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~1,000億ドル市場を巡る戦いはこれから~

世界が注目する肥満症治療薬

提供元:岡三証券

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肥満症治療における新しい薬が話題となっています。2021年6月、デンマークの製薬会社であるノボ・ノルディスクが開発した「ウゴービ®(一般名:セマグルチド)」が、肥満症治療薬としてFDA(米食品医薬品局)に承認されました。また、2023年11月8日には、FDAが米イーライリリーの2型糖尿病治療薬「マンジャロ®(一般名:チルゼパチド)」を肥満症治療薬「ゼップバウンドTM」として承認しました。

世界の肥満症治療薬市場は、10年以内に1,000億ドル(1ドル=142円換算で約14兆円)規模に成長するといわれています。各国の製薬大手やスタートアップが肥満症治療薬の開発へ参入するケースも増加しており、英調査会社によると、肥満症治療薬開発に取り組む製薬企業は2022年時点で約260社に上りました。製薬各社にとって肥満症治療薬は、「がん」や「糖尿病」、「心血管領域」などに続く新たなフロンティアともいえそうです。

2035年は世界の成人2人に1人が肥満に

経済発展などで摂取カロリーが上昇する半面、IT化や交通手段の発達で運動量は減少しており、2035年には世界の成人の50%がBMI≧25の肥満となる見通しです。肥満人口の増加と共に、高血圧などの健康障害(合併症)を伴う肥満症のリスクを抱える人も増加することが見込まれ、肥満に起因する経済的損失は、世界で毎年200兆円に上るとの試算もあります。

一方、治療に対する認識のギャップなどから、世界のGDPトップである米国でも、2012年~2016年に肥満症の適切な治療を受けた人は、減量を試みる成人の3%程度に留まっているようです。

「GLP-1受容体作動薬」のさまざまな効果へ期待が高まる

こうした中、注目を集めたのが「GLP-1受容体作動薬」です。「痩せホルモン」とも言われるGLP-1を体の外から補い、インスリンの分泌を促すことで、血糖値の上昇を抑えるほか、エネルギー代謝を高める効果があります。また、血糖値に応じて作用するため低血糖を起こしにくく、2型糖尿病治療薬として先行して使用されています。

加えて、「GLP-1受容体作動薬」は、エネルギー代謝を高める効果や血糖変動を小さくし、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを抑える効果などがあります。これに着目し、肥満によって引き起こされる11の健康被害(合併症)への効果を探る動きも活発化しています。今後、糖尿病や肥満症治療から他の分野へと適応拡大が進むことで、医療の在り方を一変させる可能性もありそうです。

他業種への影響を探る動きも

肥満症治療薬の普及が他業種に与える影響を探る動きも広がっています。例えば、医薬品開発受託製造機関(CDMO)や医薬品搬送企業は、新薬の需要拡大が追い風となりそうです。また、体型や健康面以外に、日常的な運動習慣や外出機会の増加など、生活習慣でも前向きな変化が表れることが期待されます。

半面、心臓や腎臓の機能向上に伴い、ペースメーカーや透析を必要とする患者数が減少するとの思惑や、食欲が抑制される効果から、医療機器や食料品関連企業の業績先行きに対する不透明感が高まる場面も見られています。

実際、2023年10月初旬には、小売大手ウォルマートの米国部門CEOが、「肥満症/糖尿病治療薬の食欲減退効果で、消費者の買い物の量とカロリーが僅かに減っている」と述べ、食品・飲料業界の株価が軒並み下落する場面がありました。肥満症治療薬のニーズは、肥満症が原因の平均年間医療支出が大きい米国で、とりわけ高いと見られています。米国に事業基盤を持つ消費関連企業は、商品ポートフォリオの見直しや健康に配慮した新製品の開発など、対応策をどのように描いているかで選別が進むとみています。

医療業界に留まらず、様々な業界へパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めた肥満症治療薬の躍進は、まだ始まったばかりです。正負の影響を見極めながらも、有望テーマとして今後も目が離せない状況が継続しそうです。

世界の成人肥満人口比率の推移

出所:Statista 作成:岡三証券 2025年以降は予測
成人=20歳以上、肥満=BMI≧25 2023年3月現在
(※1)BMI=肥満度を表す指標として国際的に用いられる体格指数。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出される
著者/ライター
大下 莉奈
2013年に岡三証券入社。
投資情報部配属後は、日本株・米国株のストラテジスト業務に携わる。
現在は日本株を中心に、テレビやラジオをはじめ様々なメディアに出演、雑誌や新聞等でコメント。

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