財政投融資とは?メリットや活用されている分野について解説

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財政投融資とは、一般会計とは別に国が預かった資金を出資したり、融資したりすることを指します。税財源に頼らない点が、主な特徴です。

本記事では、そもそも国の会計の仕組みがどのようになっているのかを説明してから、財政投融資の仕組みや活用されている分野について解説します。

そもそも国の会計の仕組みとは?

国の会計(財政)は、税金などのお金を集めて管理し、必要なお金を支払う仕組みで基本的に成り立っています。国の会計区分は、一般会計と特別会計の2種類です。

特別会計とは、特定の収入・支出を切り離し、独立して実施する会計を指します。本記事で紹介する財政投融資も、特別会計のひとつです。

一方、特別会計に属さないすべての会計を「一般会計」と呼びます。本来、国の会計は一般会計だけで経理することが望ましいです。

しかし、国の行政活動が広範になり複雑化すると一般会計のみでは明確な会計が困難となります。そこで、一般会計と区別して経理することにより、特定の事業や資金運用状況を明確するために設けられたのが特別会計です。

財政投融資とは?

財政投融資とは、一般会計とは別で国が預かった資金を出資したり、融資したりすることです。財務省によると、2022年度末時点の財政投融資計画残高は150.0兆円で、2002年度末時点で390.6兆円だったことを踏まえると、20年間で半分以下まで減少しています。

ここから、財政投融資の目的や特徴、活用されている分野について、詳しく解説します。

財政投融資の目的

市場メカニズムや民間に任せるだけでは達成できないことを進めることが、財政投融資の目的です。

日本は、基本的に市場経済で成り立っています。しかし、市場経済だけに任せてしまうと、社会で必要な財やサービスの供給が不足したり、経済的に不平等が生じたりする可能性があります。

財政投融資は、主に民間の金融機関が対応できない場面で有効です。特に、長期・低利の資金供給や大規模・超長期プロジェクトの実施などで財政投融資が効果を発揮します。

財政投融資の特徴

税財源に頼らず事業へ投資する点が、財政投融資の特徴です。財政投融資の主な財源として、財投債の発行で調達した資金や、国が保有する株(NTT株・JT)からの配当金などが挙げられます。

また、事業に投入した原資を回収することを前提としている点も、財政投融資の特徴です。そのため、国は事業に長期間にわたって関与できます。

財政投融資が活用されている分野

財政投融資は、さまざまな分野で活用されています。主な分野は、以下の通りです。

・中小零細企業(信用力や担保力が低い事業者に対して、資金供給など)
・海外投融資(資源・エネルギーの安定的確保や、日本企業の海外事業展開を推進など)
・社会資本(空港・鉄道など大規模プロジェクトを推進など)
・産業・イノベーション(イノベーション創出に必要なリスクマネーの供給など)
・教育(学生向け貸与型奨学金事業など)
・農林水産業(農林水産業における資金需要への対応など)
・住宅(老朽化した賃貸住宅の建て替え推進など)
・福祉・医療(医療法人・社会福祉法人への融資など)

なお、財務省が発行している「財政投融資の概要2023」によると、2023年度における財政投融資計画の額は16兆2,687億円です。そのうち、「中小零細企業」が30.6%、「海外投融資など」が21.8%、「社会資本」が18.0%を占めています。

財政投融資のメリット

財政投融資のメリットは、主に以下の通りです。

・租税負担を抑制できる
・受益者負担を実現して事業を効率化できる

それぞれ解説します。

租税負担を抑制できる

財政投融資を活用することで、国民の租税負担を抑制できます。なぜなら、財政投融資は租税ではなく、財投債の発行などで調達した資金を財源としているためです。財投債の償還や利払は、貸付先からの償還・利払によってまかなわれます。

プロジェクト支援の際にも、一般会計の補助金だけでなく、財政投融資を組み合わせた方が、少ない租税負担で一定規模のプロジェクトを進められるでしょう。

受益者負担を実現して事業を効率化できる

受益者負担を実現できる点も、財政投融資のメリットです。受益者負担とは、サービスを受けることで利益を得る人が、その範囲内で使用料や手数料を負担する仕組みを指します。

一般会計の補助金の場合、公共サービスにより直接恩恵を受ける機会のない国民も租税として負担しなければなりません。一方、財政投融資では、受益者が償還財源を負担します。

また、サービスを受ける人が費用を負担するため、コストへの意識が高まり事業の効率化にもつながるでしょう。

3種類の財政投融資の仕組み

財政投融資には、以下3つの類型があります。主な違いは、原資です。

・財政融資
・産業投資
・政府保証

ここから、それぞれの仕組みについて解説します。仕組みを説明するにあたって使われる「財投機関」とは、財政投融資を活用している機関のことです(例:政策金融機関、独立行政法人)。

