「魅力ある日本企業を探索しよう!初心者でもわかる企業分析術~会社四季報から~ 「企業研究講座編」」
本年1月からいよいよ新しいNISAが始まりましたが、これを機に資産形成を考えている方や既に始めた方のなかには、投資先の選定に悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、株式投資・企業分析のバイブルとも評される「会社四季報」の編集委員として、長年に渡り数多くの企業を取材・分析してこられた田宮寛之氏に、「会社四季報の読み方」を始めとした、「初心者でもわかる魅力ある個別企業の調べ方」についてお話しいただきました。
本講座はJPX公式YouTubeチャンネルから視聴可能です。
なお、本記事(本講座)は、情報提供を目的としたものであり、特定企業や特定銘柄への投資勧誘を目的としたものではありません。
そもそも会社四季報とは・・・?
会社四季報(以下「四季報」)は1936年、2・26事件があった年に創刊しています。内容を一言で表すと、「上場会社のデータブック」で、日本に上場している全ての会社が掲載されています。
業績や財務内容などが掲載されており、年に4回(3月、6月、9月、12月)発行されるため四季報という名前になっています。四季報は情報量が非常に多く、読むのが億劫に思われる方もいるかもしれませんが、まずはこれから解説する5つのチェックポイントに着目して読んでみましょう。
売上高
ここでは、エービーシー・マート(2670)を例に挙げて説明していきます。
最初のチェックポイントは、四角く赤で囲った部分の左側の「売上高」です。「連19.2」の売上高は266,703と書かれていますが、単位は百万円ですので2,667億300万円です。売上高が年々増加していれば成長している会社である可能性が、また逆に減少していれば事業規模が縮小している会社である可能性が高いと言えます。
なお、「連19.2」というのは「2019年2月期連結決算」という意味です。連結決算とは、親会社、子会社等企業グループ全体と同一組織とみなして行う決算のことで、上記の例では2018年3月から2019年2月までの業績について、記載されています。
営業利益
2つ目のチェックポイントは「営業利益」です。損益計算書においては、「利益」と言っても、営業利益、経常利益、純利益と3種類もあり、どれを見たらよいのか困る方もいらっしゃるかもしれませんが、まずは本業で稼いだ利益を示す営業利益に注目しましょう。ちなみに、経常利益や純利益は本業以外で稼いだ利益や本業以外で被った損失を含んでいます。
例としてお示ししているエービーシー・マートは靴の小売業が本業ですが、2019年2月期の連結決算における営業利益は439億2,900万円です。営業利益は年々増加トレンドにあり、売上高の増加に伴い営業利益も増加している会社であることがわかります。
なお、売上高が増加トレンドにあっても、広告費や人件費など様々な経費がそれ以上に増加した結果、営業利益が前年より減益となってしまう場合もあるので注意が必要です。
ちなみに、売上高と営業利益を見る際に気を付けるポイントが、トレンドです。例えば、大地震や疫病の流行、世界経済の危機などで業績が悪化することがあります。この場合、売上高や営業利益が前年よりも減少、もしくは赤字になることがありますので、トレンドを確認する際には複数年単位での業績を確認することが重要になります。
平均年齢、平均年収
3つ目と4つ目のチェックポイントは、「平均年齢」と「平均年収」です。
ここからは、ビール類メーカーのサッポロホールディングス(2501)を例に挙げて説明していきます。
右下の四角く赤で囲った部分の左側が平均年齢、右側が平均年収です。
平均年齢が若い会社は、リスクはあるものの急成長する可能性があり、平均年収が高い会社は安定的に業績を伸ばしている傾向があります。
また、平均年収は会社の経営が上手く行っているかどうかを表す指標になります。なお、業界によって年収は大きく異なるため、年収の高低を判断するためには、同業他社で比較することが重要です。
自己資本比率
最後のチェックポイントは、「自己資本比率」です。
自己資本比率とは、会社全体の資産のうち、自己資本が占める割合を示す数値であり、一般的には自己資本比率が小さいほど、借入等の負債が多く、自己資本比率が高いほど借入等の負債が占める割合が低いと言えます。ここからわかるように、自己資本比率は会社経営の安定性を表す数値であり、高いほどよいとされています。
この自己資本比率も業界によって値が大きく異なるため、平均年収と同様に同業他社で比較することが重要です。
業績予想の方法は2種類:東洋経済予想VS会社予想
前述の5つのチェックポイントを確認したうえで、余裕があれば業績予想も見てみましょう。四季報に記載の業績予想には東洋経済予想と会社予想の2種類があります。
この二つはどう異なるのか、アルファ(4760)を例に挙げて見ていきましょう。
