本から開く金融入門

【三宅香帆の本から開く金融入門】

「お金のことはとりあえず後で考えよう」と思いがちなあなたへ『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』

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「お金のことは難しいから後まわし」にしがちなあなたに読んでほしい

新NISAが始まり、投資についてあらためて考えている人も多いのではないだろうか。

ただでさえお金の管理や貯金というテーマは、普通に働いている人にとっては頭を悩ませることなのに、そのうえ投資だなんて、そこまで頭が回らないよ、と思う人もいるだろう。それゆえに投資について考えることを後まわしにしてしまっている場合もあるかもしれない。「投資なんて怖いから、素人が手を出すべきではない」と言われてきた人も、もしかしたらいるかもしれない。

しかし本書『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』(ニック・マジューリ:著、児島 修:訳/ダイヤモンド社)を読むと、その考えはがらりと変わるはずだ。私は本書を読んで、「投資について考えることを、後まわしにしている場合ではない」と背筋を伸ばすことになった。

……背筋を伸ばすという言い方をすると、なんだか語弊があるかもしれない。しかし私は実際、本書を読んで「自分にとっていちばんの資産は、時間だな」と、背筋が伸びるようになった。後まわしにしている場合ではない、と考えるようになったのだ。

なぜそのように思ったのか。それは本書が、「お金と時間は大いに関係があり、お金を無駄にしないためには早く投資を始めることがなにより重要である」ということについて論理的に説明してくれる本だからだ。

投資を早く始めた方がいい理由

著者は、Ritholtz Wealth Management社の最高執行責任者、兼、データサイエンティスト。つまりデータ分析を専門としている。

そんな経歴だからなのか、彼の金融に関する説明は、データに基づいていて、論理的で、わかりやすい。

そんな著者が提示する最新の統計データによれば、「ほとんどの市場は、ほとんどの期間、上昇している」のだという。

こんなふうに伝えると、「ええ? だってアメリカのリーマンショックの時も、日本のバブル崩壊の時も、株価は暴落したんでしょう? 常に上昇しているわけなくない? 株って上がっているときと下がっているときがあるはずでしょ」と苦笑されてしまうかもしれない。実際、それはその通りだ。しかしそれでも、本書の著者は言う。「結果的には株価は上がり続けるのだから、とにかく早く投資を始めるべきだ」と。

たとえば、考えてみてほしい。

著者は「1930~2020年のダウ平均株価の取引日をランダムに選んだ場合」を考えてみるといい、という。たとえば1930~2020年のどこかのタイミングであなたが株を買ったとして、その株の価格が下がらない可能性はどれくらいあるのだろう? すなわち「株を買って、一度も損をしない」という可能性は平均どれくらいなのだろう?

著者の示すデータによれば、それは5%以下らしい。

ここから何が言えるかといえば、「買った株がそれ以降一度も下がらず、お買い得の投資ができる日は、20取引日に1回(月に1回)あることになる。残り19取引日は、将来のどこかの時点で購入者を後悔させるものになる」のだという。

そのため、今買うよりも、もう少し価格が下がるのを待ってから買った方がいいのでは? と感じるのは、決して間違いではない。この感覚は95%正しいからだ。
しかし、それでも日々世界全体の株価は、上下を繰り返しながらも、長い目で見ると上がり続けている。つまり長期的に見ると、早めに買った方がお得になるのだ。

短期的に見れば「今買うのは早すぎる」と感じる、しかし長期的に見れば「できるだけ早めに買った方がいい」という結論が出ている。

このようなジレンマに対して、著者は「短期的に見て得をする買い方をするのは難しいので、できるだけ早めに株は買った方がいい」という主張を提示する。

 だが本当の問題は、購入日以降、株価が下がらない場合があり、かつそのような状況がめったに訪れないことだ。
たとえば、2009年3月9日のダウ平均株価は6547ドル。これが世界金融危機の底値だった。
その前にダウが最後に6547ドルで閉じたのはいつだろう?
1997年4月14日。実に12年前のことだ。
つまり、1997年4月15日にダウを買った場合、価格が下がるまでに12年も待つ必要があったことになる。さすがにここまで忍耐強く待つのは、どんな投資家にも無理な話だ。
時期を見計らって株を購入する「マーケットタイミング」と呼ばれる投資戦略が理論上魅力的でも、実際、難しいのはこのためである。
ゆえに、できるだけ早く投資をすることが最適なマーケットタイミングになる。
(『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』)

損しそうだから、今株を買うのは、怖い。と言っていると、いつまでも株を買うタイミングが訪れない。だからこそ、できるだけ早く始めた方がいい。著者はそう告げる。なぜなら時間をかけることで、株価は上がっていく傾向にあるからだ。

――とはいえ、本書はやみくもに株を買うことを勧める本でもない。株を買うにあたって「不安を感じるなら、売買しているものがあなたにとってリスクが高すぎる可能性がある」ということも注意している。不安を感じるほどの金額を株に使うべきではない。不安になるくらいなら、その前にやるべきは貯金である、ということも本書で語られている。

さまざまな種類の投資方法を教える本

さらに本書の特徴的なところは、このように投資そのものを始めることを勧めるだけでなく、「ではどんな投資がいいのか」という、さまざまな投資方法についても教えてくれるところだ。

たとえば、債券。不動産物件。不動産投資信託(REIT)。それらの特徴、長所と短所(リターンとリスク)についても言及する。

そして日本人にはあまりなじみのない、農地投資、中小企業投資、ロイヤリティ投資、はてはオリジナル商品販売を投資としておこなうことに至るまで、長所と短所を書いているのだ。なかなかここまで多様な投資方法をカバーしている本は、少ないだろう。「投資って、株式だけではないのか」ということを知るためにも、入門書に適した一冊だと思う。

また著者は個別株投資を勧めておらず、投資信託への投資を勧めている。なぜなら個別株でリターンを得ることは、かかる時間や労力の割に困難なことだからだ。

さらに家を買うことについても、慎重になるべきだと本書は語る。家は往々にして人生最大の買い物になりやすい。だからこそ、自分の経済状況と現在のライフスタイルに適したものが見つかったときのみ、買うべきである。著者はそう主張する。たしかに本書が綴るような「家を買うという大きな投資は、高価な選択であるがゆえに盲目になりやすい」ということを覚えておくだけで、家の購入にあたって少し冷静になることができるかもしれない。

お金は増やせても、時間は増やせない

もちろん本書を読んだからといって、著者の言うことにすべて従わなければいけないわけではない。

しかし本書の著者のような主張を知っておくだけでも、お金の管理に関して、勉強になることは多いはずだ。

投資のことを考えるのは、面倒だし大変だ。腰が重くなる作業かもしれない。しかし本書を読むと、「とにかく時間を味方にすることが、投資においてはいちばん重要なのだ」ということがよくわかる。

投資は、早く買って、ゆっくり売った方がいい、と本書は繰り返し伝える。そしてそれができないような経済状況ならば、貯金することに専念した方がいい、とも。

お金は増やせても、時間は増やせない。だからこそ、自分の時間をどう使うのか、考えた方がいい。そんなシンプルなメッセージを伝える本書は、きっとあなたの経済観念を変える一冊になってくれるのではないだろうか。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科卒。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』などがある。フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。
用語解説

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