定年後のマネープランは定年前に

「定年時に気づくのでは遅すぎる」定年後に待ち受けるお金の事実

提供元:Mocha(モカ)

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人生100年時代において、定年後の生活は想像以上に多くの機会と挑戦に満ちていますが、定年後のお金の管理は、働き盛りの時期とはまったく異なります。そこで今回は、定年を迎える前に知っておきたいお金の事実を紹介します。

定年を迎えてから「こんなはずではなかった」となるのでは困りますよね。マネープランの重要性を理解し、新しい人生のステージを資金的な心配から解放された状態で迎えるための知識やヒントをお届けします。

定年に到達した60歳の約9割が継続雇用を選択

厚生労働省が公表している「就労条件総合調査」(2022年)によると、一律定年制を定めている企業の割合は96.9%。そのうち72.3%の企業が「60歳」を定年の年齢としています。同じく厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」(2022年)によると、2021年6月1日から2022年5月31日の1年間に60歳定年に到達した人の数は約38万人で、87.1%の人が継続雇用(再雇用・勤務延長)されているようです。

継続雇用された後の待遇は企業によって異なるものの、それまでよりも下がるのが一般的です。労働政策研究・研修機構の調査では、60代前半の継続雇用者の約6割(57.9%)は「嘱託・契約社員」として雇用されており、従業員数が多くなるほど正社員の継続雇用者がいる企業の割合は低くなる傾向にあることが示されています。

定年後も継続雇用を希望する人は、継続雇用によって待遇がどのように変わるのかをあらかじめ会社に確認しておきましょう。

60代に突入すると収入は大きくダウン

定年前後における賃金水準の変化も無視できません。厚生労働省が公表している「賃金構造基本統計調査」(2022年)によると、男女ともに50代後半(55~59歳)に賃金のピークを迎えますが、男性の60代前半の賃金は、50代後半(416.5万円)の77.3%となる321.8万円。さらに、雇用形態別では、60代前半で「正社員・正職員以外」の男性の賃金は、50代後半の「正社員・正職員(431万円)」の65.8%となる283.6万円まで低下します。

200万円台は、正社員・正職員の20代男性と同じ水準ですが、さらに追い打ちをかけるのが住民税です。住民税は、前年の所得に基づいて計算さるため、定年を境に急激に賃金が下がる人の場合、定年の翌年は手取り額のあまりの少なさに驚くかもしれません。

なお、賃金が60歳に到達した時点に比べて75%未満に低下した人(65歳未満)には、条件を満たせば雇用保険から「高年齢雇用継続基本給付金(非課税)」が支給されます。

高年齢雇用継続基本給付金の金額は、下がった後の賃金の最大15%(2025年4月から最大10%)です。高年齢雇用継続基本給付金の手続きは、本人が申請手続きをすることもできますが、原則として会社を経由して行うので、要件や必要な手続きなどについて、まずは会社に確認してみるのがおすすめです。

高齢無職世帯の家計収支は毎月平均10.5%の赤字

「高年齢者雇用安定法」による65歳までの雇用確保義務も相まって、60歳で定年を迎えても、65歳まではひとまず働こうと思っている人は多いと思われます。そして次なる関心は、65歳を超えてからも働き続けるべきかどうかではないでしょうか。この問いに対する正しい答えは存在しないものの、ここでは家計収支の観点から考えてみたいと思います。

総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、世帯主が65歳以上の無職世帯(2人以上)では、平均月216,253円の可処分所得(実収入から直接税、社会保険料などの非消費支出を差し引いた額)に対して、消費支出(食費や光熱水費等)は238,919円。毎月の黒字率は▲10.5%(つまり赤字)となっています。

しかし、この数字はあくまで65歳以上の平均に過ぎません。世帯主が65~69歳の黒字率は▲18.1%ですが、70~74歳は▲11.1%、75歳以上になると▲7.4%と、年齢を重ねるごとに赤字幅が縮小していることがわかります。ちなみに、世帯主が60歳以上の勤労者世帯では毎月平均25.3%の黒字ということで、60代後半も働くことができれば、資産を取り崩すペースを抑えられて、気持ち的なゆとりも生まれるはずです。

