重要なのは副業で得た「所得の種類」

会社員が副業したときの確定申告は「青色」「白色」どっちがいい?

TAGS.

近年、従業員の副業を許可している会社が増えているため、副業に乗り出して収入を増やしている人もいるだろう。

会社員は、会社が年末調整を行うことで所得税が精算されるため、原則として確定申告を行う必要はない。しかし、副業の場合は、クライアントから給与を受け取る形であっても、確定申告を行わなければいけない。

確定申告には、複式簿記での帳簿が必要だが特別控除などのメリットが多い「青色申告」、簡易的な帳簿で問題ないが特別控除を受けられない「白色申告」の2種類があるが、副業の申告はどちらで行うといいだろうか。トランス税理士法人の代表税理士・中山慎吾さんに教えてもらった。

副業で得た収入は「事業所得」? 「雑所得」?

「ポイントは、副業で得た収入がどのような経路で手元に入ってきたかという点です。日本の法律では、お金が入ってきた経路によって10個の所得に分類されます。そのなかで、副業による収入が該当するものは『不動産所得』『給与所得』『事業所得』『雑所得』の4つと考えられます」(中山さん・以下同)

・不動産所得:不動産の貸付によって得た収入
・給与所得:会社に雇われて給与として得た収入
・事業所得:営んでいる事業を通じて得た収入
・雑所得:ほかの9種類の所得に当てはまらない収入

保有している不動産を貸して得た賃料などは「不動産所得」に該当する。「不動産所得」は要件が明確で、アパートなら10室以上、貸家なら5棟以上持っていれば「青色申告」が可能。要件に当てはまらない場合は、「白色申告」または特別控除が10万円に減額された「青色申告」になる。

副業の収入を給与として受け取っている場合は「給与所得」になるが、「給与所得」の申告は「青色申告」の対象外で、「白色申告」のみと決まっている。

「線引きが明確な『不動産所得』『給与所得』に対して、難しいのが『事業所得』と『雑所得』。この2つの所得に関しては、法律で具体的な要件などが定められているわけではありません。つまり、事業で得た収入が『事業所得』にあたるか『雑所得』にあたるか、判断しにくいのです。ただ、『事業所得』であれば『青色申告』と『白色申告』のどちらかを選択できますが、『雑所得』は『白色申告』しか選べません」

●「事業所得」と「雑所得」の違い

確定申告書の「雑所得」の欄には、「公的年金等」「業務」「その他」の3つが用意されている。「業務」とは、事業とは呼べない規模感の収入を意味し、一般的に副業での収入はここに含まれるようだ。

「『事業所得』と『雑所得』は法的に金額などで差が付けられているわけではありませんが、国税庁が『収入が年間300万円を超える場合は、事業所得に該当する』といった旨の通達を出したため、年間300万円がボーダーラインになると考えられています。『業務』という欄を設けたことからも、『小規模の副業であれば雑所得としなさい』という国税庁からのメッセージといえます。仮に年収500万円の会社員が副業で年間40万円稼いだとしたら、副業分は『雑所得』と判断できるでしょう」

ただし、副業での収入が少ないからといって「雑所得」にしてしまうと、損になるケースがあるという。

「『雑所得』は損益通算ができません。税制における損益通算とは、赤字が出た場合に、ほかの所得で出た黒字と掛け合わせて相殺することです。例えば、不動産所得が50万円の赤字だったとして、200万円の黒字の事業所得と相殺すると、全体の所得が150万円になります。しかし、損益通算ができない『雑所得』で赤字が出たとしても、全体の所得を減らすことができないのです。副業で赤字になる可能性がある場合は、『事業所得』にしたほうがいいかもしれません」

副業で得た収入が「事業所得」と認められる要件

副業で得た収入を「事業所得」にすることで、「青色申告」で特別控除を受けられたり、損益通算ができたりといったメリットがありそうだが、年間300万円のボーダーラインを超えない場合はどうすればいいだろうか。

「国税庁の通達では、『事業所得』と認める範囲を『その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているか』としています。そして、社会通念による判定とは、『自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得』としています。この内容に当てはまれば、『事業所得』とできるといえるのです」

ひとつひとつの言葉を見ていくと、「事業所得」と認められる要件がわかる。「自己の計算と危険において独立して営まれ」は、個人事業主や経営者として事業を行っていることを指している。たとえ給与として受け取った収入ではないとしても、人からの指示を100%受けた結果として得た収入だと、「事業所得」と認められづらくなるだろう。

「もうひとつのポイントは『反復継続して遂行する意思と社会的地位』です。単発の仕事や、1年ごとに事業内容が変わるような働き方だと、事業と認められにくいでしょう。また、店舗を構えていたり従業員を雇っていたりすると、事業と認められやすくなります」

副業を始めたばかりだと、「営利性」や「有償性」「反復継続して遂行する意思」を示しにくいだろう。それでも「事業所得」として申告したい場合は、前もって青色申告承認申請書と開業届を提出する方法があるという。

「青色申告承認申請書と開業届を管轄の税務署に提出することで、事業として継続していく意思があることを示せます。『事業所得』と『雑所得』の線引きが法律で定められているわけではないということは、税務署が『これは事業所得ではない』と否定する法律もないということです。事業として行っているという納税者の意思を覆すことは、悪質な脱税などがない限り難しいものなので、絶対に副業での収入を『事業所得』にしたいという場合は、青色申告承認申請書や開業届の提出が有効だといえます」

副業をする人は押さえておきたい確定申告の仕組み

そもそも、副業で得ている収入が給与なのか給与ではないのか、判断できないという人もいるだろう。これは年末に受け取る文書で判断できるとのこと。

「クライアントから年末に届く文書が源泉徴収票であれば、給与です。源泉徴収票は、給与の支払いを行う事業者が発行するものだからです。この場合は『給与所得』として申告しましょう。一方、支払調書が届いたら給与ではない報酬となるので、『事業所得』または『雑所得』として申告することになります」

副業を始めたばかりで、副業での所得が年間20万円以下にとどまった場合は、確定申告が不要になるというルールもある。

「正確には、副業の所得が20万円を超えると確定申告が義務付けられます。つまり、20万円以下なら申告不要となるわけです。ただし、これは所得税の申告に限った話で、住民税の申告は必要になるので、忘れずに行いましょう。また、住宅ローン控除や医療費控除を受けるために確定申告を行う場合は、すべての所得を申告する必要が出てくるため、副業の所得が20万円以下だったとしても申告しなければいけません。収入が少なくても油断しないようにしましょう」

働き方や収入によって、申告方法が変わってきそうな副業。既に始めている人もこれから始める人も、改めて自分の働き方を整理し、来年の申告に向けて準備していけるといいだろう。
(取材・文/有竹亮介(verb))

お話を伺った方
中山 慎吾
トランス税理士法人代表税理士。大学卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社、日本橋支店にて資産運用コンサルティング課に従事。その後、2020年にトランス税理士法人を設立。現在は、個人向けの税務を中心に顧客の資産形成をサポートしている。
著者サイト:https://zeikinherasu.jp/
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード