日本での発展のキーワードは「現場力」「システムの内製」「高齢社会」
ビジネスマンのエージェント的存在となり得る「生成AI」が社会に与える影響
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市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。生成AI編1回目の本記事では、生成AIの現状やビジネスに及ぼす影響、日本での発展性について考えていく。
「現代用語の基礎知識選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」でトップ10に入った「生成AI」。2022年11月にアメリカのオープンAIがリリースした「ChatGPT」によって、注目を浴びるようになった生成AIは、企業や自治体の業務にも導入されるなど、身近なものになりつつあるが、ビジネスで活用することで効率化以上のメリットは考えられるのだろうか。
そこで、生成AIサービスの開発・販売を行うExa Enterprise AI代表取締役の大植択真氏に、生成AIの現在とこれからの可能性について聞いた。
生成AIによって推進される「新規ビジネスの創出」
そもそも生成AIとは何なのか? 大植氏は、「もととなるデータから新しい情報をつくり出すAIのこと」と話す。
「いわゆるAIは、将来の予測、画像・音声の認識や分類、大量の文字・数字の処理といった専用の用途で使われるケースが多いといえます。そして、これらのAIの複数の機能を、チャットのインターフェースから利用しやすくしたものが生成AIです。以前からテキストで指示した内容をもとに画像を生成するサービスはありましたが、ウェブブラウザから簡単に利用できる『ChatGPT』の登場によって、一気に世界中に広まりました」
ChatGPTというと、どんな質問にも答えてくれる検索エンジンのようなイメージを抱く人が多いかもしれないが、その本質は“生成”にあるという。
「AIが文書のひな型をつくったり、データを処理したりすることで、ホワイトカラーの方々の生産性の向上が可能になったことが、生成AIの大きな功績といえます」
ホワイトカラーの生産性が上がることで、さらなるプラスの影響が各企業、ひいては社会全体にもたらされるとのこと。
「生成AIを業務に導入することで、生産性や作業のクオリティを上げられるだけでなく、これまで日々のオペレーションに割いていた人手を、新たなビジネスの創出に振り分けることもできると考えられます。生成AIが中期的に企業の組織やビジネスに大きな変革を及ぼし、社会全体にも好影響を与えるのではないかと考えています」
「ChatGPT」の登場以降、さまざまな企業が生成AIサービスの提供へと乗り出している。そのなかのひとつであるマイクロソフトは、オープンAIのAPIをそれぞれの国や地域のクラウドサービス「Microsoft Azure」から利用できるようにしている。この仕組みによって、日本のユーザーもアメリカのサーバーを介さず、国内でデータ処理などを行えるようになった。
「生成AIを活用するうえでは、データのセキュリティや著作権などへの対処が欠かせません。その点、マイクロソフトの取り組みは、データのセキュリティやコンプライアンスの面から評価されていて、我々Exa Enterprise AIもマイクロソフトが日本で提供するオープンAIのAPIを利用して生成AIサービスの開発・提供を行っています」
Exa Enterprise AIでは、法人向けChatGPTサービス「exaBase 生成AI powered by GPT-4」を提供している。データのセキュリティに配慮したサービスで、オプトアウト(入力データをAIに学習させないこと)や入力するデータ内容の制限などに対応しているため、社内の情報が外部に流出してしまうことを防止できるという。
「『exaBase 生成AI』は、社内規定や営業資料、販売実績などの企業独自のデータをもとに、自社に特化した活用ができる仕様になっているところも特徴です。さらに、当社ではIR業務向けサービス『exaBase IRアシスタント』も提供しています。株主総会や決算説明会でのQ&Aを自動生成することで、IR担当者の作業時間を減らし、ほかの作業に専念できるようにするものです。ホワイトカラーの生産性の向上に直結するサービスだと考えています」
生成AIはあらゆる部門のエージェント的存在に
これからの日本において、生成AIはどのように発展していくだろうか。「現時点で“導入”から“活用”のフェーズに移り始めている」と、大植氏は分析する。
「2023年8月にExa Enterprise AIの親会社であるエクサウィザーズがセミナーで実施した生成AI活用に関するアンケートでは、生成AIを業務内で日常的に活用している参加者は20%に達していました。同年4月時点と比べると13ポイントの増加です。また、日常的に使用している人とときどき使用している人を合わせると60%以上。この結果から、『どう導入するか』から『どう活用するか』に移行してきていると考えられます」
導入方法から活用方法へと視点が移っている段階の生成AIだが、日本ならではの環境やビジネススタイルのなかでは、思いがけない発展を遂げる可能性があるという。そのキーワードとして、大植氏は「現場力の継承」「生成AIを活用したシステムの内製」「高齢社会への対応」の3つを挙げる。
「1つ目の『現場力の継承』は、社内の各現場で蓄積されてきた知見の活用を意味します。生成AIによって、それらの知見を明文化、システム化することができれば、より多くの部門や業務で応用できるのではないかと思います。真摯に現場力を磨き、ノウハウを積み上げてきた日本企業だからこそ、発展性のある部分だと感じています」
2つ目は「生成AIを活用したシステムの内製」。米国企業と比べるとITやデジタル部門における専門人材の層が物足りず、システムやアプリの開発を外部に委託するケースが多い日本企業だからこそ、可能性を秘めているという。「生成AIの活用が、日本企業の内製を後押しするのではないか」と、大植氏は期待している。
「3つ目の『高齢社会のへの対応』ですが、生成AIの活用が、介護事業所における入居者の急増やスタッフの高齢化といった問題を解決する糸口になるのではないかと想像しています。生成AIとLINEなどを連携させることで、現場や経営の支援につながる情報の提供・共有が簡便に行えると考えられるのです。これらのキーワードをもとに、日本で生成AIサービスが展開していくのではないかと期待しています」
さらに、生成AIがいま以上にさまざまな分野に波及していく未来も想像できるという。
「先ほど紹介した『exaBase IRアシスタント』のような動きが、採用や会計、営業など、さまざまな部門に広がっていくのではないでしょうか。生成AIサービスが各担当者の代理、つまりエージェントのような存在となり、面倒で複雑な業務をこなしてくれるようになると考えています。どのような課題にも対応できるAGI(汎用人工知能)のようなものではなく、エージェント的な生成AIの開発が進み、各企業の業務に特化した処理を行っていく世界が実現するのではないかと思っています」
僕たちの日々の業務をサポートしてくれる存在となるであろう生成AI。次回からは、生成AIサービスを提供する企業に取材し、現場で起きていることを掘り下げていく。
(取材・文/有竹亮介(verb))