福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第13回:決済方法の具体例(現引きまたは品受け)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第12回:決済方法の具体例(返済買い)

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前回まで信用取引の決済方法である「返済売り」(転売)や「返済買い」(買戻し)について解説しましたが、信用取引にはほかにも2つ決済方法があります。1つは「現引き(ゲンビキ)、または品受け(シナウケ)」と呼ばれる、信用取引で買い建てた場合の返済方法になります。そしてもう1つは「現渡し(ゲンワタシ)、または品渡し(シナワタシ)」と呼ばれ、信用取引で売り建てた場合の返済方法になります。

初心者のみなさんは初めて聞く言葉だと思いますので、まず言葉の意味から詳しく解説します。

買い建てた場合の返済方法である「現引き、または品受け」の「現(ゲン)」や「品(シナ)」とは、現物株のことを指します。また、引き(ヒキ)、受け(ウケ)とは、受け取ることを指します。すなわち、現物株を受け取ることを指しているのが「現引き、品受け」(以下、現引き)なのです。ただし、現物株を受け取るためには、買い建てた際に借りた購入代金を返済する必要があるため、購入代金を支払って現物株を受け取るというのが「現引き、または品受け」の意味になります。

信用取引で買い建てた場合の返済方法として多いのは「返済売り」ですが、ここで解説している「現引き」も選択肢として是非覚えておいてほしい決済方法になります。

なぜなら、制度信用取引の場合、6ヵ月の返済期限があるので、期限が迫れば必ず返済しなければなりません。しかし「現引き」をすれば、前述のように購入代金を支払って現物株を受け取ることになるため、保有期限の心配が無くなるからです。

また、信用取引の建玉を保有しているあいだは金利などのコストが発生しますが、「現引き」したあとは現物株を保有することになるため、金利などのコストが発生しません。

このように、信用取引の買い建てを「現引き」することには、メリットもありますが、「現引き」する際にはそれまでにかかったコストと購入代金をすべて揃えて支払う必要があることには注意が必要です。

仮に証券会社の口座に余裕資金がある人はその余裕資金を使って「現引き」することができますし、証券会社以外に資金がある人は、建玉のある証券会社に購入代金など全額を入金することで「現引き」が可能です。また通常「現引き」には手数料が発生しませんので、躊躇することなく手続きを行うことが可能と思われます。

さらに「現引き」の方法もいたって簡単です。ネット証券などの場合、信用取引の決済の選択肢の中に「現引き」とありますので、その項目を選び、資金が口座に揃っていない人は期日までに入金を行って建玉の決済が行われるのを待つことになります。

では具体的な例を見てみましょう。

2024年3月1日株式分割を発表した三井不動産(コード8801)を例に解説します。2024年1月10日に前年の終値ベースの高値を上回ってきたことから、翌11日の始値3,696円で100株、信用取引で買い建てました。保証金は40万円とします。

買い建てたときは短期での売買を想定していましたが、順調に値上がりしていたためもう少し値上りするか様子を見ようとしていたところ、3月1日に、同月31日を基準日とする1対3の株式分割を行うと発表しました。

この発表を受け、翌営業日に一旦上昇したあと伸び悩んでいましたが、分割の権利付き最終日となる3月27日に近づいたところで上昇の勢いが加速し、3月18日には4,520円をつけました。そこで、分割後も保有し続けたいと思い、この日の取引終了後に「現引き」をする手続きをしました。

この時に用意する必要がある資金は、購入代金の3,696円×100株と、保有期間分の金利などのコスト分となります。

具体的な金額は・・・
3,696円×100株+金利などのコスト=369,600円+金利などのコスト

となります。今回のケースでは、保証金が40万円ありますから、金利などのコストが大きく膨らんでいないと仮定すると、保証金の範囲内で「現引き」ができることになります。

もちろん、権利落ち前に「売り返済」を行って売却代金を受け取ることも可能ですが、分割後も値上がりに対する期待があるような場合では、こうした「現引き」も選択肢の一つとして覚えておくと良いのではないでしょうか。

【第14回】はこちら

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/

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