「子どもが“金融”に興味を示したときに、いかにサポートできるかが大事」
経済アナリスト・森永康平の子育て論「興味を育てる環境をつくるのが親の役目」
高校の家庭科に資産形成の内容が盛り込まれたり、SNS上での投資詐欺事件が報道されたりと、若いうちから金融や金銭トラブルに触れる機会が増えている。家庭でも子どもとお金の話をしたほうがいいのではないか、と感じているパパやママもいるだろう。
金融教育事業を展開する経済アナリストの森永康平さんは3児のパパであり、同じく経済アナリストの森永卓郎さんを父に持つ。家庭では子どもとどのように接しているのか、そして父からはどのような教育を受けてきたのか、聞いた。
金融教育の前に大切にしたい「親子のコミュニケーション」
「『金融教育のために親子で何をすればいいですか?』という質問をいただくことが多いのですが、まず考えるべきは、子どもと日常的にコミュニケーションを取れているかどうかだと感じています。日頃からコミュニケーションを取っていれば、子どもが興味を示していることをキャッチしたり、子どもが抱いた疑問に答えたりできるので、金融教育を意識しなくても、自然とお金の話もできるのではないかと思います」(森永さん・以下同)
親子のコミュニケーションが少なく、会話しづらい状態にあると、万が一子どもが投資詐欺などに巻き込まれた際に、親の対応が遅れかねないという。
「子どもがSNSなどを介して投資詐欺に引っかかったとしても、日頃から親子のコミュニケーションが取れていれば、親に相談できるでしょう。しかし、日々のコミュニケーションが少なく、久々に親に話す内容が詐欺のこととなると、子どもは言い出しづらいですよね。親に黙っている間に追い込まれ、自殺などの最悪のケースにつながってしまう可能性がないとはいえません。金融教育を考える前に、どんなことでもフラットに話せる親子関係を築くことが重要ではないでしょうか」
森永さんは、3人の子どもたちとのコミュニケーションで心掛けていることがあるそう。
「子どもたちと話さないまま1日が終わる、ということはないようにしています。話す内容は金融のことに限らず、何でもいいんです。『今日は幼稚園で何したの?』『学校で何が流行ってるの?』といったことで良くて、大切なのは親子の会話を習慣にすること。子どもに“親=話す相手”と認識してもらえれば、話したいことや質問したいことがあったときに声をかけてくれるはずです」
3人の子どものうち、真ん中の子と下の子は学童や幼稚園の送迎の際に話す時間を持てているが、小学校中学年の上の子とは意識して話すようにしないと、会話をせずに1日が終わってしまうこともあるという。
「中高生になって、親と話しにくいと感じているようだったら、親が無理に話そうとして関係を悪くする必要はないと思います。でも、小学生の間は話しておきたいんですよね。6年生までの間にがっつり話しておけば、中学生になってからも話しやすくなるだろうし、強制的に話さなくても親の思いが通じるのではないかと思っています」
親がするのは「環境づくり」と「子どもが抱いた興味のサポート」
森永さんと子どもたちの会話のなかで、意識的にお金に関することを盛り込むといったことはしていないそう。
「普通に生活していたらお金の話が出ることはあるので、そういうときに話す程度です。親が強制するのは逆効果だと思っているため、わざわざお金の話をすることはありません。ただ、大人が何もしないなかで子どもが能動的に金融に興味を持つとも思えないので、環境をつくるようにしています。わが家は金融や経済の本がたくさんありますし、経済系の番組を流していることも多く、きっと子どもの目や耳には入っています。何かのきっかけで、『これって何のこと?』と疑問を抱く瞬間があると思っています。必然的にお金の話ができるおこづかいも、環境づくりのひとつです」
親は学びを強制するのではなく、環境を整備し、興味を抱くか抱かないかは子どもに任せるというわけだ。
「うちの子はサッカークラブに入っているんですが、サッカーをやってる子の親って、大抵サッカーが好きだったりテレビでサッカーの試合を見ていたりするんですよね。だから、子どもにもサッカーという選択肢が出てくる。金融も同じだと思います。強制すると子どもは嫌がりますが、親が新聞や経済書を読んでいると、『パパ(ママ)が読んでる本には何が書いてあるんだろう』と、興味を持つかもしれません」
金融に興味を持つ環境を整えるためには、「まず親が興味を持つことが重要」とのこと。
「親がお金に興味がないのに、子どもが興味を持つわけがないと思います。だから、家庭でお金について話したいのであれば、まずは親が新聞を読んだり、金融について学んだりしましょう。そして、子どもが興味や疑問を持ったときには、親が質問に答え、背中を押してあげることが理想です。そこで答えられないと、『パパやママが知らないなら、大事なことじゃないんだ』と思われてしまいます。どうしても答えられない質問が飛んできたときは、一緒に考えて勉強していくのもいいでしょう」
森永家で実践されてきたコミュニケーション術
森永さん流の子どもとのコミュニケーション術を聞いてきたが、森永さんが子どもだった頃、父親の森永卓郎さんからは金融教育を受けていたのだろうか。
「一切受けていません。僕が話してきたコミュニケーション術は、まさに父がしていたことなんです。僕が子どもの頃、父はシンクタンクに勤めていたので、家には大量の経済に関するレポートや参考文献が山積みになっていて、幼いながらに興味が湧いたんです。ただ、読んでも意味がわからず、わかるようになりたいと思ったのが最初でした。父に『これには何が書いてあるの?』と聞くと、『この本に書いてあるから調べなさい』と分厚い経済学の教科書を2冊渡されたんです。そこから自分で調べ始めて、結果的に経済アナリストになっていました」
意識されていたかはわからないが、「強制しないこと」「環境をつくること」「子どもの質問に答えること」が実践された家庭で育ったことで、森永さんは金融や経済に興味を持ったのだ。
「いま子育て中の皆さんは、かつて塾に行ったり参考書で勉強したりした経験があるので、金融教育も『これさえ学べばOK』というものを求めてしまいがちです。しかし、金融はぼんやりしたものなので、特定の本を読めば完璧に学べるわけではありません。だからこそ、悩んでしまうと思いますが、親が勉強したり経験したりすることが教材になるはずです。スタートラインは子どもと同じでいいので、まずは親がお金に興味を持ちましょう」
金融教育に目が向くと、つい効率的な教え方を探してしまうが、何でも話せる親子関係が築けていてこそ、お金の話もしやすくなる。まずは子どもとのコミュニケーションを大切にしながら、親が金融や経済に興味を持ち、学び始めてみよう。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)