子育てにまつわるお金の話

学校での金融教育を推進するカギは“外部人材”の活用

経済アナリスト・森永康平が思う「学校で金融教育がうまく進まないワケ」

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2020年から2022年にかけて段階的に小学校、中学校、高校の学習指導要領が改訂され、外国語教育やプログラミング教育が始まるとともに、消費者教育や金融教育の充実化も進んだ。

学校でお金に関する教育を行うことについて、「ほとんどの子が受けている学校教育に取り入れるのは、正しいと思う」と話すのは、金融教育事業を展開する経済アナリストの森永康平さん。学校教育への導入が正しいということは、学習指導要領の改訂も成功ということだろうか。

いま考えるべきは「どのように金融教育を実施するか」


「学校教育、特に義務教育に金融教育を取り入れるのは、格差を生まないためにも正しい考え方だと思います。ただし、教育現場はそこまで暇ではないという現実的な問題があります。僕は仕事柄、現場の先生方と話す機会も多いのですが、皆さん忙しそうです」(森永さん・以下同)

学習指導要領の改訂によって、金融教育以外にも教師たちが担当しなければいけない新たな分野が増えている。

「外国語やプログラミングなど、時代の流れに合わせて取り組まなければいけない授業が増えています。一方で、授業のコマ数や子どもの時間が増えているわけではないので、詰め込みになってしまっている。金融教育を学校教育に導入することは賛成ですが、現行の制度のなかに追加しようとすると、難しい点もあるのではないかと感じます。現状、金融教育まで手が回っていないという話も聞きますが、仕方がない気がします」

また、金融教育が受験科目でないことなども影響して、現場では本格的な学びにつながっていない可能性が考えられるという。

「受験に関係ないので、授業を受ける生徒のモチベーションが高くない。また、先生方も新たな分野を教えたところでインセンティブがあるわけではないので、なかなか進まないという面があると思います。先生方の状況を考えても、いま以上に現場に負担を押しつけるのはおかしいのかなと。既に金融教育をやるかやらないかではなく、どのようにやるかを考えるフェーズにあると感じます」

学校が考えるべきは「外部人材の活用」


学校で金融教育を実施していくには、どのような方法が有効になるだろうか。

「先生に頼るのではなく、外部の人間を活用するしかないと思います。金融教育に長けた人間を招いて、授業をしてもらう。この方法が、学校教育に金融教育を取り入れる最善策ではないかと考えています。ただ、外部人材を活用するには、お金の問題が浮上します。国の政策として金融教育を進めるのであれば、講師を雇う費用を学校に負担させるのではなく、国が支援するのが理想的ではないでしょうか」

東京都では、2023年5月から「金融経済教育に関する講師派遣事業」を開始。学校が無料で専門家によるお金の授業を実施できるよう、支援を行っている。

「東京都のような制度を、ほかの道府県でも利用できるといいですよね。制度の有無によって地域格差が生まれてしまう状況は好ましくないので、全国で同じような事業を進めてほしい。東京都の事業はモデルケースになりつつあるので、この調子でほかの道府県も真似してくれるといいなと思います」

学校に金銭的な余裕があれば、自治体の制度を待たず、積極的に外部の講師を招くのもいい。

「学校や先生が『この人を講師に招きたい』と感じる人がいたら、直接連絡を取って依頼してみるのもいいでしょう。金融教育を民間に委託することで、民間では競争が起こります。台本を読むだけのようなつまらない授業をしていると、学校から依頼されなくなるからです。逆に、生徒が興味を持つようなおもしろい授業をする講師は、お金を払ってでも来てほしいと思ってもらえるもの。結果的に講師のレベルが上がり、お金の話が生徒たちに届きやすくなるというプラスの効果が期待できます。学校には、ぜひ民間への委託を検討してほしいですね」

金融教育のコツは「子どもの興味」をキャッチすること


「金融教育は受験に関係ないから、授業を受ける生徒のモチベーションが高くない」という話があったが、子どもたちに興味を持ってもらうコツはあるのだろうか。森永さんが金融教育の授業を行う際に心掛けていることを聞いた。

「『金融教育とは』という文脈で話すと、子どもたちは眠くなるだけです。大切なのは、彼らが興味のあるテーマをフックに話を切り出し、すべての話が終わった後、結果として金融の知識が身に付いたという授業内容にすることだと思っています。子どもたちの目線に立って話すことを心掛けています」

子どもたちが興味のあるテーマというと、どのような内容になってくるだろうか。

「まだ自分で稼ぐ経験をしたことがない子がほとんどなので、ライフプランや資産形成の話をしてもピンとこないでしょう。バイトの話をテーマにしようにも、バイト禁止の学校もあるので、全員に刺さる内容にはなりません。子どもたちがリアルにお金に触れる機会を考えると出てくるのは、友人間のお金の貸し借りやSNS上の投資詐欺、スパチャやアプリ課金などでの推し活などが挙げられるでしょう。これらをフックに、話を膨らませていくイメージです」

テーマだけでなく、話を展開する雰囲気も重要だ。淡々と話すだけでは、子どもたちの耳には届かない。

「学校やクラスによって生徒の雰囲気はバラバラなので、僕は様子を見ながら進めています。真面目に授業を聞いているようであれば、こちらも真面目に進めますし、ある程度フランクな雰囲気だったら、多少砕けて話したほうが伝わりやすかったりします。子どもの興味や感情、雰囲気をキャッチしながらコミュニケーションを取るのは、学校でも家庭でも同じように大切ではないかと思っています」

現状のまま金融教育を進めようとしても、教師の負担が増すだけで、うまく進まないかもしれない。学校が外部人材に頼れる環境を整え、金融教育を専門とする講師が増えていくことが先決といえそうだ。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)

お話を伺った方
森永 康平
経済アナリスト、マネネCEO。証券会社や運用会社でアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事した後、インドネシア、台湾などアジア各国で新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。2018年6月に金融教育ベンチャー・マネネを創業。現在は、国内外のベンチャー企業の経営にも参画している。著書に『森永先生、僕らが強く賢く生きるためのお金の知識を教えてください!』など多数。
著者サイト:https://www.manene.co.jp/
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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