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波乱含みの中国株式市場の現状

株価支援策が奏功、下げ止まりから反発機運

提供元:東洋証券

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1月に急落も2月は大きく切り返し

日経平均株価の史上最高値更新や初の4万円台乗せなど、日本の株式市場では明るい話題が豊富な一方、お隣の中国株市場は2024年年初から苦戦が続いている。ただ、政府当局による株価支援策が奏功し、2月以降は持ち直しの動きが見られるなど、過度な悲観論が後退しているようにも見える。今、中国と香港の株式市場で何が起きているのかをまとめてみる。

1月の中国・香港市場は悲観的なムードに覆われていた。中国景気の先行き不透明感、不動産市場の低迷、力強さに欠ける消費市場……。深セン成分指数は1月に13.8%下落し、世界主要指数の中で最悪のパフォーマンス。香港のハンセン指数は9.2%下落でワースト2位。上海総合指数は6.3%安だった。海外投資家は1月まで6カ月連続で中国A株を売り越していた(ストックコネクト経由)。

その中で、にわかに注目されたのが海外ETF(上場投資信託)だった。中国市場にはTOPIXや日経平均株価を連動対象とする5本の日本株ETFが上場しており、中国人投資家は間接的に対日投資ができる。1月中旬には「華夏野村日経225」ETFに買いが殺到し、売買が一時停止に追い込まれた。買い注文が殺到して取引価格が基準価額(1口当たりの純資産価格)を大幅に上回り、投資家が重大な損失を受ける可能性があったからだ。「マネー流出」と言える動きに、中国当局は苦々しい気持ちを覚えただろう。

中国当局は株式市場の大幅な下落を受け、様々な措置やアナウンスを打ってきた。資本市場の安定に向けて、国務院常務会議(1/22開催)は「より強力で有効な措置」を強調し、中国証券監督管理委員会(CSRC)は「全力で維持」するとした(1/23)。1月28日にはCSRCが空売りを一部制限し、売却制限付き株式の貸株を禁止した。ただ、「口先介入」程度のものが多く、投資家の反応がイマイチだったのも事実だ。

局面が変わったのは2月4日だ。CSRC が「市場の異常な変動を阻止する」と表明。翌5日には公安当局との合同捜査実施を踏まえ、「違法な相場操縦や悪質な空売りを行った者は破産させ、投獄する」と警告した。6日には中央匯金投資(政府系ファンド=国家隊)がETFの買い増し方針を発表し、CSRCも信用取引の規制強化を決定。この日、上海総合指数は3.23%高、深セン成分指数は6.22%高、ハンセン指数は4.04%高といずれも大幅反発した。

7日にはCSRCのトップ交代が発表された。主席になる呉清氏は2000年代後半、CSRCのリスク管理部門の主任として証券会社の監督面でらつ腕を振るい、規定違反の31社を処分した。この実績が改めて報道され、市場では「相場をかく乱する一部機関投資家の動きを抑えてくれるのでは」という期待が高まったようだ。

実際、春節(旧正月)休暇明けの20日には、上海・深セン取引所が短時間の大量売却を行った大手クオンツファンドの取引を制限。21日にはCSRCが機関投資家に取引開始直後と終了直前の株式売り越し禁止を通達したと伝えられた(CSRCは「売却制限ではない」としている)。「上からの政策」は資本市場の健全な動きを妨げるという見方もあろうが、安定が最重要視される中国では歓迎される側面もある。少なくとも株価下落の“止血効果”はあった。

証券当局のトップ交代についての余談を一つ。マーケットでは「トップ交代は個人投資家の保護強化に繋がる」との見方が広まり、ネット上の評判も概ね良好だった。中国語で「新官上任三把火」という言葉があるが、これは「新任者は改革に熱心だ」のような意味。CSRCは2月4日から矢継ぎ早に様々な市場支援策を出してきたが、今から振り返るとこの新人事を見据えてのものだったのかもしれない。株価も上がったので、新トップに花を持たせる的な“演出”とも勘ぐられそうだ。

閑話休題。2月の騰落率は、上海総合指数が8.1%上昇、深セン成分指数が13.6%上昇、ハンセン指数が6.6%上昇となった。前述のように、深セン成分指数は1月に13.8%急落したものの、2月は逆に13.6%急騰し、今年最初の2カ月はほぼトントンで乗り越えた。ジェットコースターのような相場展開だが、値動きの激しい中国株市場ならではとも言える。

外資の買い戻し、売買代金が1兆元超え

2月の切り返しを演出したのは当局の各種政策だが、その結果、商いが活性化していることもデータから見て取れる。

まずは海外投資資金によるストックコネクト経由でのA株投資。いわば「外資の中国株買い」だが、中国景気回復の遅れ、不動産債務問題への懸念、人民元の対米ドル安などを背景に、23年8月以降は大きく売り越し。24年1月まで6カ月連続で資金流出となっていた。この流れが2月に変わり、一気に607億元の買い越しに転じた(1月は127億元の売り越し)。春節の関係で取引日が少なかったのにもかかわらず、海外投資資金は中国A株を買い戻してきた。もっとも、本格的な資金回帰かどうかは、今後の中国の景気や政策動向を見ないと何とも言えない。

もう一つは中国株式市場の売買代金(上海+深セン)。2月7日に久々に1兆元(約21兆円)を上回った。1兆元超は23年11月8日以来のこと。日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新した2月22日、東証プライムの売買代金は5兆5622億円だったが、その約3.8倍に当たる規模だ。

中国では売買代金が1兆元を超えると大商いと見なされる。15年の大相場の時は2兆元の大台に乗せることもあった一方、19年の株価軟調時は5000億元に満たない日も見られた。それと比べると、現在は一定の流動性は保たれている。これだけで投資家が市場に戻って来た、とは言い切れないものの、少なくとももう一度マーケットに目を向け、安いところを拾っていこうというムードが一部働いているのかもしれない。売買代金は3月中旬にかけても1兆元を超える日が多くなっている。

1月と2月の波乱相場を乗り切った中国株市場。春節と元宵節が過ぎて正月ムードを抜け、3月から本格的に2024年が始まっている。3月上旬開催の全国人民代表大会(全人代)では大きなサプライズはなかったものの、株式市場は落ち着いた反応だった。巻き返しは続くかどうか。当局の政策動向、外資の動き、市場の流動性などに引き続き注目して見ていきたい。

(提供元:東洋証券)

著者/ライター
奥山 要一郎
上智大学外国語学部卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。2015年より上海駐在事務所所長。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。
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