ユニークな福利厚生や魅力的な制度を導入している企業のご担当者様にインタビュー
ニチレイの福利厚生制度:「ニチレイ健康塾」を軸に幅広いプログラムを提供!ニチレイグループの健康経営の魅力に迫る!
少子高齢化や働き方改革が進む中、多くの企業にとって優秀な人材を安定的に確保していくことは大きな課題となっているのではないでしょうか。
そんな中、社員の満足度を上げ、求職者にとっても魅力的な企業として選ばれるために、職場環境や福利厚生等の制度を充実させることを重要ミッションの一つとして捉えている企業が多いようです。
そこで、福利厚生等の社内制度の充実といった切り口からユニークな取り組みをしている企業をご紹介!新しい働き方改革に合わせた魅力的な制度導入の背景や現在の制度までの経緯、裏話に至るまで、ご担当者様にセキララに語っていただきました。
今回は、共働き世帯の増加などでニーズが増加している、冷凍食品と低温物流で国内トップシェアを誇り、素材調達、バイオサイエンス事業も展開する「株式会社ニチレイ」のユニークな福利厚生制度をご紹介します。
聞き手・執筆:ファイナンシャルプランナー 高山 一恵
――では、本日はよろしくお願いします。早速ですが、御社は、これまで健康経営銘柄や7年連続で健康経営優良法人にも選ばれており、健康経営に力を入れていらっしゃいます。健康経営を導入された背景について教えていただけますか?
2012年〜2014年頃に、私傷病を事由とした従業員の現職死亡が継続的に発生するという、とても残念な結果を招いていました。このことを経営層が重く受け止め、「働きがいの向上は、従業員の健康がベースにある」という考え方のもと、ニチレイグループ従業員の健康の保持・増進を経営課題として取り組みはじめました。
2015年に健康経営の専任部署として、(株)ニチレイ人事総務部に「健康推進グループ」を設置し、その後、当社グループ全体の健康管理をする組織として、2018年に「ニチレイ健康推進センター」に名称を変えて現在に至ります。
以前は、従業員の定期健康診断の事後措置も全く周知できていない状況だったのですが、専任部署設置後は本格的に様々な施策を打ち出しています。
――御社のWEBサイトを拝見したところ、「現役死亡ゼロ」を目指して施策に取り組んでいるといった文言があり、衝撃を受けたのですが、そのような理由からだったのですね。
はい。そのことが、私たちが健康経営に取り組む原点であり、決して忘れてはならないことだと思います。
当社は食品メーカーという性質上、商品開発部署の従業員は、何度も試食を繰り返して、試行錯誤しながら商品を開発します。若い時は大丈夫かもしれませんが、年齢を重ねていくと、生活習慣病に起因した疾病になりやすい傾向があります。
――なるほど。確かに、年齢を重ねると代謝が悪くなったり、臓器の機能も低下したりするので、食べ過ぎや偏った食事は体に良くないですよね。
当社の従業員の健康状態を見てみると、肥満が多い傾向にあります。加工食品事業の従業員だけでなく、低温物流事業でドライバー業務を担う従業員も座りっぱなしで運動不足の中、運転の合間に食べやすいもの、例えば菓子パンなどを食すことも多いようで、肥満傾向の従業員が多くいます。
実際、従業員の血圧、血糖、脂質の有所見率が全国平均に比べて高くなっており、これは当社の健康課題と認識し、対応を進めています。
――御社の健康課題に対して、具体的にはどのような施策をされていらっしゃるのでしょうか。
フィジカル(体)面とメンタル(心)面からの健康サポート、そしてヘルスリテラシーの向上の3つの柱を軸に様々な施策を実施しています。
例えば、定期健康診断の受診徹底は勿論のこと、受診後に、保健師による事後措置も徹底し、有所見の従業員にはメールやオンラインツールなどを使って保健指導をしています。
当社は、北海道から沖縄まで大小様々な事業所が約300箇所あります。ですから、全国各エリアに保健師を配置し、どこの事業所においても同レベルの健康推進サービスを提供できるように、産業保健体制の整備を進めています。
他には、病気になっても治療しながら働き続ける環境を整えるための「治療と仕事の両立支援」施策や、海外勤務者に対して、海外勤務ならではの健康課題のサポートができるようにオンラインによる保健師面談を実施しています。ただ、オンラインの場合、幅広く情報を得ることができませんので、今年度は、実際に保健師が現地に出張し、職場環境や生活環境を視察し、海外勤務者の声をリアルに伺いました。収集した情報をもとに施策の企画・立案や、現地生活をふまえた支援の質向上に活かしています。