財政融資の仕組み

財政融資は、財政融資資金を用いて国の特別会計や地方公共団体・政府関係機関・独立行政法人などに対して主に長期・固定・低利で融資する財政投融資です。財政融資資金は、財投債発行で調達された資金や預託金などで構成されています。

財政融資の流れを以下にまとめました。

政策的に必要な分野が、財政融資の主な対象です。

産業投資の仕組み

産業投資は、国が保有するNTT株やJT株からの配当金等を原資に主に出資する財政投融資です。政策的必要性が高くリターンを期待できるものの、リスクが高いため民間だけでは十分な資金量の確保が難しい分野に対して資金を供給します。

産業投資の流れは、以下の通りです。

ベンチャー支援やレアメタルの炭鉱・開発などが産業投資の主な対象です。

政府保証の仕組み

政府保証は、財投機関が発行する債券や借入金を対象に、政府が元利払いを保証する財政投融資です。政府の保証を受けることにより、財投機関はより有利な条件でスムーズに資金調達できるようになります。

政府保証の流れは、以下の通りです。

なお、政府保証は財政融資と異なり、国が債券を発行するものではありません。そのため、国にとってバランスシート上に計上されない債務である点がポイントです。

財政投融資の歴史

財政投融資の歴史は古く、明治時代初期にはすでに始まっていたとされています。

財政投融資の歴史を語る上で、ポイントとなる主な出来事・時期が以下の通りです。

・戦後復興期から高度成長期を支える
・ポストバブル期まで住宅や中小企業向けに活用
・2001年に財政投融資改革を実施

ここから、それぞれの概要を解説します。

戦後復興期から高度成長期を支える

第二次世界大戦後の戦後復興期から高度経済成長期(1945年〜1970年代前半)を、財政投融資は支えてきました。

戦後復興期には、石炭・鉄鋼・海運・電力などの基幹産業育成に役立てられていたとされています。また、1955年〜1973年の高度経済成長期には、インフラ整備やマイホーム取得のため、住宅分野にも活用されるようになりました。

戦後復興期から高度成長期の主な活用事例は、団地の整備・電力供給のためのダム建設、成田国際空港の建設などです。

ポストバブル期まで住宅や中小企業向けに活用

オイルショック後、日本が安定成長期に入り企業の投資意欲が減退するようになると、住宅や中小企業向けの財政投融資が増加します。また、大都市圏のニュータウンや研究学園都市の開発など、採算性が高くない事業にも活用されるようになったのが、この時期です。

安定成長期・バブル期・ポストバブル期(1970年代後半〜1990年代)の主な活用事例は、ニュータウンの開発・都市再開発・民間からの資金調達が困難な中小企業向け融資などです。

2001年に財政投融資改革を実施

従来、財政投融資は郵便貯金や年金積立金を預託した金額を財源として運用していました。しかし、必要以上の額が集まることにより非効率な運用が行われているとの批判が出ていたため、2001年に財政投融資改革が実施されます。

財政投融資改革の実施に伴い、郵便貯金や年金積立金の預託義務が廃止されました。以降、財投債発行などの方法で、必要な金額のみを金融市場から調達する仕組みが整っています。

まとめ

財政投融資とは、市場メカニズムや民間に任せるだけでは達成できない分野に対して、国が預かった資金を出資したり、融資したりすることです。一般会計の補助金と異なり、租税に頼らない点が特徴として挙げられます。

従来、財政投融資は郵便貯金や、年金積立金を預託した金額を財源として運用してきました。2001年の財政投融資改革で郵便貯金や年金積立金の預託義務が廃止されたため、現在は必要な金額を財投債発行などで金融市場から調達し、財政融資・産業投資・政府保証として実施する仕組みで成り立っています。

財政投融資が活用されている分野はさまざまです。大規模なプロジェクトを目にする機会があれば、財政投融資との関連を確認してみてはいかがでしょうか。

参考:財務省「一般会計に対して、特別会計とは何ですか」
参考:国税庁「国の財政 財政のしくみと役割」
参考:財務省「Ⅰ-5.財政投融資特別会計」
参考:財務省「財政投融資(国からの資金の貸付・投資)」
参考:財務省「Ⅰ-1.財政投融資の仕組み」
参考:財務省「Ⅰ-3.これまでの財政投融資」
参考:財務省「財政投融資関連資料・データ 財政投融資計画残高の推移」
参考:財務省「財政投融資の概要2023」

ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。

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