世界共通語「ESG/SDGs」

「SMTAMのESG」

人的資本をめぐる最近の動向 ~人への投資と株価の関係~

提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント

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はじめに

この数年、メディアなど様々な場面で「人的資本」や「リスキリング」というキーワードを目にすることが多くなりました。この背景として考えられるのが、2023年3月期決算より国内上場企業等に対して人的資本に関する情報開示が義務化されたことであり、これを契機として一躍「人的資本」は様々なビジネスシーンで注目されるホットワードとなりました。

日本における「人材」とは

そもそも、日本では経営の神様と呼ばれるパナソニック創業者、松下幸之助氏が「企業は人なり」、「人は財産なり」と繰り返し説いていたことが広く知られており、人材こそが企業価値に影響を与える重要な要素であると見做されてきたように思います。

その一方で、実際の情報開示の制度化という点では日本はEU、米国に遅れながらも今回の対応によりようやく他の先進国に追いつくこととなり、さらに、様々な対応が合わせて進められました。

具体的な例としては、経済産業省は人的資本の重要性を喚起するために、2020年に「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(人材版伊藤レポート)」を発表したことに続き、2022年には岸田内閣の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる「骨太の方針2022」)の中で新しい資本主義を実現するために人への投資拡大を明確に打ち出しました。

人的資本とは

では、人的資本とは一体何を指すのでしょう?

前述の「人材版伊藤レポート」では人的資本経営とは、「人材を企業の『資本』と捉え、その価値を最大限に引き出すことによって持続的な企業価値向上につなげる経営手法」と定義しています。

更に、2023年6月に発表された「骨太の方針2023」においても、「リスキリングの強化」などを通じて「人への投資を中心とした民間投資拡大」を進め、多様な人材が企業の生産性向上に繋がる社会を創ることを目指すなど、人材の価値向上に重点を置いています。つまり企業にとっては人材への投資を通じて自らの価値向上が求められ、人的資本は人材を会社の重要な経営資源である資本と位置付けられています。

さて、こうした政府等による方針が示されると、次にその情報開示を幅広く受け入れられるよう環境整備を進めていく必要があります。そのため、企業に更なる行動を促すことを目的として気候変動分野で広く用いられている情報開示フレームワークを活用することになりました。今回の人的資本開示の義務化の対象企業は有価証券報告書を発行する国内上場企業で実に約4,000社にのぼり、更に開示される情報は人材育成やその方針、指標、目標等となります。

また、最近世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数では日本は146か国中125位と世界的に見ても女性の社会進出が低位に留まっていることから、「女性管理職比率」、「男性育児休業取得率」、「男女の賃金格差」といった多様性に関する情報も開示義務対象として加えられることとなりました。

企業の取組と株価の関係

それでは、こうした人的資本に関するパフォーマンスが高い企業は、企業価値も高いのでしょうか?その答えを求めて経済産業省が2012年より東京証券取引所と共同で女性活躍推進に優れた上場企業として紹介している「なでしこ銘柄」選定企業(令和4年度、17社)の株価の動きを見てみましょう。以下の図表にある通り、TOPIXの株式指数との比較では、女性活躍推進に優れた企業の株価が市場平均を上回っていることが示されています。

前述の人材版伊藤レポートでも、人的資本といった社会(S)要素のパフォーマンスが良い企業の株価リターンが市場平均よりも高いという分析結果が示されており、更に「持続的な企業価値向上の実現には、ビジネスモデルと人材戦略が連動していることが不可欠」とされています。つまり、人的資本にかかる指標は、企業の経営戦略の優劣が可視化されたものと言え、我々運用機関は、こうした人的資本等の社会関連指標も参考にしながら企業分析をしています。

三井住友トラスト・アセットマネジメントの取組

私たち、三井住友トラスト・アセットマネジメントでは「未来の可能性を拓(ひら)き、真に“豊かな”社会を育む」という企業理念の下、ESGマテリアリティの中のS(社会)に該当する項目として「人的資本」を掲げ、投資先企業とのエンゲージメントを積極的に推進しています。

なお、当社は前述の多様性に関して、2022年12月に「責任ある機関投資家としての議決権行使の考え方」における女性取締役選任についての基準を厳格化し、TOPIX500の対象企業のうち、女性取締役が一人もいない先の取締役選任議案について全て反対するという運営に見直しており、日本企業において多様性の問題が進展するよう後押しをしています。

さいごに

ESG(環境・社会・企業統治)のテーマは絶えず新たな考え方が示され、その流れに追随していくことは簡単なことではありません。ですが、常にそれらに対してアンテナを広げ、我々の投資手法を改善することを念頭に今後も真摯に取り組んで参ります。

今回取り上げたテーマである人的資本もいまだ新しい概念ですが、今回話をさせていただいた通り、企業価値向上のためには、社員一人一人の役割と貢献が益々重要となり、「人材」を「人財」に転換することが投資先企業の成長において大きな鍵となるものと考えています。本コラムが、皆さんにおいても今後の資産運用を検討する際に人的資本という切り口から考える契機となれば幸いです。

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(提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント)

著者/ライター
阿由葉 真司
現在、三井住友トラスト・アセットマネジメントにて国内外の企業に対するESGの観点でエンゲージメントに携わる。シンクタンク、国際機関等で企業・政府向けに気候変動に係る金融や情報開示制度の調査や制度設計に携わる。東京大学博士(国際協力学)。東京大学大学院非常勤講師。
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