金融機関職員も個人投資家も身に付けておきたい知識がいっぱい
投資・資産形成をしている人は要注目! 新資格「資産形成コンサルタント」
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2024年3月25日、資産形成に必要な知識に重点を置いた新しい資格「資産形成コンサルタント」が誕生した。資産形成の方法だけでなく、運用を行う際のベースとなる理論などの知識を有していることを認定するもの。金融機関の職員に向けて設けられた資格だが、資産形成を行っている投資家にとっても学ぶべき内容になっているようだ。
「資産形成コンサルタント」を創設した日本証券アナリスト協会の資産形成コンサルタント企画部長・中井健二さんに、資格ができた背景や取得することで得られる知識について、お話を伺った。
投資家が知りたい「実践的な知識」が詰まった資格
●「資産形成コンサルタント」概要
・試験方式:コンピューター試験(CBT/90分、40問)
・資格要件:試験の合格(受験資格、資格継続要件なし)
・受験料:9900円(税込)(日本証券アナリスト協会の個人会員、法人会員の役職員等は10%割引)
「『資産形成コンサルタント』は金融機関の営業担当者向けに創設した資格で、ゴールベース資産管理やポートフォリオ理論の重要性を認識し、顧客のゴールを踏まえた適切なポートフォリオを提案するための知識が詰まっています。知識レベルとしては、2級FP技能検定+αのイメージです」(中井さん・以下同)
ゴールベース資産管理とは、資産形成の目標を明確にしたうえで資産運用を行うこと。ポートフォリオ理論とは、投資家にとって好ましい証券や商品の組み合わせを選択するための理論。この2つの考え方が「資産形成コンサルタント」のベースとなっているのだ。
具体的には、以下の図に示されている4つの知識で構成されているとのこと。
「図の下部に書かれている『2.資産運用の基礎』『3.ポートフォリオ理論』『4.証券投資の知識』は、投資や資産形成の基礎知識といえる部分です。この資格の特徴的な部分は『1.顧客本位の営業の心構えと枠組み』。金融機関職員向けに創設した資格なので、ゴールベース資産管理やアセット・アロケーション(資産配分)などの考え方に加え、顧客とどのように向き合うかを考える『顧客本位の業務運営に関する原則』など、職業倫理的な内容も入っています」
金融機関職員が学ぶ内容は、窓口で顧客に伝える内容とイコールといえる。そのため、金融機関に勤めていない人でも、自身の資産形成のために「資産形成コンサルタント」の勉強をすることがプラスに働くという。
「ゴールベース資産管理の考え方やポートフォリオ理論は、資産形成を行うすべての人にとって重要なもので、実際に金融機関に勤めていない方からも問い合わせをいただいています。『資産形成コンサルタント』のテキストで資産形成に必要な理論を学ぶことで、さまざまな資産の組み合わせでリスクを抑えられることやポートフォリオの構成が偏ることのリスク、マーケットが荒れてもあわてないことの大切さなどを理解できると考えています」
「資産形成コンサルタント」のテキストでは、資産形成を進めるうえで押さえておきたいポイントがコラムで書かれている。
「第2章 新しい資産管理のあり方」のコラムでは「長期・分散・積立投資」について解説されている。人生100年自体の資産形成を考えるときに、なぜこうした投資手法が有用なのかを知ることができるようだ。
「第9章では『PBR1倍割れの問題点』、第12章では『投資信託の情報収集』について解説しています。いずれも金融機関職員であれば説明できるようになっておきたいテーマであり、投資家としても気になる内容だと思います。知っておくことで資産形成に関するさまざまな情報をよりよく理解できるようになりますし、自分でも情報収集を行いやすくなるでしょう。全体を通して実践的な内容になっているので、資産形成を考えている方や実践している方にもおすすめの資格です」
時代の変化に沿って進められた企画・検討
「資産形成コンサルタント」の開発は、2年ほど前にスタートしたそう。そのきっかけは、世の中の資産形成に対する関心の高まりだったという。
