ヒットメーカー2人はなぜ経済をテーマにした作品を手がけた?

“カモる”悪人を経済理論で懲らしめる、漫画「カモのネギには毒がある」の作者に聞く

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巧妙な手口に騙され、搾取される弱者たち、いわば「カモられている」人々を救うため、世界的な天才経済学者が持ち前の経済理論でペテン師たちを倒していく――。そんなストーリーを味わえる漫画が『カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義』(集英社グランドジャンプで連載中)です。

新型マルチ商法やシニア向けビジネス、地方創生など、さまざまな分野でカモろうとする悪者を、経済学者の加茂洋平が懲らしめるストーリー。この作品は、『LIAR GAME』の作者である甲斐谷忍さんと、『クロサギ』『正直不動産』の原案を担当した夏原武さんが組んで作ったもの。ヒットメーカー二人は、なぜ経済を題材に漫画を作ったのか。そして、私たちがカモられない秘訣とは。直接聞いてみました。

(C)甲斐谷忍プロダクツ・夏原武/集英社

経済学を社会に活かすストーリーを作りたい

――ヒット作の多いお二人ですが、なぜタッグを組むことになったのでしょうか。

甲斐谷 新作を考える中で、『クロサギ』のような読み味のある作品を作りたい、と思ったのがきっかけです。とはいえ、ああいう読み味は原案を担当した夏原さんの力がないと難しいだろうな、と……。そんな話を編集者としていたら、夏原さんに連絡を取ってくれて。お会いすることになりました。

夏原 私は私で、甲斐谷さんのファンだったんです。特にすごいと思うのは、『LIAR GAME』にあるような緻密な心理描写、そして論理的なストーリー構成ですよね。「ぜひお会いしたい」と思いましたし、当日は私が持っていた甲斐谷さんの作品にサインしていただいたくらいです(笑)。そこからお話をする中で、一緒に作品を作ることになりました。

――そうして生まれたキャラクターが、本作の主人公・加茂洋平です。経済学者であり大学教授で、独自の「カモリズム理論」が世界的に評価されている人物。「フィールドワーク」と称して、弱者から“カモろう”とする悪者を懲らしめていきますよね。使われるのは、経済学や行動経済学、心理学の理論です。

夏原 甲斐谷さんとお話しする中で、経済学の大学教授という設定は良いなと思ったんです。経済学という言葉は誰もが知っていますが、個人的な感覚として、日本では社会に活用されているシーンが少ないという思いがありました。しかし海外では、経済学を社会で実践し、何かしらの結果を出している事例が多々見つかります。そこで、経済学を社会に活かすストーリーにしたいと。

もう一つ、加茂教授は経済理論を活用して自身も会社経営を成功させ、桁違いの資金を持っている設定です。その資金を使うことで、悪者を退治するためにいろいろな手を打てるのですが、そんな加茂教授の「お金の使い方」からも、何かを感じられる作品になればと思いましたね。

作品で指摘「日本とアルゼンチンが似ている」の意味

――作中では、さまざまな分野で搾取している・されている人たちが登場し、加茂教授が経済理論を使いながら正していきます。お二人が印象に残っているエピソードはありますか。

甲斐谷 私は「新型マルチ商法」を取り上げたエピソードですね。ある大学生が騙され、マルチ集団に依存していく中、加茂教授がそのマルチ集団に相対し、解体をもくろむ内容です。

この漫画のストーリーを作るときは、まず夏原さんからネタになりそうな世の中の事象をお話しいただき、それをベースに構成していきます。毎回勉強になるのですが、このエピソードについては、なぜ若者がマルチ商法に依存してしまうのか、最初は理解できませんでした。

しかし、そこからが夏原さんの凄さで、依存するまでのプロセスや心理状況を事細かに、臨場感たっぷりに説明してくれます。まさに「夏原劇場」です(笑)。これによって問題を深く理解できたからこそ、作中でも依存していく過程や、一度入った人を囲い込み、抜け出させない構造を描けたと思います。

夏原 私は漫画原作に携わる前から、ルポライターを約30年続けてきました。当事者の方に取材しているからこそ、生の声や心理を伝えられるのです。

――夏原さんにとって、印象深い作中のエピソードはありますか。

夏原 私は「地方創生事業」を取り上げた回ですね。近年、どの地域でも地方創生のプロジェクトが行われますが、それを食い物にしている人たちを描いたストーリーです。

――作中では、ある地域の地方創生事業を舞台に、その裏で一部の人間が利益を搾取する実態にメスを入れていきます。

夏原 このエピソードは「今の日本が衰退国家になっている」という課題意識から始まります。その衰退を止める策として地方創生があるのですが、ここに搾取や不条理がはびこっているという話なんですよね。

