ECB(欧州中央銀行)とは?役割・組織概要・歴史について解説
ECB(欧州中央銀行)とは、通貨ユーロの導入国にとっての中央銀行を指します。主な役割は、金融政策の実施・銀行の監督・ユーロ紙幣の発行です。
本記事では、ECBの概要や歴史について解説します。日本銀行やFRBなども紹介するため、中央銀行全般について知りたい方も参考にしてください。
ECB(欧州中央銀行)とは
ECBとはEuropean Central Bankを略した言葉で、欧州中央銀行を意味します。ECBの主な特徴は、以下のとおりです。
・EUの主要機関のひとつ
・ユーロ導入国の中央銀行
それぞれ説明した後で、ECBがほかの中央銀行と異なる部分についても解説します。
EUの主要機関のひとつ
ECBは、EU(欧州連合)の主要機関のひとつです。本部は、EU加盟国であるドイツのフランクフルトにあります。
EUとは、経済的・政治的に協力関係を持つ国家の集まりのことです。2023年1月現在、以下の27か国がEUに加盟しています。
・ベルギー
・ブルガリア
・チェコ
・デンマーク
・ドイツ
・エストニア
・アイルランド
・ギリシャ
・スペイン
・フランス
・クロアチア
・イタリア
・キプロス
・ラトビア
・リトアニア
・ルクセンブルク
・ハンガリー
・マルタ
・オランダ
・オーストリア
・ポーランド
・ポルトガル
・ルーマニア
・スロベニア
・スロバキア
・フィンランド
・スウェーデン
EUには、ECB以外にも欧州理事会・EU理事会・欧州委員会・欧州対外活動庁・欧州議会など、さまざまな機関が存在します。
ユーロ導入国の中央銀行
ECBは、多くのEU加盟国で流通している共通通貨、「ユーロ」を導入している国々にとっての中央銀行です。そのため、ユーロ圏における統一的な金融政策は、基本的にECBが決定しています。
なお、すべてのEU加盟国がユーロを導入しているわけではありません。2023年1月現在、ユーロを導入しているEU加盟国は、ブルガリア・チェコ・デンマーク・ハンガリー・ポーランド・ルーマニア・スウェーデンを除く20か国です。
なお、モナコやバチカンのように、EUに加盟せずにユーロを公式通貨として採用している国もあります。
ECBならではの特徴
ECBはユーロ導入国の金融政策を実施する中央銀行ですが、一般的な中央銀行(通常1か国につきひとつある銀行)とは異なります。
ユーロに関する基本的な方針を決定する一方で、政策の実施自体は導入各国の中央銀行が担う点が、ECBならではの特徴です。例えば、ドイツではECBが決めたユーロに関する政策をドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)が実施する一方で、フランスでは同じくECBが決めた政策をフランス銀行が実施します。
ECBの組織概要
ここからは、ECBの組織概要について詳しく解説します。
ECBに関連する機関
ECBに関連する主な機関は、以下のとおりです。
・政策理事会(Govering Council)
・役員会(Executive Board)
・一般理事会(General Council)
政策理事会は、金融政策を決定する権限を持つ、ECBの最高意思決定機関です。役員会メンバーの6名とユーロを導入している国々の中央銀行総裁20名の計26名で構成されています。
役員会とは、政策理事会の決定に従い金融政策を実施し、ユーロを導入している国の中央銀行に対して指示を出す機関です。ECBの総裁1名、副総裁1名、専務理事4名の計6名で構成されています。
一般理事会は、ユーロ導入国とユーロを導入していない国の中央銀行が協力する場です。ECBの総裁1名・副総裁1名と、EUに加盟している国々の中央銀行総裁27名の計29名で構成されています。
ECBとESCBの関係
ESCBとは、European System of Central Banksを略した言葉で、欧州中央銀行制度のことです。ESCBは、ECBとEU全加盟国の中央銀行で構成されています。
ESCBの主な政策目的は、物価安定の維持です。また、金融政策の決定・実施や外国為替操作の実施、決済制度の円滑な運営の促進などの役割を担います。
ESCBには、ユーロを導入していない国々も含まれている点がポイントです。ただし、ユーロ圏の単一金融政策の決定に、導入していない国々は加わりません。
ECBの主な役割
ECBの主な役割は、以下のとおりです。
・金融政策の実施
・銀行の監督
・ユーロ紙幣の発行
以下で、それぞれについて説明します。
金融政策の実施
金融政策を実施することが、ECBの役割のひとつです。ユーロを導入している国々の銀行に貸し出す金利(政策金利)を引き下げたり、引き上げたりするなどの金融政策を実施しています。
政策金利を引き下げれば、企業や個人が銀行から資金調達しやすくなるため、経済が活発化して景気が上向きになることが一般的です。その反対に、政策金利を引き上げると企業や個人が資金調達をためらうため、経済が冷え込み、景気が下向きになりやすいでしょう。
