【三宅香帆の本から開く金融入門】
日本人女性は、お金の不安がしみついている?『女子とお金のリアル』
女子ももっとお金を使うべきだ! と主張する本
前回、この連載では『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』という書籍を紹介した。お金をちゃんと経験に変えよう、老後のために貯蓄をしすぎるのではなく、自分の納得できるお金の使い方ができているか考えよう、という趣旨の本である。
しかし『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』はアメリカの投資家が書いた本なので、なかなか身近に感じづらかった、自分事に置き換えると「そんな無茶な」と思ってしまう、という方もいるだろう。
そんな方におすすめしたいのが、『女子とお金のリアル』という書籍である。
漫画を交えながら、日本の女性たちのお金の使い方にフォーカスを当てている本書は、読みやすいと感じるのではないだろうか。
タイトルだけ見ると、リアルな貯蓄術や資産管理術を連想するかもしれない。が、本書の趣旨は、それではなく「女子ももっとお金を使うべきだ」という主張にある。日本の女性たちは、つい貯蓄に一生懸命になってしまう。しかし本当にそれでいいのか? お金の使い方は、他にもあるのではないか? 自分の人生の可能性をもっと広げよう、と語りかける啓発書が本書なのである。
節約=善とされすぎている?
著者の小田桐あさぎは、昔はとにかく節約しようと頑張るOLだったという。というよりも、節約が当たり前になりすぎて、自分にお金を使うことを禁じている状態にすら気づかなかった。
しかしある日、湯船にひとりで浸かることを勧められたとき、「もったいない」と感じている自分に気づく。
自分ひとりが浸かるために、お湯を沸かして捨てる。そのことがあまりにももったいなくて、無理だと思う。が、冷静に考えたらお湯を沸かすのにかかる費用なんて、たいしたことはなかった。それよりも自分の疲労回復に対してお金を使うのがもったいない、と思っている自分にショックを受けてしまう。そのことをきっかけに、「自分自身にどれだけお金を使えるか? は自分が自分自身に感じている価値を色濃く反映してるのだ」と彼女は理解したのだった。
現在は女性向けのマネー講座の講師であり、二児の母である小田桐は、「日本人女性は、お金に対して自信のなさや不安がしみついている」と説く。
自己犠牲が当たり前になりすぎて、結婚や出産を経たら稼げなくなることが大前提として語る人はいまだに多い……と。その結果、節約することや貯金することが、あまりにも善として語られすぎている。
本書はそんな思い込みを打ち破ろう、と常に説いている。
女性も稼ぐことの優先順位を上げよう
たしかに女性は、男女差で見たとき平均収入もいまだに男性より低い。学歴の男女差はかなり是正されてきたにもかかわらず、生涯年収となると、まだまだ男女差は大きくある。
もちろんその状態は社会が作り出したものであり、行政や企業の出産・育児サポートが足りていなかったり、女性の出世の道筋が見えづらい企業が多かったりする、という側面は大いにある。
しかし一方で、本書の説くように、そもそも女性側にも「稼ぐ」ことと「使う」ことの優先順位を上げていない人が、たくさんいるのではないだろうか。
もちろん女性は男性よりも体調を崩しやすかったり、体力が少なかったりするかもしれない。しかし成人女性が負担に感じる環境は多くの成人男性にとっても負担になりやすいだろうし、女性の体力ゆえに「稼ぐ」道をあきらめなければいけないとすればそもそもそのような道を変えていくことは、男性にとっても良いことであるはずだ。
だとすれば、女性もまた、ちゃんと「稼ぐ」ことにフォーカスすべきだ、という本書の言い分もよく分かるのだ。
安いは正義ではない
また面白いなと思ったのが、著者が「ふと、安いものがいいというメッセージをテレビや雑誌が伝えすぎていることに気づいた」というエピソードだ。
たしかにSNSを見ていても、著者の言うテレビや雑誌を見ていても、私たちの目には「安いものの情報」が飛び込んでくる。500円以下で作れるレシピ、百均グッズの紹介、プチプラコスメ……とくに女性向けコンテンツにおいて「安さ」は大切な指標なのだろう。想定以上に安いと財布の紐も緩む。
だが著者は、安さ=正義では決してない、と言う。日本の女性たちは、安さこそが正義だと思わされすぎているのでは? と問題提起をしている。
もちろん、お金持ちと呼ばれる人々も、決して金額に注目していないわけではない。たとえば安いSIMカードの情報、外貨両替手数料などの情報には注目する人は多い。
しかし、同じ価値のものにできるだけ安い金額を払おうとすることと、価値が違うのにとにかく安いから選ぼうとすることは、全然違うのだ、と本書は説く。
安いからって買ったけど、結局あまり使っていない。使っているけれど、ちょっとテンションは上がらない。そのような経験をしたことのある人は多いのではないだろうか。そういう人にとって、本書の発する「安さ=正義ではない」という考え方は、とても参考になるだろう。
情報の取捨選択も大切
とはいえ、本書に書いてあることすべてが正しいことだとは、私は思っていない。
貯金をしている人はお金を大切にしていないとは思わないし、何か自分の将来のために貯金しておいたほうが、日々穏やかに過ごせる、という人もいるだろう。
あるいは、起業や副業を無闇に始めるものでもない、とも思っている。副業を始めると、労働時間が増え、健康に悪い影響を与えてしまうこともある。あるいは起業や投資の詐欺も昨今は増えていると聞く。なので自身の健康や詐欺に十分注意しながら始めるべきではある。それだけは注意してほしいなと感じている。
しかし一方で、本書の説く「日本の女性は、お金を稼いだり使ったりすることに、罪悪感を覚える人が多い」という言葉は、本当にそうだと思ってしまうのだ。
現状、「お金のことはあまり分からないけれど、そのままでもいいだろう」と思っている人はまだまだいる。情報は自分で集めに行かなくてはいけないし、投資などはリスクもあるため、人前でお金の話をするのがはばかられる、あるいはお金のことは考えなくていいや、と感じる人がいるのもよく分かる。
だが、それでも自分のお金のことは自分で考えていくべきだ。どうやって稼ぎ、どうやって使ったら幸せになれるのか、ちゃんと貪欲に自分で考えたほうがいい。――そのような本書のメッセージを、私も肯定したいのだ。
「お金のことを人前で話すことは、どこかNGな雰囲気がある」そんな空気が今後、変わっていったらいいなと私も思う。そして、本書が闘おうとしているのは、そのような空気そのものなのだろう。
情報を取捨選択しながら、お金の話を堂々とできる女子ばかりになることを、私は願っているのだ。