――興味深かったのは、この章に出てきた「今の日本はかつてのアルゼンチンに似ている」という分析です。アルゼンチンの経済は、急速な発展を遂げながら、一気に衰退した歴史があります。「世界で唯一、先進国から途上国に転落した国」という言葉も作中で出てきますよね。

夏原 甲斐谷さんとお話しする中で、アルゼンチンの特殊性が話題にのぼり、日本に近いのではないかという話が出てきたのです。地方創生を実のあるものにするためにも、この章には強い思い入れがあります。

私たちが「カモられない」ために必要なこととは

――そもそもなぜ、こういったコンセプトの漫画を作ろうと考えたのですか。

夏原 卑劣な手口で騙そうとする人が増えていること、そして、それに引っかかる人も多いこと、ここに大きな問題意識を持っていたからです。ルポライターとして取材する中で、その思いは年々強くなっていました。

また、経済学はさまざまな事象を論理的・科学的に解明しようとしますが、実際の経済はそう論理的に動かないと感じています。例えば人の行動や判断は、すべて論理的に行われるものではありません。ですから、もう少し人の心や実態と合わせた経済のストーリーを作りたいと考えました。だからこそ、この作品では経済学と心理学が融合した行動経済学や、心理学そのものの理論も数多く登場します。

――ぜひお二人に聞きたいのですが、私たちが“カモられない”ために必要なことは何だと思いますか。

甲斐谷 「自分は騙される可能性がある」と自覚することではないでしょうか。『LIAR GAME』を描いたときに心理学を勉強しましたが、そこで学んだのは「自分は大丈夫だ」と思うのがもっとも危険で、そういう人ほど騙されてしまうということです。

特に今はSNSでマウント合戦が繰り広げられ、その場で自分の優位性を感じる機会も多いでしょう。でもSNSはあくまでSNSです。「自分は知識があるんだ」「自分は大丈夫だ」と思わないことが重要ではないでしょうか。

夏原 私も同じです。詐欺の被害者を取材すると、多くが「自分が騙されるとは思わなかった」と口にします。まずは自分に知識がないと謙虚になることが大切でしょう。

――世の中の物事やニュースを見る際に気をつけることや心構えはありますか。

夏原 さまざまなニュースの「その後」を検証することです。日本は一時的なニュースこそ伝えられますが、事件や事象がその後どうなったのか、どんな成り行きを見せたのか、検証報道があまりに少ないと感じます。だからこそ、事後の成り行きを自分で確かめることが必要です。

――東証マネ部!は「投資」をテーマにしたメディアです。投資においてカモられない秘訣はありますか。

夏原 誰かに任せるのではなく、自分で投資を勉強し、自分で判断できるようにすることではないでしょうか。「誰でもできる」「すぐ始めよう」「プロにお任せ」といった謳い文句を信じないことです。時間をかけて自分で勉強して、自分で責任を持って行う。それがすべてだと思います。

――最後にお二人からメッセージをお願いします。

甲斐谷 この作品は、経済の仕組みが詰まった「一番やさしくて面白い入門書」だと思います。内容は難しくないですし、単純に楽しめる作品ですので、ぜひ気軽に楽しんでいただけたらうれしいですね。

夏原 面白さは私たちが保証するので、まずは読んでほしいと思います。地方創生を取り上げた最新刊(7巻)も発売中ですので、ぜひ手に取ってみてください。

(取材・文/有井太郎 撮影/川口紘)

※記事の内容は2024年4月現在の情報です

お話を伺った方
甲斐谷 忍
漫画家
1967年生まれ。『LIAR GAME』や『ONE OUTS』(すべて集英社)など、数々の人気作品を生み出す。現在、「グランドジャンプ」(集英社)にて『カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義』を連載中。
お話を伺った方
夏原 武
ルポライター、漫画原作者
1959年生まれ。ルポライターとして活動するとともに、漫画原作者としてもヒット作品を手がける。代表作は『クロサギ』『逃亡弁護士 成田誠』『正直不動産』(すべて小学館)など。
著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。

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