メンタル面でのサポートも非常に重要だと思っております。メンタルヘルスは、社会的な課題ですし、経営層も非常に重視しています。職場を取り巻く環境が変化する中、役職者が部下のメンタルヘルスの不調に対応しなくてはならないケースも多くなってきています。
そこで、2023年から、役職者はメンタルヘルス教育に関する研修を必須受講としました。研修やロールプレイングを通して、メンタルヘルスに関するスキルの向上を図ってもらっています。
――全国の事業所で同一の水準でサポートを受けられるのはとても良いですね。幅広いサポートを行っているのも魅力です。
ありがとうございます。ヘルスリテラシー向上の施策では、2016年から「ニチレイ健康塾」を実施して力を入れています。
新型コロナウイルスが蔓延する前までは、年に2回程度、生活習慣病をテーマに「病態生理」「食事」「運動」それぞれのスペシャリストを講師に迎え、大田区の雪ケ谷にあります研修センターや本社、東北、関西、中部支社や技術開発センターなどでセミナーを開催していました。コロナ禍は、オンラインでの開催に変更して、月に1回以上必ず開催することにしました。
ニチレイ健康塾では、当社の健康課題である血圧、血糖、脂質をテーマにしたものだけではなく、睡眠や深夜業の食事、メンタルヘルス、働く女性の健康など、さまざまなテーマで実施しています。
例えば、生活習慣病をテーマにしたセミナーでは、2016年の開催当初から当社のグループ会社であるニチレイフーズが手がける「気くばり御膳®」を“食べる教材”として使用しています。「気くばり御膳®」は、主菜と3~4種類の副菜をセットし、カロリー300kcal以下、塩分2.0g以下で、野菜100g以上を使用した冷凍おかずセットです。味付けや調理方法を工夫しており、塩分に配慮されているにも関わらず、食べてみると、味付けが薄いと感じることはないんですね。おかずもこれくらい食べれば十分ということを管理栄養士がきちんと説明しますので、食べすぎを防止するのに役立ちます。
それぞれの施策ごとにチームを作り、今では、月に2、3回程度、年間50回以上の開催になっています。オンラインの開催になり気軽に参加しやすくなったことやセミナーの種類も増えたことで、参加人数も延べ人数で4000名を超えました。ニチレイ健康塾を始めた当初は、1回15名程度の参加者を集めるのに苦労しましたので、少しずつですが浸透してきているなと思います。
――年間50回以上の開催ですか!それはすごいですね!最近、力を入れている施策があれば教えてください。
最近は会社でも「女性の健康づくり方針」を打ち出して、「女性の健康づくり」の施策を強化しています。
昨今言われている月経や更年期による体調不良により、本来の力が発揮できないといった「女性特有の健康課題」があると思います。
女性の健康課題については、2022年から重点的に取り組みを強化していまして、リテラシー向上のために、月経や更年期に関するセミナーを定期的に実施しています。少しでも多くの従業員に参加してもらいたいので、メディアでもご活躍の高尾美穂先生や甲賀かをり先生、宋美玄先生といった著名な先生を講師にお招きしています。
また、セミナーで知識をつけ、必要な従業員には、オンライン診療受診に加え、さらに薬を処方して体調改善をめざす「月経・更年期プログラム」も開始しています。
先ほどもお話したように、当社の事業所は全国約300箇所もあり、婦人科にかかりにくい地域の方もいらっしゃいますので、どこの事業所で働いている従業員でも参加できるようにとの思いからオンライン診療にしました。
――女性の健康課題はデリケートな部分だと思いますが、実際のプログラムの参加率はいかがでしたか。
2022年にトライアルで「月経編」「更年期編」それぞれのプログラムに定員30名で募集をしたところ、数時間であっという間に30名の定員が埋まってしまいました。そこで急遽、定員を50名に増やしました。
こちらが思っているよりも困っている従業員が多いということを実感しました。
――デリケートな問題だからこそ、皆さん誰にも相談できずに悩んでいらっしゃるんですね。プログラムに参加された従業員の方たちの反応はいかがでしたか。
参加した従業員からは、「本当にありがたかった」とか、「健康経営というと、メタボや健診結果に問題がある人への対応というイメージで、自分には関係ないと思っていたけど、健康経営をすごく身近に感じた」、「月経による不調は我慢するのが当たり前と思っていたけど、こんなに楽になるんだったらもっと早く受診して薬を飲めばよかった」といった感想をいただきました。担当者としては、とても嬉しいですね。
