業になっているといえます。いま以上にスタートアップの勢いがついて、元気な企業が上場していくと、日本経済の活性化につながっていくと思います」

日本経済を含めた世界経済の成長への連動を目指しながら、低コストで運用できるETF。乙武さんのように将来の市場を想像しながら、期待できる市場に連動するETFで運用するという選択肢もあるだろう。

(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/山本倫子)

お話を伺った方
乙武 洋匡
1976年、東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。大学在学中に出版された『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活動。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。地域に根差した子育てを目指す「まちの保育園」の経営に参画。2018年からは義足プロジェクトに取り組み、国立競技場で117mの歩行を達成。2000年、都民文化栄誉章を受賞。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
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