「資産形成の重要性が広まっていくなか、日本証券アナリスト協会としても役に立てることがあるのではないかと考え始めたのが2年ほど前でした。当時、金融機関が顧客へのポートフォリオ提案やコンサルティング営業に力を入れ始めたタイミングだったこともあり、そのサポートとなる資格を検討し始めたのです。結果的に、『NISA』の拡充・恒久化や国民の金融リテラシー教育の充実を進める金融経済教育推進機構の発足と同じ2024年に試験をスタートすることになりました」
もともと日本証券アナリスト協会が提供している資格の入門編として「証券アナリスト基礎講座」があったが、その内容は20年前につくられたものだった。
「『証券アナリスト基礎講座』を衣替えし、時代の要請に応える資格として『資産形成コンサルタント』をつくりました。前述した『2.資産運用の基礎』『3.ポートフォリオ理論』『4.証券投資の知識』はもともとあった内容を再編・拡充したもので、資産形成のために大切な知識です。そこに『1.顧客本位の営業の心構えと枠組み』を加えました。全体を通じて金融機関の現場で活用できる実践的な内容になるよう、金融機関で個人営業を統括している方々のご意見も伺いながら、内容を固めていきました」
新たに加えた「1.顧客本位の営業の心構えと枠組み」は、人によって正解が異なる分野であるため、学習内容の構成には工夫を凝らしたようだ。
「資産形成の考え方は、ライフステージや所得・資産の大きさ、働き方などによって変わってくるものです。お金はないけど人生の時間はある若い世代と、お金はあるけど人生の時間が短くなったリタイア世代では、適切な運用方法が変わってきます。これまでまとまったテキストがなかった分野なだけに、どのような形で盛り込むべきかについては議論を重ねました。最終的には、広く応用がきく標準的な内容にまとめることができたと思います。また、資産を入れておく場所はNISAがいいのか、はたまたiDeCoや特定口座がいいのかといったアセット・ロケーション(資産の置き場所)の考え方も重要なので、学習内容に入れています」
金融機関職員だけでなく「大学生」も注目
金融関連の資格といえば、国家資格の「FP技能士」があるが、「資産形成コンサルタント」とはどのような点が異なるのだろうか。
「『FP技能士』は資産形成だけでなくライフプランニングや税金、保険、不動産、相続のことなど、さまざまな分野を学ぶため、幅広い知識を得ることができます。一方、『資産形成コンサルタント』は金融資産を使った資産形成について、より深く学ぶことに重点を置いた資格です。このため、2級FP技能士を取得した後に、資産形成に関するお客様からのご相談への対応能力をよりレベルアップさせたいという方に向いているといえるでしょう。もっとも金融機関のなかには、そうした知識を必要とする職員に早い段階で『資産形成コンサルタント』の取得を目指してもらい、その後で『FP技能士』取得を目指すというステップで考えているところも出てきています」
3月に試験が開始されたばかりの「資産形成コンサルタント」だが、早くも金融機関が職員の取得を推奨しているとのことだ。
「私たちが想像していたよりも反響があり、驚いています。金融機関の皆様からは『新しいNISAが始まったいま、タイムリーな資格ですね』と言っていただき、社員教育の一環として活用いただいています。さらに意外だったのが、大学生から注目されていることです。現在の大学生は資産形成への関心が高いようで、現時点で5つの大学で講座を開催しています。講座を受けている学生のなかには金融機関を目指している方だけでなく、将来のために資産形成を学びたいと考えている方もいるようです」
学生の間でも話題を呼んでいる「資産形成コンサルタント」のユニークなところは、試験・テキスト・問題集がそれぞれ別々に販売されていること。
「より多くの方に資産形成について学んでもらいやすくするため、試験やテキストを分ける形にしました。資産形成について勉強したいけど資格は必要ないという方であれば、テキストだけを買って勉強していただけますし、既に資産形成の知識が十分にある方は試験だけを受けていただけます。テキストと問題集は全国の書店や通販サイトでも販売しているので、資産形成を学びたい方にぜひ活用していただけたらと思います」
すべての生活者に関係する資産形成について、網羅的に学べる「資産形成コンサルタント」。金融関連の仕事に就いていないとしても、将来のために学んでおくとよさそうだ。
(取材・文/有竹亮介(verb))