実際に参加者へのアンケート調査結果からは、参加した従業員のプレゼンティーイズムが一定程度改善したり、月経が原因で不調になり、生活に影響がでる度合いについても改善したりしていたので、プログラムの効果はあったと思います。
――実際に参加してみることが大切ですね。参加を呼びかける際に難しさを感じることはありますか。
あります。工場勤務の従業員は、パソコンが1人1台ない場合もあり、メールや社内イントラに掲示するだけでは情報を届けることができず、この点は本当に苦労しています。
情報が届きにくいところには、例えば、工場に申し込み用QRコード付きのポスターを貼って容易に申し込みができるようにするのですが、実際には、月経や更年期と書いてあるポスターの前に立って読むという行為自体ハードルが高い、恥ずかしいというお声が多くありました。
それを受けて、ポスターを貼る場所を女性トイレの中に変更するなど、色々と試行錯誤しています。
また、このような女性特有の悩みに対する理解を深めるため、男性従業員にも参加してほしいと思っています。
基本的には、どのプログラムも健康に対して関心が高い方の参加が多いのですが、情報にアクセスしづらい従業員に加えて、健康に対してあまり関心がない従業員にも参加してもらえるように、役職者層に働きかけたり、チラシを配布したり、著名人を招いてセミナーを開催したり、短時間で参加できるセミナーや測定イベントを開催するなど、いろいろと工夫しています。
――他社さんでもお話を伺うと、多くの方に情報を届けることや参加していただくことに大変苦労しているようです。
保健師の立場からお話しすると、工場勤務の女性従業員との関わりから、そもそも月経や更年期のプログラムのことを知らない方が多いなと実感します。ちょっと医療の助けを借りれば体調不良も緩和されて生活の質や仕事の生産性も上がるので、知らない従業員を少しでも減らすようもっと伝えていきたいと思いますね。
個別の面談ですと、デリケートな部分も含めてお話できますし、プログラム内容などについても丁寧にお伝えすることができますので、できる限り多くの従業員とお話できるように頑張りたいと思います。
――ご担当者の皆様の頑張りが本当に伝わってきます。御社のお取り組みはどれも素晴らしいものばかりなので、多くの方に参加していただきたいですね。では、今後の健康経営の展望をお聞かせいただけますか。
健康経営のステージが自社の従業員の健康だけではなく、ステークホルダーを含む「社会全体の健康づくり」への貢献という流れになっていますので、最近はニチレイ健康塾をご家族やお取引先様などにもご案内くださいと掲示し、ご参加いただいています。
昨年は、他社様から当社のウェブサイトを見て、ニチレイ健康塾に参加したいとのお問い合わせやニチレイ健康塾を自社で開催してほしいとのご依頼をいただき、トライアルで、ご依頼いただいた会社様の健康課題に応じたニチレイ健康塾を開催させていただきました。
2016年からニチレイ健康塾をやってきまして、我々にノウハウがたまってきましたので、他社様からのご要望にもお応えできるようになってきていると思いますし、今後は外部の方にも広げていきたいと思っています。
また、当社は食の会社ですので、今後は、食と健康に関連する商品やサービスも社内外に幅広く提供していけたらと考えております。
――本日は、貴重なお話をありがとうございました。では、最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
現在は、心と体の健康は勿論のこと、働きがいですとか、ウェルビーイングというところまで話が及んできていると思います。従業員のウェルビーイングを実現させるためには、我々が進めている健康施策だけだと足りないのではないかと最近感じています。心身ともに健康で社会的にも良好な状態でいるためには、ピンポイントでセミナーを実施するだけでは不足していると思うのです。
例えば、働きやすい職場環境を整えるためには、企業風土や組織改革といった視点も取り入れて、健康経営を推進していく必要があると思いますので、これまで以上に視座を上げて健康経営に意欲的に取り組んでいきたいと思っています。
皆様の健康づくりに役立つ存在でいられるようにこれからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株) エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。「マンガと図解でしっかりわかる はじめてのNISA&iDeCo(成美堂出版)」など多数の書籍を出版。