好きな日時にビデオ通話で指導、薬は後日郵送
病院から薬局へ薬をもらいに行く必要はない。日本調剤のオンライン薬局サービス「NiCOMS」とは
病院やクリニックで診療を受け、処方箋を出してもらった後、場合によってはそこから薬局に足を運び、薬剤師の説明を受けて薬を受け取る――。多くの人が経験しているであろうこの作業を“面倒”に感じたことはないだろうか。たとえば、シーズンになると私たちを悩ます花粉症。毎回同じ薬をもらうために、薬局へ足を運んで指導を受けてきた人もいるはずだ。
なぜ面倒でもそうしなければならなかったかと言えば、かつて薬を受け取るには“対面”での服薬指導が原則だったからだ。しかし2020年9月に法改正があり、オンラインでの服薬指導が可能に。すでにそれを生かしたサービスも登場している。
日本調剤の「日本調剤オンライン薬局サービス NiCOMS(ニコムス)」もそのひとつ。ビデオ通話を使い、オンラインで服薬指導を受けられるもので、実際にサービスが提供されると、花粉症をはじめ、定期的に同じ薬を服薬している人からのニーズが非常に高かったという。また、オンラインの方が「薬剤師に聞きたいことを聞ける」という声も出てきた。
市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。デジタルヘルス編2回目の本記事では、NiCOMSというサービスについて、日本調剤 薬剤本部 薬剤企画部の馬場克典氏に聞いていく。
慢性疾患の人は、オンライン服薬指導が大きなメリットだった
NiCOMSは、日本調剤が2020年9月から展開しているオンライン薬局サービスだ。薬を受け取る際は、注意点や副作用などの説明を薬剤師から受ける必要があるが、このサービスではそれらをビデオ通話機能を使ってオンラインで行える。薬代のクレジット決済も可能だ。
「NiCOMSの会員登録をした上で、医療機関で診療を受けた際にオンライン服薬指導を希望することを伝え、自分が利用したい日本調剤の薬局を指定します。その後、NiCOMSから日時を予約すると、先ほど希望した薬局からオンライン服薬指導が行われます。お薬については、登録された住所に届けられます」
オンラインになることで、忙しくて薬局に行けない人や、遠方の薬局まで行くのが難しい人のメリットになるほか、薬局での“順番待ち”も避けられる。会社の昼休みに医療機関で診療を受けたが、予想以上に時間がかかり、その後薬局に行く時間がなくなってしまった……というケースにも良いだろう。
「ニーズが高いのは、花粉症をはじめ、慢性疾患で定期的に同じ薬を服薬している方です。そもそもオンラインの服薬指導は、慢性疾患の患者さまを対象に考えられました。継続の薬で何度も十分に説明を受けているケースが多く、薬も緊急で使うというより、切らさないようにしておくことが多いため、後日郵送で送られてくるという“時間的ロス”も影響しにくい。花粉症の時期に大きく利用者数が増えたこともありました」
サービスの会員は11万人を超え、利用者の年齢層も幅広い。20~50代に加え、それ以上のシニア層も利用しているという。
「オンラインになったことで、薬剤師と自宅などでリラックスしてコミュニケーションが取れると感じる方も多く、対面に比べて周りを気にせずいろいろな質問を投げかけていただけるケースも増えました。的確な服薬指導にもつながるので、患者さまにとっても薬剤師にとってもプラスです。サービスを始めてから気がついた意外なメリットでした」
自社開発にこだわった理由は「日本調剤の企業風土に尽きる」
NiCOMSの開発は、薬機法改正を見据えてスタートした。それまで対面が原則だった服薬指導について、国は2018年頃から、離島や僻地などの国家戦略特区に限って実証的に規制を緩和。遠隔指導を認め始めた。そうして2019年終わりには「翌2020年9月から全国での解禁」を決定。日本調剤はその発表から1、2カ月ほどでNiCOMSの開発を始め、全国解禁のタイミングでローンチしたという。
サービスが世に出たのはコロナ禍の最中であり、さまざまな領域で“オンライン化”が進んだ時期。だがこのサービスは、あくまでそれとは別の軸で開発されながら、偶然にもコロナ禍の非対面・非接触といった需要にも応える形となった。
システムを開発する上では、ゼロからすべて自社開発したという。他社からもオンライン服薬指導のサービスは出ているが「自社開発で完結しているケースは珍しいのでは」と、馬場氏は口にする。
「自社開発にこだわったのは、企業風土に尽きると思います。この業界における新しいことは『日本調剤から始める』という気概を社員が持っており、だからこそ患者さんの意見をすぐに反映できるシステムを自社開発する道を選びました」
ゼロから作る上で、まず気を配ったのはセキュリティ面だ。薬に関するやり取りは重要な個人情報が含まれるため、ビデオ通話のあり方から情報管理まで、厳重なシステムを構築していったという。
高齢者が使うことも想定し、分かりやすい操作にもこだわった。なるべく少ないタップ数で利用できる構造にしたほか、クレジット決済に戸惑う人が出ることも想定し、薬剤師とビデオ通話しているときに決済の表示が画面上に表れるようにして、薬剤師が「次はここを押してください」と指で差しながらガイドできるようにしたという。
「初めて利用する方は登録が面倒だったり、新しいやり方に慣れなかったりと、心理的なハードルがあると思いますが、一度使われると、多くの方がその後もリピートされています。2023年1月には電子処方箋の運用も始まり、医療のデジタル化はさらに進むはず。今後も確実にこのサービスは広がっていくと感じています」
対面の薬局がすべてオンラインに置き換わる、ということではなく、共働きで子どもの薬を受け取りに行くのが難しい人や、時間がなくて薬局に行けない人など、困っている人のインフラとして「オンラインがあればいい」と馬場氏。新しい技術によって選択肢が増え、悩んできた人々の助けになる。それがデジタルヘルスの意義であり、オンライン服薬指導もその一例といえるだろう。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2023年11月現在の情報です