キーワードは「iDeCoの枠を使い切る」「NISAは無理のない範囲で」
「新しいNISA×iDeCo」2つの制度をうまく併用する方法を探る
2024年1月からスタートする「新しいNISA」。非課税保有期間は無期限、非課税保有限度額も1800万円に拡大となり、NISA制度そのものが恒久化されるため、さまざまな世代で自分に合った使い方ができるようになったといえる。
「NISA」の非課税保有期間が無期限となると、老後資金を備えるために使おうと考える人は増えるだろう。そうなると、60歳(場合によっては65歳まで)運用できる「iDeCo(個人型確定拠出年金)」との区別が難しいと感じるかもしれない。そこで、“iDeCoファースト”を実践しているファイナンシャルプランナー・山崎俊輔さんに、「NISA」と「iDeCo」をうまく併用する方法を教えてもらった。
最初のステップは「iDeCo」をフル活用
山崎さんは“iDeCoファースト”=「iDeCo」への投資を優先する方法を実践している。まずは、その理由を聞いた。
「『NISA』と『iDeCo』を並べたときに、税制優遇のメリットが大きいほうが優先順位が高いと考えられるからです。どちらの制度も運用益が非課税になるという点は同じですが、それに加えて『iDeCo』は拠出金額のすべてが所得税や住民税から控除されます。より節税につながる『iDeCo』を優先するのは、資産形成において基本的な選択といえるでしょう」(山崎さん・以下同)
節税メリット以外にも、「iDeCo」を優先する理由があるという。ポイントは「金額」だ。
「会社員や公務員の場合、『iDeCo』に拠出できる金額の上限は月々1万2000~2万3000円と少額です。枠が小さいので、そこを使い切ることはイメージしやすいですよね。一方、『新しいNISA』は『つみたて投資枠』に絞ったとしても、投資上限は年間120万円なので、自分がその枠のどのくらいを使えるかが想像しにくいでしょう。だから、『iDeCo』を優先して、まずは月1万2000~2万3000円の枠を使い切り、そのうえで無理のない範囲で『NISA』でも投資するという方法がいいのではないかと考えています」
「iDeCo」はよく「拠出金が60歳まで引き出せない」という点がデメリットとして挙げられるが、山崎さんは「そこまでマイナスな面ではない」と話す。
「多くの人は老後のために絶対に崩さないお金だと決めて、月々1万~2万円を『iDeCo』に拠出するはずなので、解約できないほうが使い勝手はいいですよね。また、いまは65歳まで働くのが一般的な時代なので、『iDeCo』は現役世代後期には引き出せるお金といえます。60歳を超えてからも子どもの教育費が発生する、住宅ローンを払い続けるという人にとっては、そのための資金として使える可能性もあるのです。そう考えると、60歳まで使わずに取っておけるメリットのほうが大きいのではないかと考えられます」
目指すべきは「NISAフル活用」ではなく「無理のない運用」
優先的に「iDeCo」の枠を活用したうえで、「新しいNISA」はどのように使っていくといいだろうか。
「まず意識してもらいたいのは、『新しいNISA』の非課税保有限度額や年間投資枠をフル活用するのは難しいということです。『つみたて投資枠』の年間投資枠120万円をフル活用するには、月々10万円投資することになりますが、一般的な会社員にはハードルが高いでしょう。非課税保有限度額の1800万円も、現役世代が毎月コツコツ積み立てて、リタイアする頃にようやく到達するかしないかのラインだと思います。それだけ大きな枠が用意され、使い切れない可能性のほうが高いと捉えて、上限額は意識せずに、自身にとって無理のない投資金額はどれくらいかということを考えるといいでしょう」
「iDeCo」のフル活用は、そもそも枠が小さいからこそ目指せるもの。同じように「新しいNISA」でも枠をフル活用しようと考えると、生活が立ち行かなくなってしまう可能性があるだろう。
「月10万円でも月1万円でも、運用益が非課税になることに違いはありません。枠を使い切ることではなく、自分のできる範囲で制度を活用することが重要です。『新しいNISA』は大きなお金を運用できる制度というよりも、枠が大きくなったからこそ、個々のペースで柔軟な投資がしやすくなった制度だと理解するといいでしょう。また、『新しいNISA』は非課税保有期間が無期限なので、『年間投資枠を使い切れないともったいない』と思わなくて良くなったところも、大きなポイントです」
具体的に「新しいNISA」の投資額を考えていく際は、これまでの「つみたてNISA」を参考にするといいようだ。
「『つみたてNISA』の年間投資枠は40万円、12カ月で割ると月3万3000円ほどでした。この金額を目安にするといいと思います。『iDeCo』を活用したうえで月3万3000円出すのは難しいと感じる人もいると思うので、もっと少なくてもいいでしょう。例えば、月1万円で『新しいNISA』をスタートして様子を見て、『もう少し投資に回せそう』『節約して投資額を増やせそう』と思えたら、後から投資額を増やすという方法もあります。特に投資に慣れていない人は、まずは小さな金額から始めましょう」
「投資信託で積立・長期投資」が基本
『新しいNISA』『iDeCo』で投資する金額が見えたところで、運用していく金融商品についても、山崎さんの考えを聞いた。
「近年、低コスト化が進んでいる投資信託を活用するのがおすすめです。分散投資の効果が期待できる投資信託を、積立かつ長期でこつこつ運用し続けることを意識しましょう。短期的な値動きに一喜一憂しないことが重要です」
投資信託のなかには、株式だけに投資する「株式型」もあれば、株式や債券などの多様な資産に投資する「バランス型」と呼ばれるものもある。その選択は、個々の好みによるという。
「ある程度リスクを取ってリターンを狙いたいと考えるのであれば『株式型』がいいですし、株式以外の投資対象にも分散投資したいと思うのであれば『バランス型』がいいでしょう。このときに大切なのは、『NISA』や『iDeCo』だけでなく、預貯金も含めて資産全体のポートフォリオ(資産の組み合わせ)をイメージすることです。資産全体の何割を投資して、何割を預貯金で持つか、最初に考えてみましょう。仮に5割投資、5割預貯金とすると、たとえ投資信託の価格が10%下落したとしても、手元に資産の半分の預貯金があるので、全資産におけるマイナスは5%といえます。資産全体でリスクコントロールできることを踏まえ、自分なりのポートフォリオを定めることが大切です」
「NISA」、「iDeCo」、預貯金とバラバラに管理していると想定していたポートフォリオから乖離していることに気付きにくいため、資産管理ソフトを使って管理するとわかりやすいという。
「NISA口座、iDeCo口座、銀行口座をすべて一括で管理できるアプリなどを活用すると、『投資の割合が増えてきてるな』と気付けます。家計簿アプリでもいいですし、野村證券が出している資産管理アプリ『OneStock』もおすすめです。想定していたポートフォリオから離れているときは、投資金額を減らして預貯金を増やすなどの調整を行いましょう」
「新しいNISA」と「iDeCo」の特徴をきちんと把握することで、自分に合った運用がしやすくなるといえそうだ。「iDeCo」はフル活用、「新しいNISA」は“枠を使い切ること”ではなく“無理のない範囲で継続すること”を念頭に置き、自分なりの併用方法を考えてみよう。
(取材・文/有竹亮介(verb))