割引現在価値とは?計算方法や割引率の意味についてもわかりやすく解説

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割引現在価値とは、将来得られる見込みの金銭を現在受け取るとしたら、どの程度の価値になるかを示した数値のことです。M&Aや不動産投資などの場面において、使われることがあります。

本記事では、割引現在価値とはどのようなものなのかを具体例を挙げて説明した上で、計算方法もわかりやすく解説します。

割引現在価値とは

割引現在価値(Present Value、PV)とは、将来の価値を現在に置き換えた指標です。現在の価値が、将来も同じとは限らないため、割引現在価値の概念が役に立ちます。

ここから、割引現在価値の意味や、割引現在価値を計算する場面について確認していきましょう。

割引現在価値の意味

割引現在価値は、将来得られる価値を現在受け取るとしたら、どの程度の価値になるかを示した指標です。理解しやすくするため、すべての金利が1%の世界を想定して考えてみます。

例えば、「今2万円受け取る」のと「1年後に2万300円受け取る」のでは、どちらの方がお得でしょうか。この問題を考える際に、割引現在価値の考え方が役に立ちます。

「1年後に2万300円受け取る」ことは、割引現在価値に直すと「今約2万99円受け取る」ということです。そのため、「今2万円受け取る」よりも価値があることがわかります。

割引現在価値を計算する場面

さまざまな場面で、割引現在価値が計算されています。主な場面は、以下のとおりです。

・M&A
・不動産投資
・株式投資

M&Aにおいて、買収対象の企業の価値を判断する際に、割引現在価値が使われることもあります。M&Aで割引現在価値が使われる代表的な例は、企業価値評価の手法のひとつである「インカムアプローチ」のDCF法です。

また、将来得られる家賃収入や売却益を割引現在価値に直し、不動産投資が妥当か判断することがあります。さらに、株式投資でも将来得られる可能性がある配当金などを割引現在価値にすることで、その株式が割高か割安かを判断できます。

割引現在価値に関連する用語

割引現在価値を理解するには、現在価値と将来価値などの関連用語も押さえておかなければなりません。それぞれ詳しく解説します。

現在価値とは

現在価値とは、将来受け取る予定のお金の価値を現在の価値に直した指標を指します。

現在価値は、割引現在価値と同じ意味で使われることが一般的です。本記事でも、同じ意味で使用しています。

将来価値とは

将来価値とは、現在の金銭や資産が将来どれくらいの価値になるかを示した指標です。「将来」のものを「現在」に変換する割引現在価値(現在価値)と表裏一体の指標ともいえます。

例えば、金利1%の世界で「今の2万円」の将来価値は2万200円(2万円 × 1.01)です。先ほどの例(「今2万円受け取る」と「1年後に2万300円受け取る」の比較)を用いると、将来価値で判断した場合も「1年後に2万300円受け取る」方が価値があるという結果になります。

割引現在価値の計算方法・計算式

割引現在価値の計算方法(計算式)は、以下のとおりです。

・割引現在価値 = n年後の価値 ÷(1 + 割引率)^ n年(期間)(※)

以下では計算式で使われている「割引率」の意味や、実際の数字をあてはめて計算した例を紹介します。

※「^」はべき乗を示すために使用している記号(例:2^3は2の3乗)

割引率とは

割引率とは、割引現在価値を算出する際に、1年あたりで割り引く割合をパーセンテージで示したものです。

割引率は、金利や資産のリスク(不確実性)などを考慮して決められます。リスクが高いほど割引率の値も大きく、リスクが低いほど値は小さくなることが一般的です。

つまり、リスクが高い商品ほど割引率が大きくなるため、割引現在価値は下がります。

割引現在価値の計算例

まず先ほどの例で紹介した、金利1%の世界で「1年後に2万300円受け取る」ケースの割引現在価値を計算してみましょう。(リスクは考慮せず、割引率は1%と仮定)。

1年後に2万300円受け取るため、n年後の価値(1年後の価値)は「2万300円」です。また、n年は1年のため、累乗の必要はありません。

値を計算式にあてはめると、割引現在価値は約2万99円になります(20,300 ÷ (1 + 0.01))。

続いて、「2年後に2万300円受け取る」ケースを計算してみましょう。n年(期間)が2年のため、「(1 + 割引率)^ n年」の部分で1.01の2乗を計算しなければなりません。

計算すると、「2年後に2万300円受け取る」の割引現在価値は、1万9,900円です(20,300 ÷ 1.0201)。「2万300円受け取る」点は同じでも、受け取るまでの期間が長いほど割引現在価値は下がることがわかります。さらに、今回のように2年後に受け取る場合は、2万円よりも価値が下がってしまいました。

