「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の受給要件をチェック!
残された家族の生活を支える「遺族年金」について学ぼう
年金というと、定年後に受け取るものというイメージが強いだろう。実は、65歳から受け取る年金の正式名称は「老齢年金」。年金には「老齢年金」以外にも種類があるのだ。
そのひとつが、年金の被保険者が亡くなった場合にその家族に支給される「遺族年金」。年金は、自分自身だけでなく家族のサポートにもなる仕組みなのだ。ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子さんに、「遺族年金」の制度内容や支給の対象となる要件について、教えてもらった。
「遺族年金」受給の収入要件は「年収850万円未満」
「『遺族年金』は、国民年金または厚生年金の被保険者が亡くなった際に、一定の要件を満たす配偶者や子どもをはじめとする家族に支給される年金です。国民年金被保険者であれば『遺族基礎年金』、厚生年金被保険者であれば『遺族厚生年金』が支給されます」(川部さん・以下同)
「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」それぞれに以下の要件のいずれかを満たしている人が亡くなった際に、家族が要件に満たしていれば支給される。
●遺族基礎年金の受給要件
(1)国民年金の被保険者である間に死亡したとき
(2)国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき
(3)老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき
(4)老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
●遺族厚生年金の受給要件
(1)厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
(2)厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
(3)1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
(4)老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
(5)老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
「『遺族基礎年金』『遺族厚生年金』ともに、支給を受けられる家族は『死亡した方に生計を維持されていた』ことが条件となります。とはいっても、『生計を維持されていた』に当てはまる要件は厳しいものではなく、亡くなった方と生計をともにし、受け取る方の前年の収入が850万円未満(または所得が655万5000円未満)であることです。年収850万円未満という要件には、多くの人が当てはまるでしょう」
「子どもの有無」が需給のカギとなる「遺族基礎年金」
収入以外にも、「遺族年金」の支給には要件があるようだ。
「『遺族基礎年金』は、亡くなった被保険者の子ども(※)がいる配偶者または子ども(※)が支給の対象になります。子どもがいる配偶者が『遺族基礎年金』を受け取る場合、子どもには『遺族基礎年金』は支給されません」
※子どもとは、「18歳になった年度の3月31日までにある方」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方」を指す。
実際に支給される「遺族基礎年金」は、次のように明確に金額が決まっている(2024年4月分以降の金額)。
●子どもがいる配偶者が受け取る場合(年額)
昭和31年4月2日以降生まれの人:81万6000円+子の加算額
昭和31年4月1日以前生まれの人:81万3700円+子の加算額
●子どもが受け取る場合(年額)
次の金額を子どもの数で割った額が、1人あたりの額
81万6000円+2人目以降の子の加算額
●子の加算額(年額)
1人目及び2人目の子の加算額:各23万4800円
3人目以降の子の加算額:各7万8300円
子どもがいなくても受け取れる可能性がある「遺族厚生年金」
「遺族厚生年金」は厚生年金に紐づいているため、被保険者の収入によって支給される金額が変わる。原則として「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と設定されている。
「『遺族基礎年金』の支給対象は子どもがいる配偶者か子どもに限られましたが、『遺族厚生年金』の支給対象はもう少し広くなります。次の家族のうち、もっとも優先順位の高い方が受け取ることができます」
●「遺族厚生年金」の受給対象者(数字は優先順位)
(1)子ども(※)がいる配偶者
(2)子ども(※)
(3)子どもがいない配偶者
(4)父母
(5)孫(※)
(6)祖父母
※子ども・孫は、「18歳になった年度の3月31日までにある方」または「20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方」を指す。
「『遺族厚生年金』は、子どもがいない配偶者も受け取ることができますが、男女で要件が異なります。若い女性や現役世代の男性は、働いたり再婚したりすることで生活水準を保てる、という考え方に基づいているのだと考えられます」
●夫が亡くなった場合(妻は収入(所得)要件を満たしている)
30歳未満の子どもがいない妻:夫が亡くなった時点から5年間のみ「遺族厚生年金」を受け取れる
30歳以上の子どもがいない妻:特別な要件はなく、「遺族厚生年金」を受け取れる
●妻が亡くなった場合(夫は収入(所得)要件を満たしている)
55歳未満の子どもがいない夫:「遺族厚生年金」は受け取れない
55歳以上の子どもがいない夫:「遺族厚生年金」を受け取ることはできるが、受給開始は60歳から
「さらに、子どもがいない40歳以上65歳未満の妻、または子どもが18歳到達年度の末日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)妻は『中高齢寡婦加算』という制度の対象となり、年金額が増える可能性があります」
●中高齢寡婦加算
「遺族厚生年金」を受け取る妻が40歳から65歳になるまでの間、年額61万2000円が加算される制度。
「それぞれの要件を踏まえると、夫が会社員または公務員で厚生年金に加入していて、子どもがいる40歳以上65歳未満の妻は、『遺族基礎年金』『遺族厚生年金』の両方が支給されるので、『遺族年金』の金額がかなり大きくなるといえます。65歳からは自身の老齢年金を受け取れます。逆に、夫が個人事業主で子どもがいない妻は、『遺族基礎年金』も『遺族厚生年金』も受け取れないということになります。要件を確認し、配偶者が亡くなった場合に『遺族年金』を受け取れるのか、シミュレーションしておくことは大切です」
「遺族年金」については、もうひとつ注意点があるとのこと。
「子どもがいてもいなくても、再婚してしまうと『遺族年金』の支給はストップします。そのため、再婚を躊躇してしまう方もいます。考え方は人それぞれですが、それほどに『遺族年金』は大きなサポートになるといえます」
「遺族共済年金」は相続税の対象
場合によっては、配偶者が亡くなってからずっと受け取ることができる「遺族年金」だが、税金は一切かからないという。
「定年後に受け取る『老齢年金』は、一定額を超えると所得税や住民税が課されます。しかし、『遺族年金』は完全に非課税となります」
ただし、例外もあるという。配偶者が公務員や私立学校教職員として働き、「共済組合」に加入していた時期がある場合だ。
「2015年10月1日に年金制度が一元化されるまで、公務員や私立学校教職員は『共済組合』に加入していました。『共済組合』に加入していた人が亡くなり、配偶者や子どもが『遺族共済年金』を受け取る場合、相続税の課税対象となります」
配偶者や親が2015年9月以前に公務員や私立学校教職員だった場合は、相続税が発生する可能性を考えておいたほうがいいのだろうか。
「配偶者や子どもは相続税の基礎控除の枠が大きいので、相続税の支払いが発生する相続人は6%ほどです。そのため、過度に心配する必要はないといえます。また、該当したとしても、相続税の性質上、『遺族共済年金』を受け取るたびに課されるということはありません」
配偶者や親が亡くなった際に、大きなサポートとなる「遺族年金」。自分だけでなく家族のためにも、年金保険料を納めて備えることが重要といえそうだ。
(取材・文/有竹亮介(verb))