発売前から重版が決定していた大人気ドリルに迫る!
キャラクター雑誌編集者が生み出した「ちいかわの物語を楽しみながらお金を学べる本」
学習指導要領の改訂により、小学校から高校の授業で金融を取り扱う時間が増えた。それに伴い、家庭での金融教育を意識し始めたパパやママは多いのではないだろうか。そんなときに役に立つのが、書店で購入できる学習ドリル。
小学校に進むにあたってお金に触れる機会を持てるよう、幼児向けドリルを活用するのもいいだろう。主婦と生活社から出ている『ちいかわ おかねのドリル 入学準備~小学1年』は、大人気漫画『ちいかわ』のキャラクターと一緒にお金について学ぶことができる。イラストやデザインがかわいらしいだけでなく、買い物の仕組みや貯金の方法に関する知識が身に付く内容になっている。
このドリルの企画・制作に携わったのが、主婦と生活社のキャラクター雑誌『ねーねー』の編集者・荒井美穂さん。どのような経緯で『ちいかわ』を起用することになったのか、伺った。
ストーリーに触れながらお金について学べるドリル
「『ちいかわ おかねのドリル』は2023年6月に発行したのですが、当時『ちいかわ』の人気に火がついて、『ねーねー』編集部でも部員が毎日のように『ちいかわがすごい』って話していたんです。『ちいかわ』の世界には労働や報酬といった、ほかのキャラクターでは聞いたことがないワードが出てきますし、漫画やアニメでは、キャラクターの愛くるしい見た目とは裏腹に現実的でハードな暮らしを送っている様子が描かれているので、部内で『ちいかわが子どもにお金について教える本があったら面白そう』という企画が出てきたんです」(荒井さん・以下同)
作品の内容と「お金」が結び付きやすかったのだ。ちなみに、「お金」というテーマは、世の中の流れを受けて掲げたそう。
「新型コロナウイルス感染症の影響もあり、ここ数年でキャッシュレス決済が加速度的に普及しましたよね。その結果、現金のやり取りが少なくなり、親が現金を使うところを見る機会が減った子どもも増えているのではないかと感じたのです。また、子どもがいる友人や同僚に話を聞くと、子どもにおこづかいを渡さずに必要なときに必要なものを買ってあげる家庭が多いように感じて、親子間でもお金のやり取りがなくなっていることに危機感を覚えました。子どもがお金を目にして、実際に使う体験ができる場をつくってあげたいと思ったんです」
荒井さんが目指したのは、子どもからの人気も高い『ちいかわ』のキャラクターや物語に触れながら、買い物の仕組みなどを体感的に学ぶことができるドリル。
「お金の学びに関しては、ファイナンシャルプランナーの山口京子さんに監修に入っていただくことでスムーズに進められたのですが、苦労したのは学習のステップと『ちいかわ』のお話をいかにリンクさせるかという構成の部分でした。『ちいかわ』の漫画には労働や報酬、買い物の描写が出てくるので、そのお話とドリルの問題をうまく関連付けたかったのですが、該当するエピソードやイラストを探すのが大変で(苦笑)」
漫画を読み込んだことで、ストーリーと問題が見事にリンクしたドリルとなっている。屋台で買い物をする問題では、自由気ままに買い物をしてしまうちいかわと堅実なハチワレの性格も考慮しつつ、構成されている。
「部員にも制作中のページを見せて、『ちいかわは計算ができないから、買いすぎますよ』といったアドバイスをもらいながら、問題を整えていきました。『ちいかわ』の世界に入り込んで制作を進めたことで、監修者の山口さんが登場して解説する形ではなく、ちいかわたちが教えてくれるドリルにできたと感じています」
体感的にお金や買い物の仕組みを学べる工夫
なかでも荒井さんのお気に入りは「おかねカード」。よく見ると、ある特徴に気付くという。
「2024年7月3日から、新しいデザインのお札が発行されますよね。このおかねカードは、そのデザインをもとにつくっているんです。お札が新しくなってからも違和感なく使えるように、あえて現行のデザインではなく新札のものを採用しました。より一層『ちいかわ』の世界に入って楽しめるよう、作中に出てくる『くまさんポシェット風さいふ』も付けました。キャラクター雑誌の経験から付録のノウハウはありますし、かわいいさいふが付いていると子どもたちのモチベーションも上がりますよね」
