自動的に年金が分割されるわけではなく「申請」が必要!

「離婚すると元配偶者の年金を半分もらえる」って本当?

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「離婚すると、元夫婦間で婚姻期間の年金が半分ずつに分割される」と聞いたことがある人は多いだろう。実はこの情報、すべての離婚に当てはまるわけではなさそうだ。

離婚時の年金分割は「3号分割制度」と「合意分割制度」という2種類があり、夫婦それぞれの働き方によって使える制度が変わってくる。また、離婚したら自動的に分割されるというものでもない。

ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子さんに、離婚時の年金分割について教えてもらった。

「婚姻期間中の収入」をもとに年金を分割する制度

「そもそも離婚時の年金分割は、老齢年金のすべてが分割されるわけではありません。対象となるのは『老齢厚生年金』です。つまり、婚姻期間に配偶者が個人事業主だった場合、厚生年金に加入していない状態で、分割できる老齢厚生年金がないため、相手の年金を分割してもらうことはできません」(川部さん・以下同)

婚姻期間に相手もしくは自分が会社員や公務員で厚生年金に加入していた場合に、年金分割ができるということだ。ところで、婚姻期間中の年金とはどのように計算されるのだろうか。

「厚生年金は給与額によって変動するものなので、婚姻期間中の給与をもとに算出していきます。例えば、会社員の夫が年収600万円、無職の妻が年収0円で、婚姻期間が10年とすると、夫婦の収入の合計は6000万円です。年金分割の割合が2分の1になった場合、6000万円の半分3000万円が妻の収入としてカウントされることになるため、妻は10年間で3000万円稼いだ人と同じ老齢厚生年金を受け取れます。一方、夫の収入は6000万円から3000万円に減ることになります」

この算出方法から、川部さんは「年金を分けるというより、婚姻期間中の給与を分けるというイメージのほうが近い」と話す。

そして、もうひとつ離婚時の年金分割で忘れてならないのが「請求」だ。

「離婚時の年金分割は自動的に実行されるものではありません。『3号分割制度』も『合意分割制度』も、原則として離婚等をした日の翌日から2年以内に、近所の年金事務所または年金相談センターで請求の手続きを行う必要があります。2年が過ぎてしまうと、分割できなくなります」

請求すれば自動的に年金が半分になる「3号分割制度」

離婚時の年金分割の基本を押さえたところで、2種類の分割制度について見ていこう。

●3号分割制度
婚姻期間中に国民年金の第3号被保険者(※)だった側が請求することで、2008年4月1日以降の第3号被保険者期間の元配偶者の厚生年金記録を2分の1ずつ分割できる制度。
※厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(年収が130万円未満であり、かつ配偶者の年収の2分の1未満の人)

「『3号分割制度』のポイントは、第3号被保険者だった人が請求した場合、元配偶者の同意がなくても分割が実行されるという点です。元夫婦間での話し合いや双方の合意などが必要ないので、会社員や公務員として働いていた側は思いがけず年金が減ってしまうことになります」

「3号分割制度」が請求された際には、「標準報酬月額決定通知書」という文書が送付されるようだ。標準報酬月額とは、受け取っている給与額に応じて1~32の等級に当てはめて導き出すもの。「3号分割制度」によって過去の給与額が増減するため、標準報酬月額も変更されるのだ。

「婚姻期間中に働いていた側も第3号被保険者だった側も、その間の厚生年金は2分の1ずつになると思っておいたほうがいいと思います。ただし、ひとつ注意点があります。『3号分割制度』が始まったのは2008年4月1日で、それ以前に第3号被保険者だった期間の年金は『合意分割制度』で分割しなければいけないということです」

元夫婦間での話し合いが必要な「合意分割制度」

●合意分割制度
元夫婦の一方または双方が請求することで、婚姻期間の厚生年金記録を分割できる制度。

「『3号分割制度』との違いは、夫婦ともに厚生年金に加入していた場合でも請求できることと、双方の合意がない限り分割はできないということです。元夫婦で話し合い、ともに合意すれば、分割方法は2分の1ずつでなくてもいいという点も特徴です」

分割の割合は決められていないため、離婚後の収入が少ないであろう側の年金を多めにするといったこともできる。ちなみに、家庭裁判所を挟んで協議を行うと、2分の1ずつの分割で落ち着くケースが多いようだ。

働き方によって使える制度は異なるが、婚姻期間中に共働きの期間も第3号被保険者になった期間もある場合は、どちらの制度を使うといいだろうか。

「『合意分割制度』の請求を行うと、2008年4月1日以降に第3号被保険者だった期間は自動的に『3号分割制度』を請求したと見なされるので、共働きの期間も無職の期間もある人だと『合意分割制度』を選ぶケースが多いかもしれません。ただし、共働きだった期間に配偶者より収入が多かった側からすると、『3号分割制度』を請求し、相手が第3号被保険者だった期間の年金だけを分割したほうが年金が減りにくいといえます。互いに納得のいく方法を見つけられるといいでしょう」

年金以外も要注意! 離婚時の金銭トラブル

離婚時の年金分割はルールが整備されているため、元夫婦間でも納得しやすいものといえるだろう。実は、年金以外のお金にまつわるもののほうがトラブルにつながりやすいという。

「家や土地などの不動産は半分に分けるというわけにはいかないので、トラブルになりやすいといえます。例えば、妻が頭金を払って、残りのローンを夫が払うといった場合は、その不動産をどちらが保有するかといったことでもめやすいでしょう。解決するには、家庭裁判所を挟んで協議を重ねていく方法しかないかもしれません」

最近は、資産形成を夫婦で分担している家庭もあるが、離婚となった場合にはトラブルになりかねない。

「それぞれに証券会社の口座をつくるのが面倒という理由で、片方の名義の口座で夫婦まとめて資産形成している家庭や、夫はiDeCo、妻はNISAと分担している家庭の話を聞くことがあります。夫婦で一生添い遂げる場合は問題ありませんが、万が一離婚となった場合、相手の名義の口座の資産を分けてもらうということは難しいでしょう」

夫婦生活を続けていくにせよ、離婚するにせよ、夫婦間でのトラブルを回避する方法は「自分のお金は自分で管理すること」。

「現代は共働きの時代なので、自分で稼いだお金は自分で管理することが大前提になると思います。婚姻期間中に築いた財産は夫婦共有のものと見なす考え方がある一方で、夫婦それぞれに自分の財産を所有できるという法律もあります。お金はもちろん、不動産や車なども共有名義にせず、持ち主を明確にしておくことで、離婚だけでなく相続などのときにも対応がラクになるでしょう。夫婦で話し合い、資産をどのように分けて保有するか、考えていくことが理想です」

離婚時の年金分割をはじめとする制度を把握しておくと同時に、夫婦それぞれに資産を管理しておくことで、万が一別れることになった場合に互いに独り立ちしやすくなるだろう。夫婦ですべてを共有するのではなく、分けておくことが自分のためにも相手のためにもなるといえそうだ。

(取材・文/有竹亮介(verb))

お話を伺った方
川部 紀子
FP・社労士事務所川部商店代表、ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。日本生命保険相互会社に8年間勤務し、営業の現場で約1000人の相談・プランニングに携わる。2004年、30歳の時に起業。個人レクチャー・講演の受講者は3万人を超えた。著書に『得する会社員 損する会社員』『今すぐはじめられる NISAとiDeCo』がある。
著者サイト:http://kawabe.jimusho.jp/
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
用語解説

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