なお、金融政策はECBの政策理事会が策定した指針を、役員会が各ユーロ導入国の中央銀行に指示することによって実施されます。
銀行の監督
銀行の監督も、ECBの役割のひとつです。ユーロを導入しているEU加盟国で、業務を担う銀行の経営が適正に実施されているかを監督します。
従来、EU圏の銀行の監督は各国が実施していました。しかし、一部の国々で自国の銀行に対する監督が甘くなった結果、ユーロ危機(2009年秋から、ヨーロッパで広がった金融危機のこと)につながりました。
そこで、将来同じような金融危機が発生することを未然に防ぐため、2013年に欧州議会でECBによる銀行監督一元化が承認されています。
ユーロ紙幣の発行
ユーロ紙幣の発行も、ECBの担う役割です。ECBは、EUにおけるユーロ紙幣発行を認可できる権限を独占的に有しています。
ユーロ紙幣として認められるのは、ECBとユーロ導入国の中央銀行が発行する紙幣のみです。また、ユーロ導入国の中央銀行は、ECBの承認を得ればユーロ硬貨を発行できます。
なお、ユーロは市場の取引量・外貨建て資産のシェアなどが大きく、ドルに次ぐ「第2の基軸通貨」と呼ばれることがあります。
ECBの歴史
1993年にEU(欧州連合)が発足してから5年後の1998年に、ECB(欧州中央銀行)が設立されました。
ECB設立の翌年(1999年)には、EU加盟国のうち11か国で単一通貨「ユーロ」が誕生します(現金を伴わない支払いのみ)。ただし、実際にユーロの現金流通が始まったのは、2002年からです。
2014年には、ECBが「マイナス金利政策」を実施しました。マイナス金利政策は、企業や個人への融資をうながし、景気悪化を改善しようとする金融緩和のひとつです。
なお、2022年にECBが0.5%の大幅利上げを決断したことで、マイナス金利政策は解除されました。
ECB以外で理解しておきたい中央銀行
経済ニュースに注目したり、投資したりする際は、ECB以外にも注目すべき中央銀行がいくつかあります。とくに理解しておきたい中央銀行は、以下のとおりです。
・日本銀行
・FRB
・BOE
それぞれの概要について、詳しく解説します。
日本銀行
日本銀行は、日本の中央銀行です。主に、以下の業務を担っています。
・「円」の銀行券(お札)の発行・流通・管理
・決済に関するサービスの提供
・金融政策の運営
・金融システムの安定に向けた取り組み
・国庫金・国債・対政府取引に関する業務
・国際業務
また、日本銀行は年に4回「日銀短観」を発表しています。日銀短観は、企業経営者の景況感を示しており、注目される機会の多い指標です。
日銀短観について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
日銀短観とは年に4回日銀が発表する調査結果!注目される理由も解説
FRB
FRBとは、The Federal Reserve Boardを略した言葉で、連邦準備制度理事会のことです。米国における中央銀行制度の意思決定を担っています。
FRBが開催する会合は、FOMC(連邦公開市場委員会)です。一般的に、FOMCの内容はマーケットに大きな影響を及ぼすため、世界各国から注目を集めています。
FRBやFOMCについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
BOE
BOEとは、Bank of Englandを略した言葉で、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行のことです。
BOEには、UK(英国)のイングランドやウェールズにおけるポンドの発行権があります。ただし、同じUK(英国)でも、BOEはスコットランドや北アイルランドの紙幣を発行していません。
BOEの歴史は古く、17世紀にはすでに設立されていました。現在でもマーケットに一定の影響を及ぼしており、BOEの金融政策が世界から注目されています。
ECBとはEUの主要機関のひとつの銀行のこと
ECB(欧州中央銀行)とは、EUの主要機関のひとつで、ユーロ導入国にとっての中央銀行です。主な役割として、金融政策の実施・銀行の監督・ユーロ紙幣の発行が挙げられます。
ユーロは米ドルに次ぐ「第二の基軸通貨」として知られており、ECBの決定がマーケットに与える影響も大きいです。今後ネットニュースや新聞などに目を通す際は、ECBの動向にも注目してみてはいかがでしょうか。
参考:外務省「欧州連合(EU)ユーロ圏の金融政策と欧州中央銀行制度」
参考:外務省「欧州連合(EU)概況」
参考:駐日欧州連合代表部「EUとは」
参考:EU MAG「欧州中央銀行の果たす役割は何ですか?」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。