判断基準は「帳簿を付ける手間」と「特別控除のメリット」

確定申告するとき「青色」と「白色」どう選べばいい?

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個人事業主や経営者だけでなく、副業をしている人や一部の給与所得者なども必要になる場合がある「確定申告」。

そのなかで、事業で得た収入(事業所得)を申告する方法は、「青色申告」と「白色申告」という2種類がある。「青色申告」は細かく帳簿を付けなければいけないため手間はかかるが、特別控除を受けられたり30万円未満の物品の購入費用を一括で経費にできたりと、節税メリットが多い。一方、「白色申告」は特別控除を受けられないが、簡易的な帳簿で問題ないため手間がかからない。

異なる特徴を持つ「青色申告」と「白色申告」だが、申告する際にはどちらを選ぶといいだろうか。トランス税理士法人の代表税理士・中山慎吾さんに教えてもらった。

「青色申告」に必要な“正規の簿記の原則に則った帳簿”とは

「まずポイントとなるのは、帳簿の付け方です。『白色申告』は、Excelなどに年間の収支をまとめるくらいの簡易的な帳簿で問題ありません。『青色申告』を行う場合は、帳簿ソフトなどを使って正規の簿記の原則に則った帳簿を付けなければいけません。この手間をかけてでも特別控除などをフル活用したいのか、はたまた手間は書けずに簡単に済ませたいかによって、申告の方法が変わってくるでしょう」(中山さん・以下同)

ここで重要になるのが、中山さんの話にでてきた「正規の簿記の原則」だ。この原則は、複式簿記と呼ばれるそう。

「複式簿記とは、1つの取引を2つの視点から見て帳簿を付けていく方法のことです。例えば、『売上が入金された』『旅費交通費を払った』という記録は、1つの取引を1つの視点で見たもの(単式簿記)です。これを複式簿記にするには、『売上が入金されたことで、預金が増えた』『旅費交通費を払ったことで、預金が減った』のようにしなければいけません」

いわゆる家計簿は、単式簿記に該当する。複式簿記は単なる収支だけではなく、その収支によって資産がどう変化したかといった点も記録していく必要があるのだ。複式簿記を行うと、貸借対照表や損益計算書といった書類を作ることもできる。

「『青色申告』には、貸借対照表や損益計算書の提出が必須となります。特に貸借対照表は重要です。経理や税制に精通した人が貸借対照表を見ると、数字に間違いがないか、誤魔化していないかといったことがわかります。申告時に貸借対照表を提出してもらうことで、税務署は帳簿に不自然な点がないか見極めやすくなるのです。調査の材料となる貸借対照表を提出した人に対するお返しとして、特別控除を与えているといえます」

●「青色申告」と「白色申告」の違い

「青色申告」に必要な帳簿の保存期間は7年

「青色申告」においては、提出する書類だけでなく保存する帳簿も重要になる。そのなかで「主要簿」と呼ばれる総勘定元帳と仕訳帳は、法律で作成が義務付けられている。

総勘定元帳は、すべての取引を勘定科目の種類別に分類して整理した帳簿。仕訳帳は、すべての取引を借方・貸方に分けて整理した帳簿のこと。

「これらの帳簿は、7年間保存することが法律で定められています。税務の時効は5年なので、6年前に脱税していても時効となるのですが、時効になる前に税務調査が入って悪質な不正が見つかった場合、調査期間が7年に延びるのです。最大で7年さかのぼって調査される可能性があるため、7年間保存しておかなければいけません」

「事業が赤字」「フリーランス」の場合の選び方

「青色申告」で求められる正規の簿記の原則に則った帳簿の作成や保存は、経理の知識がないと難しく、手間に感じてしまいそうだ。特別控除は受けられないが、「白色申告」のほうがいいと思う人も多いだろう。

「『白色申告』であればExcelなどで簡易的にまとめれば問題ないのですが、『青色申告』は帳簿ソフトなどを用いて細かく帳簿を付けていく必要があるので、手間が多いのは確かです。確定申告は年に1回のことなので、なかなか帳簿の作成に慣れないという人も多いでしょう。ある程度経理の知識があり、自分で帳簿を付けられるなら『青色申告』、難しいと感じるようであれば『白色申告』という判断になるかもしれません」

つい手間ばかりが目に入ってしまうが、「青色申告」と「白色申告」の判断基準は帳簿の付け方だけではないとのこと。

「事業での収入に黒字が見込めるのであれば、『青色申告』がいいといえます。なぜなら、65万円の特別控除を受けられるからです。貸借対照表を提出することで税務署のチェックは厳しくなりますが、節税につながるメリットも大きいといえます。一方、赤字の場合は控除する収入がなく、特別控除の恩恵を受けられないので、『白色申告』でもいいでしょう」

ちなみに、会社から独立してフリーランスや経営者として事業を展開していく場合は、事業所得がメインの収入となり、金額も大きくなることが予想されるため、「青色申告」がマッチしやすくなるようだ。

「年間数百万円の収入が期待できるのであれば、税理士に帳簿の作成や管理をお願いして『青色申告』を行うほうが効率的といえます。税理士費用は発生しますが、帳簿を付ける手間を省いて事業に専念できますし、特別控除などの影響で税理士費用を上回る節税効果が期待できるからです。独立を考えている方は、自身と相性がよく、節税方法などもアドバイスしてくれる税理士を見つけられるといいでしょう」

2種類の申告方法。帳簿を付ける手間だけでなく、事業による収入の額や税理士費用との兼ね合いなども踏まえて、どちらが自分にマッチしているか考えていくと、最適な方法が見つかりそうだ。
(取材・文/有竹亮介(verb))

お話を伺った方
中山 慎吾
トランス税理士法人代表税理士。大学卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社、日本橋支店にて資産運用コンサルティング課に従事。その後、2020年にトランス税理士法人を設立。現在は、個人向けの税務を中心に顧客の資産形成をサポートしている。
著者サイト:https://zeikinherasu.jp/
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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