福永博之先生に聞く信用取引入門
【信用取引入門】第6回:損失を大きくしないための注意点
【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第5回:信用取引の決済方法について
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信用取引について基本的なことを計5回にわたって解説してきましたが、今回は信用取引を行うにあたって最も重要なポイントについて解説したいと思います。
それは、「損失を大きくしないこと」です。信用取引に限らず、投資はプラスになったり、マイナスになったりすることがありますが、マイナスになったときに「損失を大きくしない」ことができれば、長く取引を続けることができます。また小さな損失であれば、チャンスがあれば取り戻すことも可能です。
一方で損失が大きくなってしまうと、信用取引を続けられなくなるばかりか、取り戻すことも難しくなってしまいます。
特に信用取引は、レバレッジを効かせて行う取引であるため、差し入れた保証金を効率よく活用することで資金不足によって売買タイミングを逃さずに取引ができるメリットがある反面、最大で保証金の約3倍まで資金を借りていることから、損失が膨らんでしまうと差し入れた保証金だけでは足りなくなり、追加で資金を差し入れなければなりません。
では、こうした状態に陥らないようにするためには何が必要になるのでしょうか?
大きく分けて2つあると考えられます。1つは「信用取引の制度やルールをしっかり理解する」ことです。
これまで解説してきたように、信用取引には現物取引にはない制度やルールがあります。これらを理解せずに取引を行うと、思わぬ損失を被ったり、損失が大きくなったりしがちです。
一方で制度やルールをしっかり理解して取引を行うことができれば、上昇相場だけでなく下落相場でも利益を上げることが可能になることに加え、売買タイミングを逃さずに取引を行うことができるようになり、収益機会を広げることにも役立つと考えられます。
そして2つ目は「早めにロスカットを行う」ことです。
ロスカットとは「損失を確定させること」を言いますが、これは簡単そうに見えてなかなかできないのが現実です。なぜなら、信用買いをした銘柄の株価が下がって含み損を抱えていても、買値まで戻ってくると考えてしまう一方で、一度含み損が発生してしまった株価は、返済期限までに買値まで戻らないことが多く、逆に損失が拡大してしまうことがあるからです。
こうした損失の拡大は、「早めにロスカットを行うこと」で防ぐことができる場合が大半ですが、前述のように戻ってくるだろうといった希望的観測で返済期限ぎりぎりまで「ほったらかし」にしてしまうことから、損失が拡大してしまうことが多いのです。
そのため、まず「損失を抱えたまま長期間放置しない」ことを考えましょう。次に、「ロスカットのマイルールを作る」ことも重要です。
例えば、「自分の保証金からどのくらい損失を出しても大丈夫か」を、あらかじめ計算しておいて、その損失になったらロスカットを行います。
また、あらかじめ計算した損失の許容額の範囲内に1回あたりの損失を押さえることも重要と考えられますが、損失全体の許容額と1回あたりの損失の額が同じであれば、1回の損失で取引ができなくなる可能性が出てくるため、あまり有効なロスカットは言えません。そこで、例えば、「損失全体の許容額の3分の1でロスカットを行う」といったマイルールを決めた場合、損失全体の許容額からすると、3回までロスカットが可能になります。
このように、損失全体の許容額に対して1回あたりの損失が小さくなればなるほどロスカットが複数回行えるようになるとともに、信用取引の売買で損失が発生しても何度も取引が行えることになり、損失の発生で保証金を差し入れること自体も少なくなると考えられるのです。
更にこのようなマイルールも考えられます。例えば、自分の過去の取引において1回あたりの利益が平均して2%前後だったとします。そこで、ロスカットの水準をこの2%以内に決めます。
このようなマイルールを作った場合、利益の範囲内でロスカットを行うため、利益が出た取引回数と損失が発生した取引回数が同じだった場合、差し引きで利益が残ることになります。もちろん、損失が発生した取引回数が、利益が出た取引回数を上回ってしまうようですと、このルールでも損失になってしまいますので、そもそも利益の出る取引を増やさなければならないのは皆さんお分かりの通りです。
ここで紹介したのはほんの1例ですが、マイルールには決まったものはありません。自分の資金と損失額の許容範囲をあらかじめ計算しておくことで損失をコントロールすることができるのであれば、どのようなルールでも構わないと思います。
いかがだったでしょうか?
信用取引を使いこなせる投資家になることは、どのような相場でも負けない投資家になるための必要条件だと思いますが、今回取り上げた「損失を拡大させないための2つのポイント」をしっかりと頭に入れ、実際の取引で、利益をあげることができる投資家になって欲しいと思います。
【第7回】はこちら
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長
勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。