商品の中身ではなく別のところにも課題がある

カリスマ投資家・テスタ氏があえて指摘する、ETFが普及しない理由は「東証自身にある」

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近年、世界中の投資家に活用されている金融商品のひとつがETF(上場投資信託)だ。その名の通り、株式と同様に“上場している”投資信託となる。

ETFは各国の証券市場で取引されており、東京証券取引所でも多くのETFが上場されている。では、この「東証上場ETF」に対して“投資のプロ”はどんな印象を持っているのだろうか。どういった使い方が良いと考えるのか。

そこで今回話を聞いたのは、総利益100億円超え(※含みベース税引き前)の個人投資家・テスタ氏。東証上場ETFに対する率直な意見を尋ねていったところ、いつしかテスタ氏が「東証の課題」を厳しく指摘する展開に……。

東証上場ETFを担当する東京証券取引所 株式部株式総務グループ兼ETF推進部・上場推進部の岡崎啓さんが対談相手となり、テスタ氏の考えに迫っていった。

個人投資家に普及しないのは「東証の情報が分かりにくいから」

岡崎 東証上場ETFは国内だけでなく、S&P500をはじめとした海外資産に連動するETFもリアルタイムで取引できるものです。マーケットメイカーとよばれる機関が参加することで、流動性や取引コストの低下を実現してきました。

ようやく良い商品になってきたところなのですが、個人投資家への普及がなかなか進まないという悩みがあります。つまり保有残高の多くが機関投資家なのです。テスタさんは1人の個人投資家として、東証上場ETFにどんな印象を持たれていますか。

テスタ いきなり根本的な問題点を指摘することになり申し訳ないのですが……、なぜ個人への普及が進まないかといえば「東証の発信する情報が難しすぎるから」ではないでしょうか。つまりETFの説明が複雑で分かりにくい。だから個人、特に初心者の方はたどり着けず、知識の豊富なプロの機関投資家ばかりがユーザーになる。

先ほどいただいた資料を見ても、内容が難しすぎて僕でさえ1ページ目で挫折します。これは今日に限った話ではなく、たとえば東証のYouTubeも人が集まっていませんよね。根本的に東証全体の情報発信やコミュニケーションが難解だからではないでしょうか。商品の中身ではなく“言い方”の問題だと思います。

岡崎 なるほど。

テスタ 特に最近投資を始めている方の多くは、新しいNISAという「分かりやすい入り口」から来ていますよね。そういった方に難しい情報を提示してもミスマッチになります。かたやETFの対抗である投資信託を見ると、各社がNISA特需で強力にPRしていますし、その内容も分かりやすさや楽しさに特化しているものが多い。堅く難しい説明ばかりしていると、そちらに取られてしまうと感じます。

岡崎 確かにその通りだと思います。分かりやすさや楽しさを大切にした発信は、ある意味で私たち東証が苦手としてきた分野であり、きちんと向き合えていなかったのは間違いありません。ご指摘をしっかりと受け止めたいと思います。

テスタさんが感じる「20年前と異なる投資家のスタンス」

テスタ これからの時代、投資商品は「分かりやすさ」が最大のポイントになるでしょうし、それを突き詰めるのが東証上場ETF発展の道だと思います。昔のように一部の詳しい人だけが投資をやっている状況ではないですし、投資家の思考やスタンスも、分かりやすいもの、簡単なものに移っていると肌で感じます。

岡崎 ちなみに、その変化を強く感じるのはどんな場面でしょうか?

