新しい金融のカタチ

グループ8万人の活用で知見をためてから外部へ

NECが資産形成サービスに参入、まずは社内に展開する「クライアントゼロ」戦略

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電機メーカー大手のNEC(日本電気株式会社)が、資産形成サービスに参入した。同社は資産コンサルティング事業を行うJapan Asset Management(以下、JAM)と資本提携し、プロのアドバイザーが資産形成の相談やアドバイスを行うIFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)事業を開始している。具体的なサービス内容や、この分野に進出した経緯について、コーポレート事業開発部門 主任の原田翼氏と、同部 アソシエイトUXデザイナーの久保田七海氏に聞いた。

これがNEC流、従業員が使う中でサービスをブラッシュアップ

「私たちは“クライアントゼロ”の考えのもと、まずはNECの従業員に資産形成サービスを福利厚生の一つとして展開し、知見をためた上で外部企業へ提供する形を見据えています」

こう話すのは、本事業の立ち上げ初期から携わってきた原田氏だ。クライアントゼロとは、自社を“ゼロ番目”のクライアントと位置付け、最先端のテクノロジーを実践するNECの考え方。今回の資産形成サービスも、まずはNEC単体の従業員約2万人に2024年初めから展開している。その後、同年度内にはグループ約8万人に広げるという。

「8万人の従業員が対象となれば、相当な知見がたまります。その中でサービスをブラッシュアップし、精度を高めた上で外部に提供していく想定です」(原田氏)

NECがスタートした資産形成サービスとは、どのようなものなのか。「一言でいえば、あらゆる従業員の資産形成に関する相談を受けるサービスです」と、久保田氏は説明する。

「NECの従業員に対して、資産運用のプロがさまざまな相談やアドバイスを行います。実際の相談にあたるのはJAMのアドバイザーであり、特定の金融機関に所属しておらず、中立的な立場での助言が可能です」

アドバイザーとの面談は対面やオンラインで実施される他、チャットでの相談も可能とのこと。相談内容をもとに、具体的な金融商品の提案も行われる。個別株や投資信託、債券に加え、ラップ商品や保険など、提案する商品は多岐にわたるという。JAMのアドバイザーは、NEC従業員が加入している企業年金や保険などを細かく把握した上で、総合的にアドバイスする。

本サービスのコンセプトの一つは、これまで主に富裕層中心に行われていたIFAのサービスを、より広くたくさんの人に提供することだという。そして、このコンセプトを実現する上で「NECの技術が有効になります」と原田氏は口にする。

「一人一人の資産状況を把握し、適切なアドバイスを送るには、多くの時間と労力が必要です。こうしたことも、IFAが富裕層中心のサービスになっていた背景にあるでしょう。そこにNECの保有するデジタル技術を組み合わせることで、IFA業務の効率化やDXを進め、たくさんの方がサービスを受けられるようにしたいと考えています」

一例として、顧客との相談の一部を生成AIがチャットボットで行うといったことが考えられる。あるいは、アドバイザーが普段行っている顧客との面談記録や説明用の資料作成を生成AIが補うなど。NECでは生成AI「cotomi」を開発しており、こうした技術によってIFAのサービスをより多くの人が受けられる状況を目指す。

これらを進めるため、JAMのアドバイザーからは普段の業務を細かくヒアリングしており、特に現場で手間がかかっている作業や、デジタルを活用できそうなポイントにNECの技術を投入していくという。

「とはいえ、大切な資産を扱うからこそ、過度なデジタル化は相談者の不安を生みます。あくまで私たちが目指すのは、人とデジタルのハイブリッドです」(原田氏)

「会社の福利厚生だからこそ、安心して相談できる」との声も

そもそもなぜ、NECが資産形成サービスに参入したのだろうか。原田氏はこう説明する。

「当社は中期経営計画で、金融資産管理や保険、証券、融資・リース領域といった『デジタル・ファイナンス事業』の強化を掲げています。金融業へのDXコンサルティング力を高め、NECとしての競合優位性を獲得するためには、チャレンジとして自ら金融事業を行うことも重要と考えております。その一つとして、今回IFAサービスを立ち上げました」

金融領域で新規事業を行うといっても、さまざまなビジネスが考えられる。その中でIFAにたどり着いたのは、「事業を模索する上でNEC従業員にヒアリングしていくと、資産形成のアドバイスに対するニーズが高かったためです」(久保田氏)とのこと。新しいNISAも登場し、この領域の社会的関心が増していることも大きかった。

2024年3月末の時点で、すでに800名弱が申し込んでおり、「満足度は8割を超えています」(久保田氏)とのこと。

「これまで相談できる場所がなかったのでありがたいという声や、資産形成について考えなければならないけれど、忙しくて手が回らなかったので社内でできるのは助かるといった感想も聞かれました。会社の福利厚生で行っている分、無理に売りつけられる不安がないという人もいましたね」(久保田氏)

サービスの利用を活性化させるには、従業員の金融リテラシーを高めることも重要になる。そこでJAMのアドバイザーによる社内セミナーのほか、金融教育コンテンツやメールマガジンの作成なども進めているという。

こうしてNEC内での活用例を増やし、知見をためた上で社外に提供するフェーズを見据える。他社の福利厚生として採用してもらう形などを想定しているとのこと。その他、先述したIFA業務の効率化に関する技術やノウハウを外販することも視野に入れる。

クライアントゼロで進めるNECの資産形成サービス。新たな領域への参入は、今後どんな展開を見せるのか。続報を待ちたい。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2024年6月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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