福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第12回:決済方法の具体例(返済買い)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第11回:決済方法の具体例(返済売り)

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今回も決済方法についての解説になります。信用取引の売り建ての返済についてです。信用取引の売り建ては、株券を借りて売り、市場で買い戻して返済を行います。そのため、株価が下落すると予想されるとき、現物株を持っていなくても取引を行うことができるのが特徴です。

では具体的に見ていきます。

今回例として取り上げるのは通信大手2社です。銘柄はNTTとKDDIです。取り上げる理由ですが、業績は安定しているものの一旦高値をつけて下落し始めると、需給の悪化によって下落が続くことがあることや、信用取引の売り建ての返済で重要な要素である「流動性が高い」ためです。

株券を持たずに信用取引で売り建てを行った場合、借りた株券を市場で買い戻して返済する必要がありますが、中小型株で流動性が低い銘柄の場合、買い戻す際に売り物が少なくなってしまうと、予想以上に高い価格で買い戻さなければならなくなることがあるため、信用取引で値下がりを狙って新規で売り建てを行う場合、商いが薄い中小型株などは避けた方が良いというのが流動性を重視する理由です。

では、まずNTT(コード9432、日本電信電話)から見てみましょう。NTTは2023年6月に1株を25株に分割したため、分割前の4,000円台から一気に25分の1の価格になり投資しやすくなりました。

その後、今年に入って新NISAがスタートしたこともあって人気化し、1月23日には192.9円の高値をつけています。

ただ、そのあと株価はさえない値動きとなったことに加え、5月に入ってから昨年の株式分割後につけた安値を下回ってしまいました。そこで信用取引の売り建てを活用します。

分割後の安値157.6円(2023年8月4日)を割り込んだのが2024年5月14日(この日の終値は159.5円)だったため、翌営業日の15日の取引終了時にNTT株を価格156.7円で1,000株、信用取引で売ったとします。

この時の売り建て金額は156.7円×1,000株=15.67万円、委託保証金は15.67万円×30%=47,010円となりますが、最低保証金が30万円であるため、30万円以上の保証金を信用取引口座に入れておく必要があります。そのため今回は40万円とします。

売り建てを行ったあとの値動きですが、6月に入ってからも下落が続き、6月18日には144円の年初来安値をつける場面がありました。ただ、反発に転じたため、6月20日の終値である146円で買い戻しました。

結果は・・・。※以下、税金や手数料などのコストは考慮していません。

156.7円(売り建て価格)-146円(買い戻した価格)=+10.7円
10.7円×1000株=10,700円(利益)

となり、10,700円の利益が出たことになります。この結果信用取引口座の委託保証金に1.07万円が加算されるため、売り建て玉を買い戻して返済したあとの委託保証金の額は40万円+1.07万円=41.07万円となります。

委託保証金の額が41.07万円になると、41.07万円÷30%(委託保証金率)≒136.9万円となり、金額や株数面で売り建て可能な銘柄の選択肢が広がります。

一方で、損失になった場合はどうなるのでしょうか。

例として取り上げるのはKDDI(コード9433)です。KDDIは2024年1月22日に5,080円の高値をつけましたが、そのあと株価は下落に転じました。また、4月3日に年初来安値を更新(この日の安値は4,378円、2024年1月から4月2日までの安値は4,392円)するなど売り物に押されていました。

そこでKDDI株を4月11日の終値4,305円で100株売り建てました。実際の売り建ての金額は4,305円(売値)×100株=43.05万円になりますが、委託保証金は40万円とします。

その後、株価は予想通りに下がり、4月19日の取引時間中は4,191円の安値をつけましたが、まだ下がるかもしれないと思い、売り建玉を保有し続けましたが、予想に反して反発してしまい、5月13日に4,473円をつけたことから、翌14日の終値4,407円で売り建ての返済を行いました。

結果は・・・。

4,305円(売り建て価格)-4,407円(買い戻した価格)=-102円
-102円×100株=-10,200円(損失)

となり、1.02万円の損失が発生します。この時、信用取引口座の委託保証金から1.02万円が差し引かれるため、委託保証金の額は40万円-1.02万円=38.98万円に減少します。

この委託保証金の減少によって信用取引で売り建て可能な金額が40万円÷30%≒133万円から38.98万円÷30%≒129.9万円になってしまいます。

このように、信用取引の売り建ての返済を行ったあとに損失が発生した場合も委託保証金から損失額が差し引かれ、取引できる金額が減ってしまいますので注意が必要です。

また、今回は最低単元での売買で損失も少ないように感じられるかもしれませんが、信用取引の売り建ての返済を行う場合、売り建てた銘柄が特別買気配になったり、値幅制限いっぱいまで上昇して取引が成立しなかったりした場合、返済できるまで損失額が膨らんでしまうことが考えられますので、中小型株などの流動性が比較的低い銘柄の売り建ては避けるとともに、欲を出さずに早めに返済を行うことが重要です。

【第13回】はこちら

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/
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