「おかねカード」はしっかりとした厚紙でつくり、何度でも繰り返し使えるようにしたところもポイント。
「子どもを持つママやパパから、『うちの子は計算はできるけど、お金に置き換えられない』という話をよく聞いたんです。子どもにとっては、計算とお金の勘定はイコールではないとわかったので、おかねカードに触れたり数えたりする経験を通して、数字の計算とお金をつなげられないかと考えました」
ドリルのなかには、「おかねカード」を用いて買い物を体験する問題がたっぷりと掲載されている。物を買うにはお金が必要なことやおつりの仕組みなどを、実感できるだろう。
「巻頭に『おかねをつかうのはこんなとき!』というページを設け、どうしてお金が必要なのか、どうしたらお金は手に入るのかといったことを、『ちいかわ』を通して伝えています。子どもたちが知っている『ちいかわ』の世界の話で説明することで、親近感を持って取り組んでもらえるのではないかと考えました。ドリル全体を通してお金の数え方や使い方、貯め方まで伝えられる構成にできたのは、『ちいかわ』のおかげです」
『ちいかわ』の世界観を前面に押し出したことで、発売前から予想以上の反響があったとのこと。
「ドリルはターゲットが限定的なので、一般的には発売してからコツコツ版を重ねていくものなのですが、『ちいかわ おかねのドリル』は告知した時点から予想以上の注文が入り、発売前に重版がかかるという異例の事態となりました。それだけ反響があったことがうれしかったですし、実際にドリルを使ってくれた子の親御さんから『子どもがお金のことを理解して、おつかいに行くって張り切ってます』という声もいただいています」
読者はタイトルにもあるように「入学準備~小学1年」に設定しているが、大人のファンの手にも届いているという。
「大人の方がおかねカードをちいかわのぬいぐるみに持たせて写真を撮ったり、高校生の男の子が誕生日プレゼントにもらったとSNSに投稿していたりと、幅広い年齢層の方が楽しんでくれているようです。私の予想とは違うところで面白い使い方、楽しみ方をしてくれていることが驚きですし、大人の方にも改めてお金の使い方を見直す機会にしてもらいたいですね」
親子で一緒に楽しんでほしいドリル
荒井さんは「このドリルをただ子どもに渡すのではなく、ママやパパも一緒に読んでみてほしい」と話す。
「監修者の山口さんがよく『子どものうちからお金と仲良くなることで、大人になってからの人生が豊かで充実したものになる。そのためには、家庭でお金の話をする機会を持つことが大事』とおっしゃっていました。日本人はお金の話をしたがらないと言われますが、『ちいかわ』を入り口にすることで、親子でお金について話しやすくなると思います。『ちいかわ』は大人のファンも多いので、ぜひ親子で楽しんでほしいですね」
実際に『ちいかわ おかねのドリル』を読んでみると、大人でもハッとさせられるような気付きや学びであふれていることがわかる。
「現代の子どもたちは触れる情報の量が多く、大人のようなことを考えている子が多いように感じるので、ドリルをはじめとした幼児向け書籍をつくる際には、子ども扱いしないことを意識しています。やや大人びた内容でも大切な事柄であれば、子どもはわからないだろうと省くのではなく、子どもにも伝わりやすい言葉に変えて掲載することを心掛けています。その内容は、大人の方々の気付きにもなるかもしれません。キャラクターの力を借りながら、人生において大切なことをたくさんの人に伝えていきたいと思っています」
一見かわいらしいキャラクター本のようだが、その中身はしっかりとお金について学べる内容になっている。荒井さんが話してくれたように、キャラクターの力を借りて、子どもにお金に興味を持ってもらうきっかけにしてみてはいかがだろうか。
(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/山本倫子)