テスタ 個別株投資に対する意識の変わり方は象徴的ですよね。僕が投資を始めた2005年頃は、個別株投資がスタンダードな投資手法でした。それが安全だと言われることも多かった。でも今はS&P500やオルカン(オール・カントリー:全世界株式)の投資信託がスタンダードであり、むしろ個別株はリスクが大きいと考える向きも強い。

投資に使うツールもパソコンからスマホに移り、細かな情報を見て売買する方は減っているのではないでしょうか。毎月定額の自動積立を好む方も多いですよね。簡単で分かりやすい方に行くのが今の流れだと思います。

岡崎 だからこそ、その流れに沿った情報を届けなければならないということですよね。東証上場ETF自体はいい商品になってきたという自負があるので、発信の仕方を再考したいと思います。

テスタ 商品自体は問題ないと思いますし、特に避ける要素もありません。僕は個別株のリスクヘッジとして日経平均の先物を使っていますが、自分に合うと考えているからそうしているだけで、先物がなければ日経平均連動のETFを活用している可能性もあると思います。

「日本への投資が増えてほしい」と話すテスタさんの真意

テスタ 投資を分かりやすくすることは間違いなく大切ですが、では「それってどういうものだろう」と考えたときに、ちょうど良い例だと思うETFの銘柄があります。「PBR1倍割れ解消推進ETF」(2023年9月上場)です。

とにかく銘柄のネーミングが明解で伝わりやすい。PBR1倍割れ状態の企業に投資するETFというのが一目でピンと来ますし、そういった企業が今後PBRの改善を実行すれば、株価上昇も期待できる。こういう商品が増えてくると個人の方も入りやすいのではないでしょうか。

岡崎 分かりやすさという点ではもうひとつ、たとえば海外のARKK(アーク)のような、スターファンドマネージャーが選んだ銘柄群に投資するETFも良いのではないでしょうか。「この人の選ぶ企業に投資したい」というのは、明解で入りやすいと思います。

これも少し細かな説明になってしまうのですが、2023年9月から東証に上場できるETFの自由度が上がりました。これまでは何かしらの指標に連動するETFしか上場できませんでしたが、指標に連動しない「アクティブETF」が解禁されたのです。お話に出たPBR1倍割れ解消推進ETFやスターファンドマネージャーが作るETFなど、柔軟な商品設計ができるように。今後はより分かりやすい商品の誕生を推進できればと思います。

テスタ 別の観点で東証に期待したいのは、日本への投資を増やすことです。今はとにかくS&P500とオルカンが投資初心者の“2大巨頭”になっています。ここにもうひとつ日経平均連動ETFが加わる流れが生まれるといいなと。それもやはりシンプルに「S&P500、オルカン、日経平均。まずはこの3つで投資を始めよう」と分かりやすい情報を訴求するのが理想だと思います。

少し話は逸れますが、新しいNISAで生まれる投資マネーは日本企業に向かってこそだと思います。「貯蓄から投資へ」の流れが加速し、その資金が国内で循環してこそ日本経済が盛り上がると思うので。しかし実際は、かなりの割合で海外に投資マネーが向かっていますよね。

非常に悩ましい状況だと思います。こうならないように、新しいNISAの投資対象を国内に限定した方が良かったのか、あるいは今のトレンドや初心者の入りやすさを考えると、S&P500やオルカンなど、海外にも幅広く投資できるこの形が正解だったのか、答えは簡単に出ません。個人的には「つみたて投資枠」と「成長投資枠」のように、国内と国外で投資金額の枠を設ける形もあったと思います。いずれにせよ、日本国内への投資がもっと進んでほしいと思います。

岡崎 おっしゃる通りです。私たち東証の大きなミッションは、日本市場を盛り上げて経済の活性化につなげること。そのために何ができるのか、今日のお話をきちんと噛み締めて考えていきたいと思います。

テスタ 勝手なことばかり言ってすみません(笑)。でも「分かりやすく入りやすい投資」は間違いなく今外せないポイントですし、その流れを東証が率先して作ることで多くの方が投資にチャレンジし、日本経済が盛り上がると信じています。ぜひこれからの展開に期待しています。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2024年3月現在の情報です

お話を伺った方
テスタ
専業投資家。2005年に300万円を証券口座に入金して株式投資をスタート。以来19年間リターンがマイナスになった年はない。初期はスキャルピングやデイトレードを中心に取引を行い、2016年からは中長期投資も行う。2024年2月に総利益100億円を達成。2014年からは全国の児童養護施設への寄附を継続的に行っている。X(Twitter)のフォロワー数は70万人超(2024年3月現在)
著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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