割引現在価値を算出するメリット

割引現在価値を算出する主なメリットは、以下のとおりです。

・企業の将来価値を評価できる
・企業ごとのリスクを反映できる

ここでは、各メリットを解説します。

企業の将来価値を評価できる

割引現在価値の概念を用いることで、将来を考慮して企業の価値を評価できる点がメリットです。M&Aなどの場面では、企業評価に割引率を用いたDCF法が使われることがあります。

複雑なため計算式の説明は省略しますが、DCF法とは将来の予想キャッシュフローを割引現在価値に直して、企業の価値を評価する手法です。DCF法を用いれば、将来の収益性を反映した上で価値を評価できます。

企業ごとのリスクを反映できる

企業ごとのリスクを反映できる点も、割引現在価値を算出するメリットです。

割引現在価値の計算には、リスクなどを考慮して値を決める「割引率」が使われています。割引率が高ければその分割引現在価値も下がるため、リスクが高い企業ほどM&Aにおける評価額も下がるでしょう。

なお、M&Aでは、企業価値だけでなく各事業の価値評価で割引現在価値の概念が使われることもあります。

割引現在価値を用いるデメリット

計算する際に使う割引率の評価が難しい点は、割引現在価値を用いるデメリットとして挙げられます。

例えば、過去の資料から企業の抱えるさまざまなリスクを認識できたとしても、どの要素を割引率に反映させるか決めることが困難です。また、割引率に反映させるリスクを決めても、いくらで設定するか決めることが難しいという問題もあります。

さらに、評価する人によって、割引現在価値の数値は左右されます。例えば、他の人にとっては僅少と考えるようなリスクでも、評価する人が主観で大きなリスクと判断して割引率を高く設定すれば、割引現在価値は大幅に低下するでしょう。

割引現在価値とNPVの違い

一般的に、投資の採算性を判断する際は、NPV(正味現在価値)が用いられます。主に投資の意思決定に使われる点が、割引現在価値との違いです。

ここでは、NPVの概要やNPVを活用する場面について解説します。

NPVとは

NPV(正味現在価値)とは、投資を実行することで将来どれだけの利益を得られるか示した指標です。Net Present Valueの頭文字をとっています。

NPVの計算式は、以下のとおりです。

・NPV = n年後に見込まれるフリーキャッシュフロー ÷(1 + 割引率)^ n年(期間) − 投資額

フリーキャッシュフローとは、企業が自由に使える現金のことです。一般的に、フリーキャッシュフローは営業利益に基づいて計算されます。また、NPVの割引率は、リスクをとらない投資の利回りや、リスクをとる場合に期待される収益(リスクプレミアム)を考慮して決められることが一般的です。

なお、対象案件から将来得られる収益の割引現在価値から投資額を引いた額が、NPVにあたるとも考えられます。

NPVを活用する場面

主に投資判断において、NPVを活用します。NPVが0を上回っていれば(プラス)積極的に投資すべきで、0を下回っていれば(マイナス)投資を控えるべきと判断されることが一般的です。

以下のふたつの案件を考えてみましょう。

・A案件:投資額500万円、将来得られる収益の割引現在価値が800万円
・B案件:投資額2,000万円、将来得られる収益の割引現在価値が1,500万円

例えば、A案件のNPVはプラスのため(800万円 − 500万円)、投資に前向きになれるでしょう。一方、B案件はA案件よりも割引現在価値は高いですが、NPVはマイナスのため(1,500万円 − 2,000万円)、投資を控えた方がよいと判断することが一般的です。

割引現在価値とは将来の価値を現在に置き換えたもの

割引現在価値とは、将来得られる価値を現在受け取るとしたら、どの程度の価値になるかを示した指標です。M&Aや不動産投資の場面などで使われることがあります。

割引現在価値を算出すれば、企業ごとのリスクを反映した上で企業価値を評価できる点がメリットです。ただし、割引率の設定などで評価する人の主観に左右されるなどのデメリットがあります。

投資判断の場面では、将来得られる収益の割引現在価値から投資額を引いたNPVが用いられることが一般的です。NPVが0を上回っているか(下回っているか)によって、投資に積極的になるべきか判断できます。

今後は、割引現在価値やNPVなどを考慮して投資の判断をしてみてはいかがでしょうか。

ライター:Editor HB
監修者:鈴木 靖子(ファイナンシャルプランナー、AFP認定者)
監修者の経歴:
銀行の財務企画や金融機関向けサービスに10年以上従事。企業のお金に関する業務に携わる中、その経験を人々の生活に活かすためにFP資格を取得。現在は金融商品を売らない独立系FPとして執筆や相談業務を中心に活動中。フリーランスがお金の知識を持つことの大切さを実感しており、フリーランス向けマネーブログを運営している。

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