2021年4月1日からは、65歳までの雇用確保義務に加えて、70歳までの就業機会を確保することが企業の努力義務とされています。「高年齢者雇用状況等報告」(2022年)によると、66歳以上まで働ける制度のある企業は40.7%、70歳までの就業確保措置が既に実施されている企業の割合は27.9%。今後も増え続けることは間違いありませんが、現在勤めている会社で働けるかは会社次第です。そして、どのような働き方が望ましいかは自分自身にしか分かりません。したがって、定年前のなるべく早い段階から、60代以降の働き方に関する計画を立てて、準備を進めていきましょう。

年金暮らしにかかる支出にも注意

老齢基礎年金や老齢厚生年金は原則として65歳から受け取ることができます。65歳からは年金収入をベースに、あとは築いてきた資産を取り崩しながら生活することを考えている人も多いかもしれません。では、現在の年金受給者は、どれくらい年金をもらっているのでしょうか。

厚生労働省が公表している「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2021年度)によると、会社員として厚生年金保険に加入したことがある人の年金月額の平均は、老齢基礎年金(2021年度の満額は月額65,075円)も含めて143,965円。男女別で見ると、男性の平均月額が163,380円、女性は104,686円となっています。

年金は老後の収入の大きな柱ですが、その額は決して多くありません。年金暮らしにかかる支出を見積り、いくら不足するのか、足りない場合はどうするのか(支出を減らす・収入を増やすなど)を考えておく必要があります。

「ゆとりある老後生活費」の平均は夫婦2人で月37.9万円

生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(2022年度)によると、夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考える最低日常生活費は月額で平均23.2万円である一方で、旅行やレジャー、日常生活の充実、趣味や教養といった、ゆとりある老後生活を送るためには、毎月平均37.9万円であると考えられているようです。

年金収入をベースにしながら、ゆとりある老後生活を送りたい人が注意すべき年金の落とし穴が2つあります。1つ目は、年金は偶数月の15日にその前月までの2ヶ月分がまとめて振り込まれること、2つ目は、ボーナスはないということです。どちらも給与収入を受け取っていたときとは異なる仕組みだけに、支出管理を誤れば、あっという間に毎月の年金収入が底をつき、資産を取り崩すスピードを速めてしまいます。

もちろん、ゆとりある老後生活を望むことは悪いことではありません。定年前の人はまだまだ時間があるので、さまざまな選択肢の中かから準備することが可能です。

例えば、少しでも長く働くことによって、家計を長持ちさせられるだけでなく、年金収入も増やすことができます。さらに、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)といった、税制優遇を受けられる制度も活用しながら、公的年金とは別に自分で老後資金を用意するのも一つです。

年金受給者にも税金や社会保険料がかかる

マイナポータルからアクセス可能な「ねんきんネット」や「公的年金シミュレーター」を活用すると、これからの働き方や受け取り方法を反映させた形で将来の老齢年金の額が試算できます。しかし、これらから確認できる年金額は、次の税金や社会保険料が差し引かれる前の「額面」の金額です。

・所得税
・住民税
・介護保険料
・国民健康保険料(75歳未満)
・後期高齢者医療保険料(75歳以上)

税金や社会保険料の額は、収入(所得)や年齢、家族構成、居住地によって異なります。目安として、「家計調査年報(家計収支編)2022年」によると、世帯主が65歳以上の無職世帯(2人以上)における直接税と社会保険料などの非消費支出は、月32,606円。実収入の約13%を占めることから、老後のマネープランを立てる上でも忘れずに考慮するようにしましょう。

定年後のマネープランを作っておこう

人生100年時代を迎え、私たちは定年後の長い人生をどう過ごすかについて真剣に考え始めています。働き盛りの頃とは違う定年後に待ち受けるさまざまな事実を、各種調査や統計を参考に紹介した今回の記事が、みなさんが定年に向き合う第一歩になれば幸いです。

そして、マネープランの作成を通じて、ご自身の資産や負債、定年後の収入や支出をしっかり把握しておくことは、定年後の冷静な判断には欠かせません。定年後の新しいステージに向けて、賢く、そして安心して歩みを進めるために、ファイナンシャルプランナーをはじめとする専門家もフル活用しましょう。

[執筆:ファイナンシャルプランナー 神中智博]

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