まず、赤で囲まれた数値が東洋経済予想です。連結の2024年8月期の連結業績予想は、売上高63億円、営業利益2億円、経常利益1億9千万円、純利益2億円です。一方で、青で囲まれた数値は当該企業が発表している会社予想で、全体的に東洋経済予想よりも低くなっています。
東洋経済では会社に独自取材したうえで会社予想を基準としたオリジナルの業績予想を立てているため、東洋経済予想と会社予想には差が生じています。
右上の赤く囲った「【独自増額】」というのは、東洋経済が会社予想に対して独自に増額予想していることを表しますが、逆に「【独自減額】」と記載されている場合には、東洋経済が会社予想に対して独自に減額予想していることを表しています。この2種類の予想の両方をチェックしていただき、会社選びの参考にしてみてください。
ちなみに、上の画像を見ていただくと「連」ではなく「◇」と記載されていますが、この二つは会計基準の種類を表しています。「連」は日本会計基準、「◇」はIFRS(国際財務報告基準)を意味しており、会社がどの会計基準を採用しているかがわかります。
営業利益率
他にも是非見ていただきたいポイントが、「営業利益率」です。営業利益率は、売上高に対する営業利益の割合を表しています。つまり、本業からどのくらい効率的に利益を出せているのかがわかります。
営業利益率の計算式は以下のとおりです。
営業利益率=営業利益÷売上高×100
例えば、売上高100億円の会社で営業利益が20億円だとすると、営業利益率は20%です。
このように、営業利益率を計算することで、同業他社との経営効率を比較することができます。
主力事業やもっとも重要な事業はなに?
次に、会社の主力事業や会社にとって最も重要な事業の見分け方についてお話しします。
今回は、例として京王電鉄(9008)を見ていきましょう。
まず、赤く囲った「【連結事業】」を見ると、この会社が行っている事業のうちどの事業が重要なのかがわかります。「運輸業32」とありますが、これは鉄道やバスによる売上高が2023年3月期のうち32%を占めているという意味です。次にある「流通業29」は、デパートやスーパーなど小売業の売上高が29%となります。同様に「不動産業14」は、土地やビルの賃料や不動産仲介などの事業での売上高が14%、「レジャー・サービス業14」はホテルやゴルフ場、レストランなどの売上高が14%ということを示しています。
また、「(4)」、「(23)」などの()に囲まれた値は、部門ごとの営業利益率です。運輸業や流通業は4%と低い値ですが、不動産は23%と高くなっていることがわかります。
以上の情報から、部門別の売上高と営業利益を計算した値が、上の画像です。
京王電鉄で最も営業利益が高い部門は、不動産業ということになります。京王電鉄と聞くと、運輸業や流通業のイメージが強いかもしれませんが、実際に会社がどの部門で大きく利益を上げているのか、計算してみることが重要です。
もう一つの例として、しょうゆメーカーのキッコーマン(2801)を見てみましょう。
赤く囲った「【海外】75」は海外売上高比率のことで、全売上高のうち75%が海外での売上高という意味です。キッコーマンはしょうゆで日本国内だけでビジネスをしているイメージがある方も多いかもしれませんが、グローバル企業であることがわかります。そのため、業績予想や将来性を考える場合は、アメリカをはじめとした海外の景気動向が重要になります。
「企業の継続性」にリスクがある会社一覧
四季報では、個別企業の情報とは別に巻頭に各ランキングや巻末にその他データを載せています。中でも注目していただきたいのが、企業の継続性にリスクがある会社一覧です。言い換えると、倒産の可能性が高い会社ということになります。主に借金が多い会社や売上高が大きく減少している会社、不祥事を起こしている会社などが掲載されています。こちらは毎号ごとに更新されますので、最新号をチェックするようにご注意ください。
ここまで四季報の読み方について、様々な視点から説明していきました。皆さんが会社分析をされる際には、是非四季報を活用して会社選びの参考にしてもらえたらと思います。
2007年、株式雑誌の『オール投資』編集長に就任。2009年、就職・採用・人事などの情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げて編集長となる。2011年~13年には『週刊東洋経済 就活臨時増刊号』の編集長を兼務、2014年から「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職。
これまで取材してきた業界は自動車、化学、食品、住宅、生保、損保、証券、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、人材ビジネスなど。
最近は学生の就職活動に関する執筆や情報配信、講演が多い。全国の大学や大学関連団体などを対象に年間約70回の講演を行っている。